The Takeda Award 理事長メッセージ 受賞者 選考理由書 授賞式 武田賞フォーラム
2001
受賞者
講演録
フリードリヒ・シュミット・ブレーク
page 1
page 2
page 3
page 4
page 5





フリードリヒ・シュミット・ブレーク
   

back next

 
ドイツのブッパータル研究所(Wuppertal Institute)で、私達は150種類以上の自然資源に対して「エコリュックサック値」を計算してみました。しかし、それだけではとても充分ではありません。建築業界だけでも、各種の建築物の「環境負荷価格」を正確に比較するには約2,000もの自然資源のリュックサック値を知らなければなりません。私達は現時点ではそのようなデーターを持っていませんが、しかし、私達はその方向に向かって進展するでしょう。現在計算されているリュックサック値は表になっており、ブッパータル研究所のウェブ・サイトや私や他の研究者によるいくつかの著書で見ることができます。ドイツ政府は、私が理解するところでは、「リュックサック・ファクターおよび自然資源フロー研究センター(National Center for Rucksack Factors and Material Flows)」の設立を検討しているようです。これは、2000年のファクター10イノベーション・ネットワーク(Factor 10 Innovation Network)により提案されたものです。

ここで、「リュックサック」というコンセプトを適用する場合、どのようなことが分かるのかいくつかの、おそらくびっくりするような例を示しましょう。

ドイツで約110平方メートルの家が80年間持ちこたえると仮定してください。では、この家を建築し維持するのにどれだけの自然資源が使われるか、そしてその家を長年にわたり冬の間暖房するのにどれだけの自然資源が使われるのでしょうか?その答えは次の通りです。石油による暖房は、10パーセントの自然資源しか必要としません。これには、家で使われる水の消費は計算に入っていません。90パーセント自然資源は建築と維持に使われるのです。このような持続可能性に焦点をあてることを望むのであれば、地球の気候の変化に関する規制政策は調整されなければならないということを示唆しています。

白金で自動車用触媒コンバータを作るには、約3トンもの復元不可能な自然資源が必要となります。この場合、この装置が約100,000kmの走行距離に対して機能するということを前提とすると、1kmあたり約30グラム、100kmあたり3kgの資源が消費されることになります。この消費は、エコリュックサックの重さで言えば、自動車の燃料による消費と大きく変わりません。そして触媒というのは、環境を保護するものと法的に定義されているのです。これこそ私が、単線形・非体系的ソリューション(mono-linear non-systemic solution)と呼ぶものです。

ご存知のように、代替可能なエネルギー源としての太陽光発電の開発に多くの努力がなされ、多額の補助金が使われています。その努力の多くは、このエネルギーの自動車や船舶などへの応用に費やされています。私達はこれまでに知られている電力発電方式に関して、体系的にその資源生産性を計算してみたところ、太陽光発電というのは、資源とエネルギーを大変必要としており、持続可能性という取り組みに対してはあまりいい選択肢ではないということが分かりました。私達はまた、褐炭の電力への変換は、風力発電より資源生産性が50倍も低いことも発見しました。ドイツでは、主要電力源は褐炭なのです。

情報テクノロジーは、持続可能性を実現する上で、最も重要な進歩の1つであるとよく言われます。そして、最新のアプリケーションもそのような方向を提示していますが、しかし、エコロジカルな将来を切り開くには、現在使うことができる機械というのは非常に遅れています。そのリュックサックは、自動車や洗濯機などといったものの平均的リュックサックの8倍から10倍も大きいのです。つまり、300以上なのです。さらに、その寿命というのはあまりにも限られています。

ここで、MIPSについて少し述べたいと思います。環境系応用分野の2001年武田賞受賞理由の2つめのコンセプトです。

私達は、通常MIにより「製品」のリュックサックを表現します。MIとは、Material Input(物質集約度)のことで、原料の採掘から販売にいたるまでの総量から製品自体の重量を差し引いたものを意味します。私達は、MIという観点からすべてのエネルギーを再計算し、それをMIに付け加えました。例えば、石油や石炭が使われる場合、私達はその重量を測定基準にします。電力に関しては、私達は、先程お話ししたように、体系全体での自然資源の利用度を計算しました。そして、太陽熱システムでは、熱アウトプット単位あたりのMIを計算しました。

さて、製品の「環境負荷価格」、そのMIは、その製品の有益性や、おもしろさ、あるいは有用性を生み出すのに必要な資源については何も述べていません。寿命の短い機械は、高い品質の製品よりはリュックサックが小さくなるであろうし、5人しか運べない自動車は電車に比べたらリュックサックが確かに小さくなります。これこそが、私が、より適切な環境計測基準として「ゆりかごから墓場まで」のMIPS( Material Input Per unit Service)を提唱する理由なのです。MIをSで割る。これにより、状況が明確になり、同じようなサービスを提供しているすべての製品について、「得られる価値に対する環境負荷価格(ecological price per unit value obtainable)」が直接比較できるようになります。したがって、あらゆる種類の交通手段、徒歩から飛行機あるいは飛行船(ゼッペリン)まで直接比較できるようになるのです。

そして、ところで、MIにより割算されるSというのは「資源生産性(resource productivity)」のことです。残念なことに、現在、資源生産性は多くの経済学者によって重要な生産要因とは見なされていません。明らかに彼らは、資本と労働力しか重要な生産要因として見なくなっており、それに疑問を持たなくなっているのです。

私は、次のようなことを自分自身に何度も問いかけました。「市場でのものの価格というのは、どうして販売時点での単位あたりコストから決まってしまうのだろうか?」消費者が電気やガスなどを消費する機械を運転する場合、彼らはその真のコストを知ることはまったくできないのです。実際に、高価な衣服や自動者は、COPS(COsts Per unit Service:サービスあたりのコスト)から見た場合、安物と比べたらコスト的に低いかもしれません。よく言われる「サービス社会」というのは、私達の経済のこの盲点を修復するものかもしれません。

私達は、新しい製品をデザインしたり、サービスを脱物質化したり、市場で提供されているものの中からエコロジー的な選択を行う場合に、MIPSを使っています。私達は「環境技術」の環境的価値や、研究活動、リサイクル・システムを判断するのにMIPSを使っています。このコンセプトが役に立つであろういくつかの分野についてお話しました。
 
back next
講演録トップへ

武田賞フォーラムトップへ

武田賞TOPへ