請川先生講演
1.始めに
2.エネルギー技術開発の考え方
3.地球温暖化とCO2対策
4.エネルギーセキュリティ技術
5.情報化社会とエネルギー
  (質疑応答)


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[図 10]

[図 11]

[図 12]

[図 13]

[図 14]

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3.地球温暖化とCO2対策
  次にCO2の話に移ります。ここで温暖化が悪いのではない、ということをまず申し上げたい。そもそも、この地球の表面温度は、 温暖化がなければ、255 K(マイナス18℃)です。非常に雑駁に申し上げれば、太陽系の惑星の表面温度は、太陽からの距離とその惑星の半径 で決まると言えます。水星、金星、地球、木星、それぞれの惑星に温暖化効果が無かったら表面温度はもっと低い。地球のアルべド(太陽から 降り注いだ光を地球がどれだけ反射するかの割合:反射能)は、0.3で、3割は太陽のエネルギーを直接反射して宇宙に戻しています。このアル べドと、太陽からの距離と、惑星の半径から、それぞれの惑星の有効放射温度が出てきます。例えば金星は227 Kですが実際には750 K、 木星は 98 Kですが実際には134 K、地球は255 Kですが実際には288 K、つまりプラス15℃です。ですから、地球という惑星に温暖化という効果が無かっ たら、今頃生物は生きていなかったということになります。温暖化が悪いのではない、変化することが悪い。人類が営々として築きあげてきた 穀倉地帯、いろいろな農業の技術開発、そういうものが、地球が温暖化することによって大きく崩れてしまう、それが悪いのです。

  どうして温暖化が起こるのかということをお話します。地球は太陽から可視光のエネルギーを受け、そのエネルギーを赤外光の エネルギーとして宇宙に戻しています。これがバランスしている限り温暖化は起こらないのです。バランスしなくなったから温暖化が起こる。 なぜバランスしなくなったかを説明します。これが現在の地球の大気の組成を示したものです。この組成の中で、大気に含まれている物質が どういう波長のエネルギーを吸収するかを表したものです。吸収が100パーセントの物質がいくら増えてもそれ以上温暖化は起こらない。 赤外の吸収帯の中で、まだ100パーセントの吸収になっていない波長のエネルギーを吸収する物質によって温暖化が起こる。主なものは、 2つの領域で、ここに吸収の波長を持っている物質はなにかというと、CO2はこの肩のところ、塩素化合物が一番底のあたり、亜酸化窒素が底 に近いところ、メタンも同じところにある。底に近いほど温暖化の影響は強くなる。CO21分子に対してメタンや亜酸化窒素が20倍あるいはそれ 以上の効果があるのはこのためだということになります。

  地球は大体1平方メートルあたり、1372ワット、太陽定数といわれるエネルギーを太陽からもらっているわけです。これは断面積 ですから、それを4で割ると、表面積あたりの平均は、342ワットになります。この一部が雲などで反射されて直接宇宙に戻ります。 また、地球の表面の氷や岩石でも反射されて直接宇宙に戻ります。全部で107ワットが宇宙に戻ることになり、アルべドが地球の場合0.3という ことになります。残りの168ワットは、一旦地表に吸収されます。地表に吸収された熱のエネルギーが大気の間と地表の間でやり取りされながら、 最終的に、大部分は大気から宇宙に、ごく一部の40ワットが直接地表から宇宙に戻されます。今一番問題になっているのは、この40ワットが ほんの微量ですが減ってきている。太陽からのエネルギーの入りと宇宙へのエネルギーの出のバランスが微妙に狂ってきたのが、温暖化という ことになります。

  CO2の話に戻ります。どのくらいCO2が出ているのかといいますと、非常にいい加減な数字ですが、60億トンの炭素が化石燃料を燃 やすことによって出ています。大気中には30億トンずつ、省略して3と書いてありますが、3ずつ増えているのです。残りはどこに行ったかとい うと、仕方が無いから海洋に吸収されたということにしましょう、ということになります。大気と陸の間の炭素のやり取りというのは、陸上の 生物がもっている5600億トンの炭素、その下に、植物の生えている地面の中に植物がもっている炭化水素の約2倍があるとみて結構です。ですか ら、土地が荒れるということは、このいわゆる有機質炭素がどんどん減っていくということです。大体その1割が死んで大気中に戻る、そして 光合成で同じ分が出てくる、ごくその一部は雨によって、地中から河川によって海洋に流れていきます。一方で海水中の炭素が陸に移入される、 これでバランスがとれているはずになっています。海洋の表層水の中の炭素は、そこからさらに中深層水との間でやり取りされ、あるいは遺骸 が有機物となって海底に堆積します。申し上げたいのは、炭酸塩岩あるいは有機物として海底に堆積されている量と実際に表層水で行ったり来 たりしている量、あるいは大気中に増える量の桁がいくつも違うということです。
  データを採っている人が違うので若干数字は違いますが、大気中に0.02(単位は10の20乗g/CO2)、水の中に1.30で2桁ぐらい上、炭酸 塩岩はそれのさらに3桁から4桁ぐらい多い。地球上の確認されているすべての化石資源に蓄積されている炭素は0.27です。ですから、重要なの は地球のバランスが何らかの形で狂って海底の炭酸塩岩が分解すると莫大な量のCO2が地表に出てくる可能性がある、ということです。逆に現在 の温暖化がその引き金になることが否定されない、それの方がはるかに大きな問題だと思います。

  これは、京都議定書の要点ですが、6つのガスを、1990年を基準にして日本は6パーセント減らしましょう、ただしフロンは90年に はあまり無かったので95年を基準にして減らしましょうということです。いつまでに6パーセント減らすのかといいますと2008年から2012年の 5年の間に減らしましょう。これを減らす1つの手段として、森林による吸収は認めます。京都メカニズムとして、以下の3つが認められました。 先進国の間で共同の省エネプロジェクトをやった場合それが役に立ったら認めます。CDMというのは、先進国と途上国と省エネプロジェクト等 を共同で実施することで、その結果の一部を先進国の削減としてカウントします。3番目は排出権取引で、先進国の間で排出権を取引してよろ しい、こういう3つの手段が認められました。
  アメリカとオーストラリアは、京都議定書からすでに離脱しています。このグラフは世界のCO2の発生量を国別にみたものですが、 アメリカとオーストラリアで25パーセントを占めています。アメリカが大部分です。ロシアも6パーセントですが、かなり苦しい状況にあります。 そういう中で、本当にCO2削減の基準が達成されるのか、危惧されます。

  わが国のCO2対策の考え方ですが、基本的には3段階あり、今年はその第1段階の終わりです。最終年度まで、細かいところを決める のではなくて、第1段階である程度決めて、そのなかで遅れているものを見直して第2段階、そして第3段階といくわけです。大きくはエネルギー 起源のCO2の発生量を90年比プラスマイナスゼロにしましょう。亜酸化窒素、メタンは0.5パーセント減らしましょう。亜酸化窒素は90年代には、 アジピン酸工場から約半分、自動車の排気ガスから約半分出ていたものです。アジピン酸工場から出た亜酸化窒素はもうほとんど出なくなってい ますから、これはいけるでしょう。これは先週ぐらいの新聞に出ていましたが、国民各界各階層のさらなる活動の推進、国民のボランティア精神 に基づく削減が1.3から1.8パーセントということになっています。これに関しては見直しましょうということが、すでに言われています。ほとん ど無理です。代替フロンは2パーセント増えます。これはやむを得ないのです。オゾンホール対策として、代替フロンがあるわけですが、温暖化 効果は代替フロンの方が大きいのです。これはやむを得ず増えるということになります。


  2億8700万トンの炭素を90年で排出していたわけですが、このまま放っておくと、2010年には3億4700万トンになるという予想値です。 2億7400万トンからさらに6パーセントを削減して、これは約束ですから、さらにフロン代替ガスの分2パーセントをさらに削減しなければならない わけです。90年レベルまで下げるために、こういう風に配分しましょう。実は、産業部門に2、民生部門に1、エネルギー部門に2というのがわが 国のエネルギー消費の割合ですが、民生には、かなり大きな期待をしております。




  その理由は、わが国は産業界が過去四半世紀にわたって省エネルギーに努力してきた結果として、産業界にこれ以上のCO2の抑制をお 願いしても実施がかなり難しい。一方では、ここにGDPの伸びとともに運輸と民生が増えている、産業界はほとんど増えていない、それだけ省エネ ルギーに努力してきた。運輸と民生はほとんど努力していない、だから運輸と民生には大きな期待をします、削減をしてください、ということに なります。
  これはCO2削減の基本的な考え方です。まずは効率を改善しましょう。これが第一です。なぜならば、産業界で省エネが進んだ一番大 きな理由は経済性の向上があったからです。いくら地球環境を守りましょうと言っても、ボランティアでは難しいわけですから、経済性向上が伴う 効率改善が一番良い。その次に何をやるかというと、炭素の少ない燃料への転換です。石油系・石炭系から天然ガス系あるいは水素へ、次に原子力 へ、カーボンフリーと言われる再生可能エネルギーへ、こういうものに変えていきましょう、ということです。これは効率改善から見ると、原子力 は除くとして、それ以外は、明らかに経済性は劣る。このあたりをどういうふうに考えていくかが重要です。
  次にそうは言っても出たものはどうしましょう、これを分離回収して固定化しましょう。再利用や生物的あるいは化学的に固定化する 方法、海に沈めてしまう方法、地中に固定する方法、いずれも検討されています。そう簡単ではないと言われています。海洋貯留についても賛否両 論がある。北極海の底に入れると南米大陸の南まで移動するのに約1700年、北上して北極に戻るまでに1700年で、3500年かかるだろう。そのころに は石油も全部なくなっているだろうから、大丈夫なのだと言う人もいれば、いやいや海の中といえども流体の中に入れているわけですから、海底火 山の噴火などに出くわしたら、CO2が一気に気化して取り返しがつかない大変なことになる、と言う人もいます。両方とも一理あります。それから 対抗策というのがあります。地球のアルべド0.3を大きくしてやればいいじゃないか。そのためには、大気中に雲を作ってやればいい。そのために は、エアロゾル、要は大気中にごみをばら撒けばいい、そうすると雲の種が出来ます。大気中にあるCO2を海洋により早く吸収させよう。一番いい のは、太平洋にし尿をばらまくことです。太平洋にリン窒素の栄養素をどんどん入れてやることです。そうするとプランクトンが大量に発生します。 それによって浅海層のCO2が固定され、浅海層のCO2濃度が下がりますから、大気中のCO2が海洋に溶解しやすくなる。これらはいずれも汚い方法です から誰も賛成してくれない。

  エネルギーのセキュリティにもかかるわけですが、最近某電力が、事実上原発から撤退の動きを示しております。これを責めること は出来ないと思います。確かに原発が60年あるいはそれ以上安定的に投資が回収できれば、原発の発電コストは安いということになっていますから これはいいのですが、ただ、現在電力の自由化の推進は大きな流れで、早晩送電会社が独立することになるんじゃないかと思います。電力会社もそ う考えていると思います。そうしますと発電会社は、本当に発電所で電力というエネルギーを作るだけになります。ユーザはどこからでも自由に買 える。そうなったときに初期投資の大きい原発を現在作るだけの勇気というかそれだけの体力はどこの電力会社もなかなか持てない。従って何が起 こるかというと、CO2対策に逆行するのですが、石炭火力発電所がどんどん出来ています。初期投資は安い、石炭は安い。CO2ということから、また 安定供給ということから考えますと、原発と水力・地熱。地熱はわずかですが、このベースロード(基準負荷)となるような発電、これをやはり大 きくしていかないといけないと思います。現在原子力はわが国では34パーセントですが、これを大きくしていかないと、どうしても地球環境に対す る対策はなかなか難しいということになると思います。

  技術開発をするときに、LCA(ライフサイクルアセスメント)はちゃんと計算してくださいよと言われます。冷蔵庫を例にとると、 海外の鉱石から冷蔵庫を作って捨てるところまでどうやって計算するかという考え方です。必要なものは、石炭、石油、鉄鉱石、ボーキサイト、 これを運んでくるためのエネルギー、製鉄所で使うあるいは冷蔵庫で使う電気を発電する発電所で使うエネルギー、すべてのものを込みにして最終 的に冷蔵庫を作って、使って、捨てるまでにどのくらいのCO2が発生するかを計算する考え方です。
  どんどん遡っていくと何にたどり着くかというと、海外にある石炭であり、石油であり、天然ガスであり、あるいは鉄鉱石等々です。 逆に排出物をどんどん追求していきますと、最終的には大気あるいは水への排出物を許容限界以下にまで低減するためのエネルギーとCO2の量が計算 できます。
  それを、先ほどの冷蔵庫に戻って計算結果を示しますと、94.6パーセントは、冷蔵庫を使っている間に消費した電気量です。日本の場合 は平均12年間使うということになっています。平均12年使いますと、冷蔵庫を作って、使って、廃棄したすべての工程で発生したCO2のほとんどは電気 を発電するためですということになります。冷蔵庫のCO2を削減しようと思ったときに、もちろん素材や組立工程の技術開発も必要ですが、省エネル ギー型の冷蔵庫を作るということが一番役に立つということが一目瞭然です。

  これはLCAセンターから頂いたデータです。ちょっとデータが古いのですが、考え方は同じです。CO2ペイバックタイムという一つの概念 を提案しています。横軸にプラントの運用年数を示しています。縦軸にCO2の累積を書いています。火力発電、石炭、LNGの左端がゼロと言うのはどう いうことかといいますと、発電プラントを作る時に発生するCO2です。ゼロに見えますがほんのわずかプラス側になっています。運転していると斜め 右上がりになっています。これは当然のことながら石炭、石油、あるいは天然ガスを燃やしてCO2に変換しているわけですからその分の蓄積というこ とになります。それに引き換えて太陽光発電があります。これはゼロの時点で非常に高く4か5に近いのですが、それを運転している間はほとんど出 ません。わずかに右肩上がりなのですが、ほとんど発生していません。火力発電所では、CO2を減らすためには、この傾きを出来るだけ減らすような 発電効率を上げるような技術開発をやるべきだという当たり前の話になりますし、太陽光発電は、セルの部分にかかるエネルギー消費を減らすという ことになります。交点の持っている意味は、もし太陽光発電の寿命が5年以下であれば、ダメだ、ダメだと言われている火力発電の方がまだましです よということを示しています。ですから、これは技術開発の方向性を示しています。

  これは、石油確認埋蔵量の分布になっております。ほとんどは中東にあります。天然ガスも意外に旧ソ連圏と中東で大体世界の75パーセ ントを占めています。われわれは、天然ガスは世界中に分布しているというイメージを持っているのですが意外とそうでもない。石炭は、中東よりも 北米、ヨーロッパ、旧ソ連圏、アジア太平洋、つまり比較的政治的に安定していて日本と仲の良い地域に多い。そういう意味での石炭のエネルギー安 全保障上の優位性というのが非常に大きいということになります。従って、エネルギー調査会の中でも現在の17パーセントの石炭のシェアを大きく下 げることは難しい。むしろ、おなじような割合で推移していくだろうと言われています。

 
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