The Takeda Award 理事長メッセージ 受賞者 選考理由書 授賞式 武田賞フォーラム
2001
受賞者
講演録
リーナス・トーバルズ
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リーナス・トーバルズ
   
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図 1

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今回の受賞者は、とても興味深い組み合わせだと思います。Richard Stallman 氏は私のことを時として「エンジニア」と呼びます。そこで私は彼のことを「予言者」と、そして坂村博士のことを「研究者」と呼びたいと思います。Richard Stallman 氏が私のことを「エンジニア」と呼ぶとき、そこには尊敬の念もあるでしょうけれど、同時に私が自分の仕事に対するほど、ビジョンにはこだわっていないという意味合いも込められていると思います。そしてそれは事実です。私は、Stallman氏が描く多くの理想に同意していますが、それと同時に日本で作られたこの小さなPC上で、オープン ソースのオペレーティング システムである Linux だけでなく、多くのオープン ソースのプログラムが走るという事実を、大変誇りに思っています。実際にこのPCで稼動しているすべてのプログラムが、基本的にオープン ソースです。私がこのプレゼンテーションのために使用しているプログラムは、「キー プレゼンター」と呼ばれており、完全なオープン ソースのソフトウェアです。

しかし、それと同時に、私はこのコンピュータで動作しているソフトウェアの別の部分の設計と作成に関与していました。このソフトウェアは実際に CPU上で稼動し、かつ CPU を稼動させていますが、オープン ソースではありません。オープン ソースはとても面白いものです。だからこそ、私は今ここでオープン ソースを奨励したいと思っているのです。技術的に優れた製品を創るには、オープン ソースは楽しく、面白く、そして非常に効率的です。同時に、予言者として私はここにいるわけではないのです。

図 2

どのように開発が行われたのか、少しお話ししましょう。ここ数年、講演を行う機会は少なくなりましたが、技術的な内容について講演することがほとんどでした。ここにいらしている方々に技術的なお話をするのは場違いだと思いますので、その代わりに私が開発についてどのように考えているか、そしてなぜオープンなアプローチが重要であり、素晴らしい考え方であると考えているかについてお話ししたいと思います。私はいつも自分の講演を、「本当にありがとう」という言葉で始めるようにしていますが、今回は、是非、武田計測先端知財団にこの言葉を贈りたいと思います。また、GNU プロジェクトから私がオープン ソースフリープログラムの組織に参加する以前に、そしてまた私自身がそのカーネルの設計者として最もよく知られるようになったプロジェクトに参加した後で、どれだけ多くの人々が Linux コミュニティに関わってきたかということを、多くの人々に知ってもらいたいと私はいつも願っています。1991 年にカーネルの設計を開始し、私が最初のバージョンをリリースした時には、それは10,000 行のコードでした。10 年後の今日、これはおよそ 3 千万行になっています。その大部分は、私が書いたのではありません。このプロジェクトに関わった多くの方々のお陰です。本当にその方々にお礼を言いたいと思います。

次に、私が「分散型開発」と呼んでいるものについてお話ししたいと思います。これは、開発方法に対する私の意見です。あくまでも個人的な見解ですし、それが正しいと主張しているわけではありません。実際、私はあまり講演が好きではありません。この講演の後で質問をお受けしましょう。もし反対意見があったとしても、問題ではありません。

図 3

オープン ソースが何故それほどまでに素晴らしいものか、その理由の一つをお聞かせしたいと思います。開発とは設計し、製作し、販売するという古典的な概念ではまったくないというのが、エンジニアとして、また開発者としての私の見解です。これは、開発が実際に行われる方法ではありません。少なくとも私が関与したプロジェクトではなかったことです。

開発は、全ての製品が生涯をもっているという点において、生物学的なプロセスに似ています。製品は通常、少数のユーザーを持つ小さな存在から始まります。その生涯を通して、ユーザーからのフィードバックとそれを製品の中に入れる仕事をする開発者のお陰で、製品は進化します。しかもそれは、ソフトウェア、ハードウェアに関わらず、単体としてではなく、他のより大きなシステムの一部として進化するのです。この点から、製品は生態系における生命体と大変よく似ています。
 
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