The Takeda Foundation
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MOT事例研究 本の内容

トップ:本の紹介、書評

第1章:液晶ディスプレイの発展と商品化
第2章:薄膜SOI基板技術――実用化へのみちのり
第3章:DNAチップの誕生とブレークスルー
第4章:Linuxはなぜ成功したのか

液晶ディスプレイ、薄膜SOI基板技術、DNAチップ、Linuxの開発から商品化、また成功にいたるまでのプロセスを徹底調査しまとめ、技術開発がなぜ成功したのか、その要因を探る。






第4章 Linuxはなぜ成功したのか

赤城三男 (専務理事、プログラムオフィサー)

アブストラクト

  マーケットメカニズムの外で生まれた Linux が、どのようにしてマーケットメカニズムを動かし、有力なオペレーティングシステム(OS)の一つにまで成長したのか、その概要を調査した。Linux の創始者である Linus Torvalds 氏など5氏にインタビューを行った。
  Linux の発展を3つの時期にわけた。最初は、コミュニティの優秀なプログラマによる開発が行われた時期である。この時期は、OSに興味を持つ人々が開発者であり、ユーザでもあった。自分が必要だと思う機能を実行するプログラムを書き、それを Linus Torvalds に送って Linux ソースツリーに入れてもらう、という形で開発が行われた。インターネットとパソコンの普及がこのような開発を可能にした。
  次はディトリビューションが大きな役割を果たした時期である。 Linux は、技術力のあるユーザにとっては、非常に魅力的なOSであったが、一般ユーザにとっては、必要なプログラムをインターネット上からダウンロードして、自分のコンピュータで Linux を使えるようにすることは困難だった。これを解決したのが、ディストリビューションである。このディストリビューションに投資が行われるようになり、マーケットの資金が Linux 開発に投入された。
  最後は、Linux を Windows NT に次ぐサーバ用OSにしようとして、大手ITベンダーが投資をした時期である。OSDL (Open Development Lab) という中立的な機関をつくり、そこを通して、大規模サーバ環境を提供するなどの Linux 環境支援が行われた。最近では、大手IT企業自身も自社で Linux 開発グループをもち、コミュニティの一員として開発するようになった。しかし、Linus Torvalds たちが最終的な決定をするという、コミュニティスタイルの開発は変わっていない。
  過去に Unix が一つのソースコードから出発しながら枝分かれしてしまった失敗の経験から、 Linux においては、シングルソースツリーを維持する仕組みがつくられている。ソースコードを公開し、そのソースコードを改良したり変更したりしたときも、ソースコードを公開することをGPLという規約が義務づけている。シングルソースツリーが維持されていることが、Linux の発展を支えている。


Linuxを推進した力