環境系応用分野の2001年武田賞は、環境マネジメントの新しい尺度である「エコリュックサックとMIPS」を提唱したFriedrich Schmidt-BleekとErnst U. von Weizsaecker に贈る。
   Schmidt-Bleekは、1993年にエコリュックサックとMIPS(Material Input Per unit Service)の概念を体系化して発表した。人間は自然界の恩恵を受けて物質的豊かさを築いてきたが、必要な資源を得るためにそれよりもはるかに多い膨大な量の鉱石、砂、水その他もろもろの物質を動かし自然界に負荷を与え続けてきた。Schmidt-Bleekは自然界におけるこの膨大な物質の動きが環境負荷の本質であると考えた。人間が使用する製品やサービスは、それらを得るために動かされる物質をリュックサックに入れて背負っている。これが彼の独創性に富むエコリュックサックの概念であり、重量で表される。さらに製品の価値は、それが提供するサービスにあるとし、製品のエコリュックサック値と提供されるサービス量の比をMIPSと定義した。これによって、製品の与える環境負荷が、MIPSという工学的尺度で計量可能になった。
   von Weizsaeckerは1991年から2000年まで所長を努めていたブッパータール研究所に、エコリュックサックとMIPSを発案したSchmidt-Bleekを招聘した。von Weizsaeckerの働きかけを受けて、エコリュックサックとMIPSの概念は、素材中心であったものから、エネルギー効率やvon Weizsaecker自身のテーマである資源生産性との関連性、さらには毒物・有害物等との関連性が明確になり、内容的にも一層充実したものとなった。さらにvon Weizsaeckerは著書、「ファクター4」でエコリュックサックおよびMIPSの概念の重要性を紹介し、世界的な普及に貢献した。ブッパータール研究所は現在もSchmidt-Bleek と協力関係を持ちMIPSの計算に必要な基礎データ蓄積や普及活動を推進している。 
   製品のエコリュックサックの値、およびサービスの量は、製品の全生涯にわたって計算され、エコリュックサックをより小さい値に、サービスの量をより大きい値に設計することにより、製品の環境に対する負荷をより小さいものとすることができる。エコリュックサックとMIPSは重量を単位とする単純な尺度であり、産業分野における実用的価値も高い。
   MIPSは簡単な原理に基づく一次近似値であるが、複雑な環境負荷を総括的に評価でき、その計算結果は再現性が高い。また、製品やサービスの環境に対する負荷を表すMIPSを経済活動における市場価格に反映させることにより、環境保全と市場経済を結びつけることが期待できる。
   このように、この二つの尺度は、持続可能な社会に向けた出発点を与えることとなった。この工学的創造性に富む業績に武田賞を贈る。
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