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第7回レポート
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第7回リーフレット

第7回 カフェ・デ・サイエンス


講師: 織田孝幸(おだ・たかゆき)、森田茂之(もりた・しげゆき)
日時: 2006年5月18日



数学カフェ 「数と図形を結びつける」 BACK NEXT

三井: やはり、トポロジーの先生にかかると、全然違うという印象を受けました。 「数字を丸める」というのは、細かい数字を切り上げたり、切り下げたりすることで、もっと簡単なことだと思っていました。 いい加減だということでは共通していますが。

織田: イタリアのスーパーで買い物をすると、最後の桁の数を丸めて、まけてくれるんです。 すごく得したような気がするんだけど、為替レートを考えると、7リラといっても、日本円で1円にもならない。

>>  教育学を専攻しております学部三年生の学生です。数と図形というテーマを見たときに、真っ先に思い付いたことは、 先程トポロジーの話にも出て来た「6」という数です。自然界をみていると、蜂の巣が六角形だったり、電車に乗っていると、 座席で快適に座れる人の数が6人だったりして、「6」という数が意外なところでキーワードになっていることが多いと思うんです。 このように不思議な数が、他にも日常生活の中にあるのかどうか、それを是非伺いたいと思っています。

織田: 数字をどういうふうに決めるかというのは、実は、どうでもいいんですよね。小さい数は、基本的に指の数です。 「1」は指一本。「2」は続けて書きますが、漢字でもローマ数字でも、並べて書きますね。「3」は三本で、縦に書くか横に書くかの違いです。 「4」になると少し難しくなりますね。棒を4本書くのは面倒くさいし読みづらいでしょう。ローマ数字だと、「5」を表す「V」という字を書いて、 左に1本(IV)ですね。「V」は片手の形です。「9」も、「10」を表す「X」を書いて、左に1本(IX)です。「X」は両手の格好ですね。 漢字については、白川静先生の辞書でも見ないと分からないですね。アラビア数字とか、タンパ文字はどう書くんですかね。

マヤという国では、縄を結んで数を表していたんですね。「結縄文字」です。あれで、天文学の計算ができるんですよ。 それから、バビロニアの「楔形文字」があります。役人が、税金の計算をしたんですね。楔形文字を使った数学の問題がありまして、 その翻訳を読んだことがあります。そこでは、円周率が3になっていました。ただ、バビロニアには、円周率がちょうど3だと思っていない人もいたそうですが。

三井: 数ということでは、いろいろと不思議で面白いことがあると思うんですが、数字の書き表し方のお話になってしまいました。 ただ、ローマ数字や楔形文字のようなもので、複雑な計算はできませんよね。アラビア数字でしたら簡単ですけど。

織田: 数字で一番大事なのは「位取り」ということですね。吉田洋一さんの「零の発見」という本に書いてありますが、 インドで、「空」を表すために(サンスクリット語でshunya)、つまり、何もないことを表すために「0(ゼロ)」という数字が発明されたんですが、 それによって、「位取り」が簡単になったんです。それまではどのように書かれていたかと言うと、日本の漢数字には、「百」とか「万」という単位がありますが、 昔は、「万」の十倍が「億」で、「億」の十倍が「兆」だったんです。ある時期から変わったわけです。今は小学校で教育されますから、 皆、当たり前だと思っていますけど、現在のような状態になるまで、随分と時間がかかっているんです。 インドのボンベイからアラビア海へ向かう海上交易によって、インドで使われていた数字がアラビアに伝わり、それから世界中に広まったわけです。

>>  円周率について、日頃、不思議に思っていることをお聞きしたいと思います。 ときどき、円周率を何桁まで覚えたということが話題になりますけれど、誰がそれを計算しているのでしょうか。また、どのように計算しているのでしょうか。

織田: 円周率というのは、非常に面白い数で、長い研究史があります。中国では、5世紀頃から、 ある程度の桁数がまとまっていて、分数の22/7というのが円周率に近いことが知られていました。それは中国だけじゃなくて、 西ヨーロッパ、ギリシャ、ローマでも、ある程度は知られていました。

円周率をどのように求めていくかというと、面積を計算するんです。円周率は「π」と書きますが、πに円の半径の二乗をかけると円の面積になりますね。 円の面積をなるべく正確に求めるには、先ず、円の内側に接する多角形を描きます。ふつうは正多角形を描くんですが、この多角形の面積は簡単に分かる。 次に、円の外側に接する多角形を描いて、その面積をだす。つまり、外側にある多角形の面積と、内側にある多角形の面積の真ん中に、円の面積があると考える。 そして、多角形の数をどんどん増やしていく。それが伝統的なやり方です。江戸時代の関孝和という有名な和算家は、12角形、24角形などを用いて、 良い近似計算をしています。今は、微積分を用いて計算します。大学1年生では無理かもしれませんが、マチンの公式というのがありまして、 その式の中に239という数がでてくる。

円周率というのは「無限の数列」だということが証明されていて、ちょっと話が難しくなりますが、言葉だけ言うと、「超越数」といいます。 今は、それを電子計算機で計算していますが、何桁目にどんな数が出てくるかというのは、やってみなければ分からない。 「循環小数」といって、1/7のように、7項ごとに同じ数が何回もでてくるようなものもありますが(1/7=0.1428571428571428・・・)、 円周率はそんな数とは違う。「乱数」というのがあって、円周率も、何かそういう性質をもっていると信じられていますが、それが証明できたのかどうか、 ちょっと分かりませんね。今は、パソコンでも、一瞬のうちに100万桁まで計算できます。ただ、日本数学会の数学辞典でも、昔のものは、印刷間違いなどで、 桁が違っていることがありますから、気をつけないといけません。

三井: 円周率に近いという22/7というのは、経験的に出された値ですか。

森田: 22/7というのは、どんどん近い数をだしていく段階で、 なるべく簡単な覚えやすい分数で表すということからでてきたものでしょう。円周率が3だというときは、円の内側に接する六角形を描いて、 それが円だとすれば、その円周率は3になるわけです。

いろんな解析や微分積分などを使うと、何らかの数、実数が出てきますが、先ず、これは整数だろうかというのがあって、 次は、有理数だろうかというのを考えます。例えば、一辺が1の正方形は、対角線が√2になります。これが有理数でないというのは、 何千年も前から分かっていて、今では中学生でも理解できます。それは、√2を有理数であると仮定して、√2=q/pとおき、pとqは自然数で、 互いに素な数だとする。両辺を二乗して分母をはらった式、2p2=q2をみると、qは偶数。そしてpも偶数になる。 従って、pもqも2で割り切れる数となり、√2が有理数であるという仮定が間違いだということで、√2は有理数でないことになる。

その次には「代数的数」というのがありまして、例えば、x2=2という代数方程式の解である√2は代数的数です。 先程、円周率は有理数でないと紹介されましたけれど、代数的数ではないという証明も難しいんですね。 代数的数ではない数を「超越数」と言いまして、代数的演算を超越した数になります。

実は、今日ここへ来る前に、講義を2コマしてきました。講義というのは、非常に身体に良いんですね。 大きな黒板に、たくさん書いて、後ろのほうからも見えるように、大きな字で書く。黒板を消すのも、こうやって身体を動かしますし。 今日は、自然対数の底(e)という、円周率と並んで有名な数学的な定数がありますが、それが有理数ではないという講義を1年生にしてきました。 ただ、トポロジーの立場から言うと、実数は3種類しかなくて、正の数とゼロと負の数しかないんです。

>>  πについてですが、最近たまたま読んだ本の中に、幅が1の平行線の上に、 長さがその幅の半分の針を落としたら、線に触れる確率が限りなく1/πに近づいて行くという話があったんですが、どうしてそんなことになるのか。 また、πというのは、どんな数字なのか。他にも、πが現れる特殊な現象があるのか、というようなことを、教えて頂けたらと思います。

織田: 今の話は、「Buffonの針の問題」といいます。Buffonは、フランス人ですが、数学者じゃないんですね。 ハーバードの博物学の教授だったグールド(Stephen Jay Gould)という人の書いた本の中に、彼のことが出ていますが、何かいろんなことをやった人で、 農園の管理に非常に長けていて、数学は片手間にやったみたいです。割と若い頃に、この問題に気付いたらしい。

なぜ円周率が出てくるかというのは、一つには、向きが大事なんです。平行な向きに針を落としても重なりませんね。直角になるとかなり重なる。 そうすると角度の問題というのが入ってきます。角度というのは、円周率の言葉で捕まえられるんです(πは180°)。 先ず、針が平行線と交わらない場合も含めて、針の置き方を全部勘定する。これは、確率論で言えば「標本空間」ですね。 針の角度と針の中心がどこにあるかで決まるんです。次に、標本空間の中で、針が交わる可能性のある領域を考える。 これは積分の計算でできるんですが、そんなに難しくはないです。(!)

>>  私は、今、渦の研究をしていますが、 流体力学は、位相解析による値がよく当てはまるということで、 数学と非常に縁が深いわけです。数学では、n次元ということを使いますね。渦の場合ですと、2.5次元とか、自然対数の底であるeのe次元というのがあれば、 面白い考え方ができるのですが、そういう次元について、図形との兼ね合いで、ご意見を伺えればと思います。


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Last modified 2006.07.18 Copyright(c)2005 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.