The Takeda Award 理事長メッセージ 受賞者 選考理由書 授賞式 武田賞フォーラム
2002
受賞者
講演録
パトリック・O・ブラウン
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Q&A






パトリック・O・ブラウン
 
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[図 1]

[図 2]

[図 3]
[図 1]
松原先生、ご紹介ありがとうございます。また、武田計測先端知財団の皆様、武田理事長、そして、この栄誉ある賞にフォダー博士と共に私を選んでくださった選考委員会の皆様にも感謝します。

今日この場にいることは大変な名誉であり光栄に思います。また、フォダー博士の講演が、実に素晴らしいものであったことにも言及しておかなければいけません。

これから私が話すことを紹介します。スティーブと同様に、まず、私たちが開発したマイクロアレイ技術について、少しだけ説明します。続いて、私の研究室で、あるいは世界中の研究室で、どのようにDNAマイクロアレイ技術が研究に利用されているかというようなことを話します。

それから、一つの例として、最近、私の研究室でDNAマイクロアレイを使って行われた胃がんに関する研究について、簡単に紹介します。

そして、最後に、この技術の将来性について一緒に考えてみたいと思います。また、誰でもこの技術を利用できるようにと努力した私の研究仲間たちのことも紹介したいと思います。

このプロジェクトが始まったのは、先程、スティーブも指摘したように、この部屋を見回してみればわかりますが、私たちの遺伝子上のどのような違いが、一人一人の人間にこのような驚くべき違いを生み出しているのかという問題を研究するための方法を発見したからでした。

このアイデアを実現するためには、ヒトの遺伝子すべてを同時に観察することのできる簡単で廉価な方法が必要だったのです。

フォダー博士と同じように、私が考えたことも、何千というDNA配列を並べた小さなチップが適しているということでした。すなわちDNAマイクロアレイです。

[図 2]
これは、私たちがヒト・ゲノムを見るときに使っているDNAマイクロアレイの写真です。このスライドの左側にあるコインは、日本の一円硬貨とほぼ同じサイズです。そして、この左側にあるのが、実験に使う前の状態にあるマイクロアレイで、可視光で見るとこういうふうに見えます。ここに光っている小さな点は約40,000個ありますが、これは33,000個のヒト遺伝子に相当します。その右は、実際に実験で使ったアレイです。

一般に科学者というのは、自分の仕事が役に立つだけでなく、できれば、美しくて面白いものであってほしいと思っているのではないでしょうか。

私は、このテクノロジーを設計し始めたときから、マイクロアレイを使う実験が見た目にも美しくあってほしいと思っていました。そして、赤、黄、緑のドット・パターンとして見える実験結果を脳裏に描いていました。そのパターンは、私たちが研究しようとする遺伝子の性質によって変化するのです。

その方法について詳しくは述べませんが、私たちの実験では、ヒトのDNAやRNAなどからなる二つのサンプルを混ぜますので、1個のサンプルは緑色の蛍光色素で標識し、もう1個は赤色の蛍光色素で標識します。アレイ上のスポットは、サンプルを解析するためのハイブリダイゼーションを行うと、無色の輝点が、赤、黄、緑のドットパターンへと変化します。

スポットの色は、特定の遺伝子が示す何らかの特徴を測定した値に相当します。このスライドで示している例では、各スポットの色は、それに対応する遺伝子が、白血病というがん細胞で、どれだけ活性があるかを表しています。この赤色のスポットは、この遺伝子が、この種のがん細胞で非常に活性があることを示しています。また、この緑色のスポットは、この遺伝子がこのがんでは働いていないことを示しています。

私たちは、こうした実験で目にするカラー・パターンから、がんについて多くのことを学びますが、同時に、美しい画像も得られます。

もちろん、そのスポットをただ眺めているだけではありません。デジタル画像処理システムを使って、一つの色を測定値へと変えているのですが、それについては、もう少し後で述べます。

[図 3]
私たちのマイクロアレイ作製法は、スティーブの発明した光化学を利用した方法と比べれば、非常に簡単なもので、実はとても古めかしい方法を採用しました。つまり、インクをプリントするように、ガラス板の上にDNA配列をプリントしたのです。

私たちは、このようなプラットフォーム上に、ガラス板上で極微量のDNA溶液を滴下してプリントするとても簡単なロボットを作りました。このロボットは、当時は私の研究室の優秀な大学院生だったジョー・デリシが組み立てたものです。

先程スティーブが示したものと比べて、私たちの方法は、技術的にも洗練されてはいませんし、優れているわけでもありませんが、簡単であるということには、いくつかの利点があります。こうしたロボットを作るのは簡単で、非常に安くつきます。箱から部品を出すところから始めて、これを組み立てるのに、二人の人間なら、ほぼ一日でできますし、400万円ほどしかかかりません。

簡単であることと、安価であるということで、一般的な研究費しかない普通の生化学研究室でも利用できるようになりました。また、このように非常にシンプルなデザインであるために、柔軟性という利点もあります。このロボットを使って、溶液になる分子ならどのような分子でもプリントすることができます。つまり、DNAだけでなく、プロテオミックス研究のためのタンパク質や、化学的生物学的相互作用を調べるための小さな化合物なども使えます。

私たちのマイクロアレイが、非常にシンプルで、使い勝手が良く、そして安価であり続ければ、学生たちはリスクのある実験、すなわち、新たな生物学上の問題を探求するための実験をするためにマイクロアレイを使うことを畏れないはずです。それに、プロの科学者でない人々も、生物学的に興味深い問題を探索するために使うことさえ可能となります。








 
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