The Takeda Award 理事長メッセージ 受賞者 選考理由書 授賞式 武田賞フォーラム
2002

選考理由書
環境系応用分野

選考理由
業績とその創造性
1. はじめに
2. Charles Elachiによる人工衛星からのレーダによる地球環境観測分野の開拓
3. 畚野、岡本による人工衛星からのレーダによる降雨観測システムの確立
4. 生活者にとっての価値の創造
参考文献
図1
図2
図3

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業績とその創造性
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2.Charles Elachiによる人工衛星からのレーダによる地球環境観測分野の開拓

 Elachiは、人工衛星搭載レーダによる地球表面を精密に観測する技術の開拓者である。彼の業績は、衛星からの地球観測にレーダシステムのデザインを最適化したこと、および、レーダのデータをもとに地質学、環境科学、海洋学、考古学などを発展させたことにある。レーダの要素技術と地球科学の両方に精通することで、初の衛星搭載映像レーダおよびその後継センサの設計を指導することができた。

  レーダで高分解能(解像度)を得るためには、大型アンテナと短いパルス波を用いる必要がある。例えば、9.5GHzの電波で12,000mの高度から地上にある1.5m四方程度の大きさの物体を識別するためには、直径250m以上の大型アンテナを必要とする。しかし、合成開口レーダでは、航空機や衛星などの進行を利用し、また、高度な信号処理技術を用いることにより、小型のアンテナでも大型アンテナを用いた場合と同様に、非常に高い分解能を実現し、きわめて鮮明な画像を得ることができる1)。Elachiは上記の合成開口レーダに、マイクロ波の波長や入射角により対象物の反射特性が異なる特性や、垂直偏波と水平偏波で得られる情報が異なる現象を利用するポラリメトリ(偏波分析法)、干渉現象を利用して立体画像を採取する方法などの機能を加えて、精密かつ正確に地球環境データを引き出すレーダシステムを実現した。

  1978年6月には、人工衛星SEASATに合成開口レーダを搭載し、レーダによる地球環境観測を世界で初めて実現した2)。これは100日間の観測であったが、海洋に関するデータは、それ以前の100年間の船によるデータの量を凌ぐものであった。また、可視光線では捕えられない砂漠に埋もれた灌漑遺跡も発見した3)。SEASATには合成開口レーダのほかに、海面散乱計、海面高度計も搭載されており、全球規模の海洋風の風向と風速の情報や、海流、海洋渦、海底構造などの情報をもたらした。この成功により人工衛星搭載レーダによる地球環境観測が大きく前進した。

  1981年11月に、スペースシャトル・コロンビア に合成開口レーダであるシャトル映像レーダ-A (SIR-A)が搭載された4)。Elachiは、複雑な地勢をより正確に観測するために入射角を大きくした。入射角を大きくすると、マイクロ波の後方散乱エネルギーが非常に弱くなるので、技術的に難しい挑戦であった。

  1984年10月、スペースシャトル・チャレンジャにシャトル映像レーダ-B(SIR-B)を搭載した。地表への入射角度を可変とし、干渉現象を利用して立体映像を得ることに成功した5)

  1994年には、4月と10月の2
度にわたって、Elachi の最も重要な貢献であるシャトル映像レーダC/XバンドSAR (SIR C/X SAR)が打ち上げられた。3種類の周波数のマイクロ波機器を搭載し、うち二つの機器にはポラリメトリとフェーズドアレイ方式を採用した。これにより地球表面(地表面、海面および極域)付近の広範な観測が可能になった6, 7, 8)図19)

  Elachiの主導によりこれまでに開発された技術は、これ以降の地球環境観測システムに受け継がれている。

  1995年11月に地球環境変化および天然資源観測を目的に打ち上げられた人工衛星RADARSATにも合成開口レーダが搭載されており、降雪量マップ、穀物成長モニタ、石油流出モニタ、森林管理、洪水モニタ、海氷タイプ分類、氷河の動き観測などに活躍している。

 1996年8月には、ADEOS(H-Uロケット使用)に搭載されているレーダの一つNSCATは、特に海洋上の風速と風向を測定できるように設計された。氷のない海洋90%以上の領域を空間分解能50kmで、2日毎に測定できるため、船を使って得られる海洋の風に関する情報の100倍の情報が得られた。これにより得られたデータは、地球規模の天気予報と天候に関するモデリングの改善に有効で、エルニーニョ現象の原因解明にも寄与している。

  2000年2月には、インタフェロメトリ観測を使った地表面の立体観測を行ない、地球表面の80%におよぶ立体映像を得た。

  このように、Elachiの主導によって開発された衛星搭載レーダシステムは研究者たちに新しい手段を提供した。これにより、陸域エコシステム(植生分布、穀物栽培モニタリング、バイオマス評価、沿岸および湿地帯モニタリングなど)、水分(土壌水分、積雪含水量など)、海洋(波浪、海流、海氷分布および分類など)、大陸氷(氷河の流れと消長、氷床変動など)、固体地表(地震による地殻変動、火山活動、風化、地質図など)、災害監視、古環境などの広範囲の環境情報が天候に左右されず昼夜を問わず得られるようになった。

 Elachiは、レーダ機器の設計に秀でていただけではなく、科学的な応用についても理解が深く、衛星搭載レーダの重要性を科学者や政策関係者に強く印象づけ、支持を取り付けることができた。また、彼は多くの科学者や技術者から成るチームを率いてプロジェクトを推進した優れたリーダであり、多くの宇宙探査プロジェクトを成功させていることが、彼のこの面での卓越した能力を証明している。

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