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第7回レポート
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第7回リーフレット

第7回 カフェ・デ・サイエンス


講師: 織田孝幸(おだ・たかゆき)、森田茂之(もりた・しげゆき)
日時: 2006年5月18日



数学カフェ 「数と図形を結びつける」 BACK NEXT

三井: 1次元、2次元、3次元のことは分かりますね。それに時間を加えるという4次元までは、 何となく納得できますが、それ以上の次元は全くイメージできません。5次元というのは、何かこれが5次元だというようなご説明をして頂けるのでしょうか。

森田: 先ず、「次元」について説明しなければいけませんね。歴史は長いんです。図形でいうと、曲線は1次元で、 曲面は2次元、我々が住んでいる世界は3次元というのが、最も日常的な次元の使い方ですが、我々は、地球という非常に小さいところにいるので、 局所的なものしか分からない。我々は3次元を分かったつもりになっていますが、宇宙には、2次元でいうと、 例えば球面のようなグローバルな構造があるに違いないわけです。先程、時間を入れると4次元だと言われましたが、今日の立場から言うと、 時間には関係なくて、4次元というのは、永遠に一番難しい次元だと思います。それは、20年以上前に、イギリスのドナルドソン(Simon Kirwan Donaldson) という人が一大発見をしたのですが、それ以後の研究が物語っています。

皆さんは、100次元よりも1000次元のほうが高級だと思っているかもしれませんが、私は少し違う考え方をしていて、次元が大きくなるにつれて、 どんどん深い数学がでてくるわけではないと思っています。ある意味では、数学というよりは哲学的な感じになるわけですが、 我々が3次元に住んでいるということは、永遠に3次元なわけです。弦理論のように、10次元の世界に住んでいるという理論がないわけではないし、 世界は有限で終わってしうまうので、永遠ということは、ないんですけども、3次元は、我々が住む次元であることや、4次元が一番難しい次元だということは、 これからも変わらない。

それから、1/2次元とか、e次元とか、π次元などがあるかということですが、それは、曲線なども含めて、図形をいろいろと研究していけば、定義にもよりますが、 そのような次元の図形はあり得ます。例えば、海岸線を式で表そうとしても表すことができません。どんどん拡大しても、ギザギザのままで、 際限なく同じようなギザギザが現れる。「フラクタル」という言葉で説明されていますが、このような場合には、1/2次元の図形というのもあるわけです。 eは2.718・・・ですが、e次元の図形が、渦とどういう関係にあるかというのはちょっと分かりませんけれど。

織田: 「超弦理論」というのがありますが、そこでは本当の空間次元が26次元だと言われています。 他にも、10次元だとか11次元だとかとも言われていますけれど、じゃ、なぜ、我々の世界は3次元しか見えないのかと言うと、例えば、10次元ですと、 残りの6次元というのは、目に見えない小さな世界に丸まっているという説があります。そういうところで流体力学をやったら、 今でも流体力学は非常に難しいのに、とてつもなく難しくなってどうしようもなくなる。流体力学に関しては、ナビエ・ストークス方程式について、 1億何千万円かの懸賞問題がありますね。

>>  メビウスの輪というのは、捻れという現象が入っているので、不思議な感じがしますが、3次元の輪ですか。 それとも、2次元の輪ですか。他にも、こうした捻れで、次元が奇妙に見えるものがありますか。

森田: メビウスの帯というのは、非常に特別な曲面ですが、クラインの壷というのもありますね(「イリューム」2005年、 第34号、71ページに、メビウスの輪とクラインの壷が図示されている)。幼稚園の頃に、七夕の飾りで作ったことがあると思いますが、 長方形の色紙の両端を糊付しますと、円柱ができます。それを、ちょっと変わったものを作ろうと思って、180度回転して逆向きにつけると、 メビウスの輪になるわけです。この特徴は、裏と表が区別できなくなるということですね。裏と表が区別できなくなる一番簡単な曲面がメビウスの帯ですが、 これには境界がある。境界を無くそうとすると、クラインの壷になります。例えば、ビール瓶が、何か柔らかいものでできているとします。 その上のほうを曲げていって中に入れようとすると、ぶつかりますけども、それは3次元の座標しかないから、ぶつかるのです。4次元の中に入れるとすれば、 4番目の座標があるから、ぶつからない。例えば、もともとあるのは4番目の座標がゼロで、曲がって近づいてきたものの4番目の座標が1だとすれば、 座標が違うからぶつからないことになります。ぶつからないで中に入っていって繋がったものをクラインの壷といいます。

我々が住んでいる宇宙がどういう形をしているかというのは、永遠に分からないと思いますが、たぶん限りがあるに違いないと思います。 もし、有限でないとすれば、このようにいろいろな理論をつくっても、全部発散してしまって、理論は作れない。だから、我々が住んでいる宇宙は、 ユークリッド空間がどこまでも広がっている空間ではないので、ズーッと行くと戻ってくるんですね。メビウスの帯もそうなわけで、 メビウスの帯の真ん中をズーッと行くと、戻ってきたときに逆向きになっている。そうすると、我々の世の中で、宇宙ロケットで旅行をして帰ってきたときに、 ひょっとしたら、右手が左手になっているかもしれない。たぶん、そうはなっていないとは思うんですが、そういう構造が、 我々の住んでいる宇宙にあるかどうかというのは、やってみなければ分からない。皆気にしていないようですが、数学者からみると、 先ず、そこを決めて欲しいという感じがします。しかし、それを決める手だてがない。実験するにも、ものすごいエネルギーが要るし、 宇宙全体を実験室にしなければいけませんからね。

織田: メビウスの輪をご覧になったことがない方のために、作ってみます。ここに帯があります。 種も仕掛けもありません。普通は、こうやって止めるわけですが、これじゃ、面白くも何ともない。そこで、これを一回捻るわけです。 糊がないから、ホッチキスで止めます。そうしますと、表側のここから、真ん中をズーッとたどっていくと、こうして裏になります。 それでは、この真ん中をハサミで切ってやります。どうなりますか。切れずに繋がっています(拍手)。

三井: 有り難うございました。昔、東大の化学科に、大野貢さんというガラス細工の名人がおられたのですが、 クラインの壷をガラス細工で作って、その現物が、東大の正門前のお寿司屋さんに置いてあるはずです。コーヒーポットに使えるんだそうです。

ここで少し休憩を入れます。

<休憩>

>>  メビウスの輪は、表と裏を捻ってくっ付けるので、面の数が変わることになるのでしょうか。 また、面の数と次元の関係はどうなっているのでしょうか。

森田: 円柱の場合は、表を赤に塗って、裏を白に塗ることができますが、メビウスの帯の場合には、 あるところから赤を塗っていくと、全部赤になってしまうんですね。そういう意味で言うと、面が一つということになりますが、数学的には、面の数というより、 「向き付け可能」かどうかという言い方をします。

曲線では、各点において、矢印によって向きを付けて、それらがずっと同じ方向を向いているようにすることができますから、一次元の曲線の場合は、 いつでも向き付けが可能で、向き付けが不可能な曲線というのはありません。

2次元になると、各点の向きは、時計回りと反時計回りの2種類あります。曲面で向きをつけるというのは、各点でどちらかの向きを指定して、 近くの点どうしが整合しているように見えるとき、それを向き付け可能な曲面と言います。円柱とメビウスの帯では、明らかに定性的な違いがありますけれど、 円柱は向き付け可能で、メビウスの帯は向き付けができません。

3次元の向きというのは、右手系と左手系になります。つまり、親指と人差し指と中指が直交した形ですね。右手を鏡に映すと、左手になりますが、 たとえば、宇宙の向き付けが不可能だとすると、光速に近いロケットで宇宙旅行から帰ってみると、右手が左手になっているかもしれないわけです (50億年、あるいは200億年かかるかもしれない、と織田さん)。幾何学の立場から言うと、宇宙の向き付けは大問題だと思いますが、私の希望では、 宇宙は向き付け可能で、右手が左手になることはないと思います。

このように、各次元に向き付け不可能な図形があるということですね。1次元は方向が足りないので、向き付けを不可能にするだけの余裕がないけれど、 2次元からは、2つ以上の向きがあるので、向き付けが不可能になることがある。ただし、向きが、次元の数に沿ってたくさん出てくるかというと、 そうではなくて、次元はいくら上げたとしても、向きは2つしかありません。


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Last modified 2006.07.18 Copyright(c)2005 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.