2.TRONプロジェクト
概要
   坂村健は、1980年(社)日本電子工業振興協会(JEIDA)の委員会においてTRON(The Real-time Operating system Nucleus)の基本構想を提案した。4年間に及ぶ委員会での検討の結果、1984年にTRONプロジェクトが発足した。その中心となるのはITRON(Industrial TRON)サブプロジェクトであり、それまでになかったOS、すなわち組込みシステムに適し、リアルタイム性に優れたOSのインタフェース仕様を標準として作り上げ、それをオープンな仕様すなわち「オープンアーキテクチャ」として誰でも使うことができるようにすることであった。
   ITRONプロジェクトでは、仕様を作り、規模や種類の異なるプロセッサに実装し、その結果を見て改良して新しい仕様を作るというサイクルが繰返された。仕様およびその実装の結果をオープンにすることによって、多くの人々の英知を集めることができ、多くの人々が納得する標準への道を歩むことになった。
   標準化においては統一性と適応性とのバランスを重視した。すなわち8ビットから32ビットまでの幅広いレンジのプロセッサに対応するための対策として、下位のプロセッサにおける性能を制限するような仕様は作らないという「弱い標準化」にとどめることが坂村の指導のもとに注意深く行われた。
   1988年には(社)トロン協会が発足し、TRON仕様の普及が促進された。決定されたITRON仕様 (1)(2)に基づく組込み用OSをマイクロプロセッサメーカはじめ各社が実装することとなり、ITRONが各社のマイクロプロセッサで使えるようになった。
   その結果、応用ソフトェアの標準化を図ることができ、家電機器、携帯電話をはじめ自動車やファックス、デジタルカメラなどの広範な組込みシステムに適用されることとなった。
   国外では、米国に連絡事務所が開設されており、韓国においても2000年8月に韓国TRON協会が発足し、TRONの普及活動が国際的な広がりを見せている。

TRONプロジェクトの経過
   最初のITRON1仕様は1987年に公開された。また、この仕様の使用実績や反応をもとに、1989年には、より小規模なマイクロプロセッサ用に機能を絞り込んだμITRON2.0仕様およびより大規模なマイクロプロセッサ用のITRON2仕様を公開した。
   特に1993年に公開されたμITRON3.0によって、8ビットから32ビットまでのマイクロプロセッサが統一的にサポートされるようになり、アプリケーションの標準化がいっそう進んだ。また、μITRON3.0では、複数のマイクロプロセッサを相互接続した分散システムをサポートする機能を追加し、ネットワーク化の進展に対応できるようにした。
   ITRONの他に、ITRONの成果を利用する形で、BTRON(パソコンやワークステーション用のOS仕様とその関連仕様)、CTRON(通信制御や情報処理を目的としたOSインタフェース仕様)、TRON電子機器ヒューマンインタフェース(各種の電子機器のヒューマンインタフェースの標準ガイドライン)の各サブプロジェクトが進行している(3)。
   また、1997年に公開されたJTRONによって、移植性とネットワーク透過性に優れたJavaの実行環境とITRONの統合が可能となり、両者の特徴を生かすことが可能になった。
   1999年には、μITRON4.0仕様を公開し、スタンダードプロファイルを定義することにより、互換性を高めた。

TRON仕様の実績
   世界中で使われているほとんどのマイクロプロセッサに対応してITRON仕様の組込み用OSが提供されており、TRON協会の日本のユーザへのアンケート結果によれば、組込みソフトウェアでは一番大きなシェアを持っている(4)。日本国内の組込み用ソフトウェアの30%から40%はITRONを使っており(5)、なかでも家電機器組込みシステム用OSでは80%がTRONを使用するに至っている(1999年)。また、最近ではNTTドコモの携帯電話や、トヨタ製自動車の制御など広く組込みシステムに適用されている。
Copyright(C)2001,The Takeda Foundation.Allrightsreserved.