The Takeda Award 理事長メッセージ 受賞者 選考理由書 授賞式 武田賞フォーラム
2001
受賞者
講演録
坂村 健
page 1
page 2
page 3
page 4
page 5





坂村 健
   

  next


スライド 33

スライド 34

スライド 35

スライド33「eTRONアーキテクチャ」

 「どこでもコンピュータ」の世界では、オープンなネットワークですべてのコンピュータが結ばれ多様なサービスが可能になります。同時にそれは家の中での生活がすべてネットワーク経由で覗かれたり、ネットワーク経由のいたずらのせいで設備が異常動作して事故になるといった不安と表裏一体です。「どこでもコンピュータ」の基本部分に強力なセキュリティアーキテクチャが必要です。

 そのための最近発表したTRONの新しいプロジェクト──eTRONについても触れておきましょう。価値ある情報や暗号の鍵など複製や改竄されてはいけない情報を、安全に、電子的に移動できるようにするためのトータルアーキテクチャです。このような観点の汎用的セキュリティ基盤アーキテクチャの提案もeTRONが世界に先駆けて提唱しました。

 このようにTRONプロジェクトでは「どこでもコンピュータ」環境実現のために今後も世界に発信できる研究開発を続けていきたいと考えています。

スライド34「協調分散型の研究開発を」

 武田賞が対象としている情報・電子系、生命系、環境系の三つの分野に共通する特徴は、個々の要素だけを他と切り離して考えることはできず、特に全体を一つのシステムとして考えないといけない研究分野であるということだと思います。これらの分野では、学際的な協調分散型の研究開発がこれからますます重要になってくるでしょう。

スライド35「協調分散型の研究開発」

 それぞれが独自の道を歩きつつも、インターネット時代にふさわしく世界の人々と協調しあい、独善になるのでなく他の優れた技術はどしどし導入し、その中で自前のコンセプト、アイデア、技術を提示しながら、オープンな基盤の確立に寄与する──これは、まさにTRONプロジェクトが理想としてきたモデルと重なるものです。

 その意味で、TRONプロジェクトの20年近く続けてきた協調分散型の研究努力を評価していただけたことを励みとして、今後とも次世代の望ましいコンピュータ環境確立のために、今回の受賞に恥じぬよう努力を継続していく事を心新たにしております。また、そうした工学知に対する努力を評価し奨励しつづけることで、武田賞が新世紀への貴重な貢献をされることと信じております。

 ご臨席の皆様には、今後ともご指導ご鞭撻のほどをお願い申し上げまして、お礼の言葉とさせて頂きます。本日は、誠に有り難うございました。



■質疑応答

垂井:坂村先生、どうもありがとうございました。TRONの全般にわたって非常に興味あるお話で、大変インプレッシブでございました。ここで若干質問を受けたいと思います。ご質問あります方、どうぞ。

STALLMAN: If all the appliances and all the things in our house havecomputers in them, does this mean that the police or whoever wishes tosnoop on us will be able to check absolutely everything about ouractivities all the time?

Now I have heard that paranoid people oftensay that they believe someone is trying to implant a computer chip inthem. And they of course are imagining this.

But I am afraid that wecould have the same results if we get these TRON equipped personalappliances and pieces of our house. I won't carry a cellular phonemost of the time because they can be tracked. I don't like mywhereabouts to be recorded in a database perhaps permanently. What doyou have to say to that?

坂村:今のご質問は、例えば家の中のあらゆるところに全部コンピュータが入ってきたら、いつも監視されている危険性があるのではないかとか、携帯電話を持っていると、いつでもどこにいるのかが分かってしまうのではないかという危険性についてどう考えるのかということです。

だから携帯電話を持ちたくないというお話で、おそらくお持ちじゃないのだと思うのですが、私はおっしゃる指摘は、技術的には考えられる危険性です。ですから最後にご紹介しましたように、eTRONという名前のセキュリティのアーキテクチャを、今最も力を入れて構築しなければならないと思っています。

しかしセキュリティの問題は技術の問題だけではなくて、ポリシーの問題でもある。要するに技術的にどんなことでもできるというのは、おそらく包丁が料理をつくる時にも使えるけど殺人の道具にもなるということと全く同じであって、殺人の可能性があるから包丁を使わないというわけにはいかないわけです。

この問題はずうっと考え続けないといけない。おそらく技術的にはできる限りセキュリティを強化するようなアーキテクチャを考えて、そのセキュリティ・ポリシーを決めるのを国家が決めるのではなくて、個人に決めさせるというようなことになるでしょう。自分で守りたいデータは自分で守るというようなことをきちんとできるようにするべきだとは思います。

携帯電話があったら、それがどこにあるかというのは今、技術的には分かってしまう。だから、嫌なら、知られたくない場所に行くときは電源を切るしかない。必要ない時はネットワークを個人の意志で切る。外につながらないようにすることを、意図的に住んでいる人がやる以外にやりようがないと思います。セキュリティを強化するようなアーキテクチャを考え、その主導権を住んでいる人つまり、使う人に与えるべきだと思います。ネットワークで全部結ばれている環境では避けられない問題だと思います。

垂井:はい、よろしいでしょうか。

坂村:よろしくないかもしれないけど。(笑)

垂井:セレクションの問題だと思いますけれども。よろしいですか。もうひとつそちらからどうぞ。

西村:午前中にバイオの方でパブリック・セクターとプライベート・セクターの間の緊張した関係、あるいは相互の、相互交流といいますか、刺激のし合いといったようなかなりおもしろいディスカッションがありました。

坂村先生ご自身が最後のところで3分野共通の協調分散型の研究開発というお話をされましたが、TRONの場合も市場経済ではない仕組みの中でいろんなことをやってこられて、しかし現在では市場経済側がそれをいろんな形で利用しているという状態が起こっているわけですね。

長期的に考えた時の、この市場経済側と市場経済ではない側のコミュニティといいますか、そちらの間の協調関係あるいは緊張関係といったようなものについて、どんなふうに考えていらっしゃるか、コメントいただければと思うのですが。

坂村:今のご質問は市場経済型OSと市場開発型でないOSとの違いに関するご質問です。

TRONプロジェクトは市場経済型でないシステム開発を目指してまして、今何億個というTRONコンピュータが年間使われていますが、私は1円もお金を取らないといっている。だが TRONを使っている会社はエンドユーザからお金を取ってもいい。何をやってもいいといっているわけです。 TRONでビジネスをしてもいいといっている。

そういう意味でいくとTRONも市場経済と全く関係していないわけじゃない。資本主義の国の中に住んでいれば、全部ただにしろというわけにはいかない。ですから私がお金を取ってないということは事実ですけれども、TRONを使っている会社はそうする必要はない。そうすると一番困ってしまうのは、このプロジェクトの基礎研究をするお金がどこから来るのかということ。そこが、実はその後のリナックスや GNUなどと私のプロジェクトの違うところです。ただにするのはいいのですが、ただにすると日本の場合には特に寄付も来ない。ただだからというわけです。

国民性によるのでしょうけど、アメリカなどだとフリー・ソフトウェア・ファウンデーション(FSF)には寄付が行く、アメリカ人は心が広い人が多いので、何か寄付しようという話になるのですが、日本は税金上の問題とかあって、ただだと、もういいかというふうになってしまう方が多い。TRONをたくさん使っているにもかかわらず、大きな会社でもトロン協会に入らない。そういうようなところがなかなか難しいですね。完全に市場経済で闘っている会社との闘いになると、なかなか難しい面があります。

垂井:ご質問まだまだあるかと思いますけれども、時間も押しておりますので、この辺で終わりたいと思います。どうも坂村先生、ありがとうございました。

坂村:どうもありがとうございました。(拍手)

 
  next
講演録トップへ

武田賞フォーラムトップへ

武田賞TOPへ