1) 情報・電子系応用分野におけるテクノアントレプレナーシップに富む工学知の創造と活用
(Techno-Entrepreneurial Achievement for Social/Economic Well-Being)
 
   英語の“Achievement for Social/Economic Well-Being”を日本語では「情報・電子系応用分野における工学知の創造と活用」と表記しました。“well-being”とは、「人類の富と豊かさ・幸福の実現」の意味に用いています。日本語で特に「情報・電子系」と表記した理由は、現在の社会・生活基盤に「情報・電子」は欠かせない存在であるためです。
 20世紀末に至って、情報処理と通信が結びつき、インターネットに代表される情報通信ネットワークが社会基盤(インフラストラクチャ)の役割を果たし始めました。産業活動も家庭生活も個人行動も、これからは情報通信ネットワークを基盤としたディジタル技術によって営まれます。既存産業もこの新たな産業基盤の上に再構築されようとしています。 また、ディジタル技術によって知識の生産性がいっそう高まり、知識が富と豊かさの幸福形成の主役になりつつあります。ディジタル技術・情報通信ネットワークという新たなインフラストラクチャを支えているのは、情報処理と半導体の技術です。両者は20世紀半ばにほぼ同時に世に出て、半世紀をかけて互いに進歩を促し合ってきました。 またその中核には常に計測技術の発展がありました。情報処理、半導体、計測の連環は、二十世紀後半の工学知のハイライトであるとともに、本財団の理念モデルにもなっています。
 
     
   情報通信ネットワークが社会基盤となりつつあるいま、この三者連環が生み出す工学知に加えて、超電導技術やナノテクノロジーの応用への期待は高まらざるを得ません。  
   
  2) 個人/人類の生命に関わる応用分野におけるテクノアントレプレナーシップに富む工学知の創造と活用
(Techno-Entrepreneurial Achievement for Individual/Humanity Well-Being)
 
   英語の “Achievement for Individual/Humanity Well-Being”を、日本語では「個人/人類の生命に関わる応用分野における工学知の創造と活用」と表記しました。“individual”とは「個人」を意味し、“well-being”とは「人類の富と豊かさ・幸福の実現」を意味しています。  
     
   20世紀前半は化学、物理学が主導的先端知の役割を果たし、理工学の世界においては、物質の究極として素粒子の研究が行われ、固体論の発展の中で、半導体が製造されるようになりました。これに対して、20世紀の後半から21世紀は、生命科学の時代であると言われます。その基礎は、ワトソン、クリックによるDNAの構造解明をはじめ、20世紀後半に展開した分子レベルにおける諸生命現象の研究にあります。生命科学は今や生命の根源的理解に向かって進み始めました。その工学的利用によるバイオ技術は生命の性格すら変化しようとしています。しかも最近の生命科学技術は、ディジタル技術と深い関わりを持つようになりつつあります。これらの発見型研究に基づいて、生活者の豊かさ・幸福、病苦からの解放というニーズに応える工学的応用が同時並行的に進んでおり、生命科学の知は人々の富と豊かさ・幸福の増進に貢献する新しい増大のフェーズに突入しています。生命系の工学知の創造と活用は、情報処理、半導体、ナノテクノロジー、計測などの工学知と結びつきながら一層の発展を見せています。  
   
  3) 環境系応用分野におけるテクノアントレプレナーシップに富む工学知の創造と活用
(Techno-Entrepreneurial Achievement for World Environmental Well-Being)
 
   英語の “Achievement for World Environmental Well-Being”を、日本語では「環境系応用分野における工学知の活用成果」と表記しました。“well-being”とは「人類の富と豊かさ・幸福の実現」を意味しています。  
     
   人が生きていれば、必ず環境負荷が生じます。人類最初の農耕文明を築いたメソポタミヤ文明は、自らのもたらした環境変化によって滅んだともされています。採集経済の時代や前近代的農業の時代の環境負荷に比して、現代の1人当たりの環境負荷は、科学技術の発展により著しく大きくなっています。近年の人口増加と産業発展の結果、大量生産・大量流通消費・大量廃棄による環境劣化は増大し、不充分な知識と知識の誤った適用がこの脅威を深刻化させました。人類の生存、生態系の持続が危機に瀕し、環境改善のための早急な努力が求められています。現状のままの生産効率・資源利用効率では人類の生存は不可能になることが予測されています。本財団は、人類の真の豊さと環境改善は両立できる、すなわち、知識が正しく適用されれば、科学技術の貢献によって環境の改善ができ、環境を改善するには経済の持続的成長が不可欠のものと信じています。むしろこのことは、科学技術の使命であり、多くの科学技術分野や学問分野の領域を越えた協働が求められています。  
   地球環境を超多要素のシステムと見立て、大気循環、水循環、生態系などのマクロモデル構築の努力が各国で行われています。モデル構築とともに、モデルの検証、観測もおこなわれようとしています。一方で、生命のミクロな基本単位である細胞の中には環境の投影があるものとして、その実態を測定する努力も行われています。環境分野こそ工学の貢献が最も期待されます。  
     
   本財団では、環境改善と経済の持続的発展両立への突破口として、環境負荷の正確なデータを提供する計測能力の革新を重要視します。環境系応用分野においては、持続的発展に向かって技術的に解決すべき課題や目標を明確にすることが工学知の創造と活用として重要です。環境系応用分野における人類の富と豊かさ・幸福とは、工学知の創造と活用によって環境が改善されることにあります。