The Takeda Award 理事長メッセージ 受賞者 選考理由書 授賞式 武田賞フォーラム
2002
受賞者
講演録
パトリック・O・ブラウン
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Q&A






パトリック・O・ブラウン
 
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司会(松原):
ブラウン博士、どうもありがとうございました。会場から、2、3の質問をお受けする時間はあると思いますが。

質問1:
ブラウン博士、素晴らしい講演をありがとうございます。私は、知的所有権についてお聞きしたいと思います。知識を公開するという博士の姿勢は、素晴らしいと思います。"Public Library of Science"の構想もそうです。こうしたことをアカデミック・セクターでやることは非常に大切なことですが、スタンフォード大学のTLOは、博士の技術を普及することと矛盾しないために、知的所有権の問題をどのように扱っているのでしょうか。

ブラウン:
良い質問です。スタンフォード大学では、またアメリカの多くの大学でも同じだと思いますが、研究室で開発された知的財産は大学に帰属します。発明者にではありません。従って、知的財産に関する決定権はTLOの手中にあるのです。私がこの研究を始めたときは、ビジネス全般についてまったくの世間知らずでしたが、TLOとは非常に良い関係を維持しています。TLOの最も重要な役割は、研究が円滑に進むように助成することで、TLOの人々は、その理念を順守していると思います。私の場合には、もしもTLOが、これから、実は数年前からですが、私たちの仕事から出てきたものを特許にするなら、それが何であれ、必ず非排他的なライセンスにしようということで、満足できる合意に到達しました。彼らはまた、その技術を利用する通常のアカデミックな使用に対して、特許権を主張しないという方針を持っていて、特許取得者もその権利を強要しないことを理解しています。こうした方針も堅く守っていると思います。つまり、私は知的所有権をコントロールできないのですから、これは微妙な質問ですが、スタンフォード大学のTLOの人達は最善を尽くしていると思います。ただ、少し付け加えておきますが、これは単純な話ではないので、議論するには格好の話題かもしれません。私の考えでは、大学、特に公の大学についてですが、大学が生み出す知的財産は公共のもので、そこから利益を得るべきではありません。このように考えれば、大学の任務を簡単に定義することができますし、複雑な事態を回避できます。そのような事態は起こらないかもしれませんが、私はこのポリシーが比較的良いものであると思っています。

質問2:
素晴らしい講演をありがとうございました。残りの日本滞在を楽しんでください。博士は、マイクロアレイという実に素晴らしいシステムを開発し、この技術の普及に大きな貢献をしてきました。私の質問は、この技術、たとえば、ピン、アレイヤー、スキャナー、ソフトウェアなどを開発する上で、最も難しいことは何だったのかということです。それと、このような科学的偉業を達成するには、どのような環境や教育が必要かについてもお尋ねしたいと思います。

ブラウン:
難しい質問です。私にとって、開発段階での最も難しかったことは、最初からずっとそうですが、その必要性を主張することでした。特に開発の初期の段階では、資金提供機関に、プロジェクトを継続するために必要な研究費と人的資源を提供してもらう必要がありました。それは、非常に骨の折れる相手です。私が支援してもらった資金提供機関は、ハワード・ヒューズ医学研究所と、これは素晴らしい研究機関ですが、それとNIHですが、共にオリジナルな研究を助成する努力をしていると思います。しかし、とりわけ技術開発のような不慣れな提案で資金を得るのは、大きな試練です。このプロジェクトを提案した当時の私は、エンジニアリングやジェネティクスの分野の専門家には程遠い存在でした。資金提供を受けられるような何かを得ることは大変なことですし、苦闘でもあります。私は求めた財政的支援で仕事をするのに成功したと思いますが、できるだけ多くの無償供与をしてくれる人を探し回ったおかげです。実際、私はねだることに熟練しなければいけませんでした。ねだる能力というのは、つまり、無償でものをくれる人を見つける能力は、科学者に最も必要な技能の一つであると思っています。
 もう一つの質問は、どのような研究機関が創造的な研究を育成できるのかというものでした。これは、あまり評価されていないことですが、最も重要なことは、結果的に失敗でも、一生懸命努力することを認めるべきだということです。もしも、創造的な仕事に成功するような人が必要なら、結果的に失敗しても創造的なことをしようとする人にOKを出さなければいけません。そうしないと、キャリアや資金調達の妨げになるような危険は冒さなくなるでしょう。確かにそのバランスをとるのは困難ですが、大学は、よくやっているほうだと思います。大学には、企業にあるような制約がありませんから。つまり、利益を生み出さなければいけない会社では、時間単位で働いていますから、制限時間内で生産することが求められますが、非営利的なところでは、そうでもありません。とにかく最も重要なことは、もしも、アイデアは試す価値のある良いものだが、うまくいきそうにないようなことをやろうとしている人がいるとしたら、それは失敗にならないとして、OKを出すことです。

質問3:
がんは日本人の死因の3割を占めます。がん細胞が、ウイルスのように、情報以外の能力を持たなくなると、がん細胞はどうすると予測されますか。がん細胞のウイルス化ということは、あり得るでしょうか。
(通訳:胃がんについて質問します。日本では、がんの3割が胃がんです。ウイルスによって引き起こされる胃がんを検出できますか。)

ブラウン:
質問の内容を正しく理解しているかどうかわかりませんが、胃がんの中には、エプシュタイン・バー・ウイルス(EBV)の感染と関係のあるものも僅かですが、確かに見られます。その場合には、がん細胞でウイルスのゲノムを検出できます。それは状況証拠ですが、がんを引き起こす確固たる証拠と見なされています。ウイルス感染によるがんやその患者を観察したことがありますが、確かに、非常に顕著な特徴を備えていました。私が紹介したテクノロジーは、本来、がんを特定するためのものではありませんでしたし、私たちが研究に利用したがんは、明らかにがんであることがわかっている患者から採ったものです。私たちの仕事は、それらのがんを分子レベルで特徴づけようとしたものです。質問に答えているかどうかわかりませんが、私たちは、EBVが関係した胃がんを観察していますし、確かに、顕著な分子的特徴があります。この仕事は論文になっていませんが、データは私たちのウェブサイトで自由に見ることができるようになっています。

司会(松原):
ブラウン博士、ありがとうございました。博士のお話から、博士の暖かい人柄を感じとることができました。また、科学者としての気持ちを聞くことができて非常に嬉しく思っています。博士の、生命科学分野に対する貢献や、新たな技術開発における貢献が、今後も大いに顕彰されることと期待しています。ありがとうございました。







 
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