The Takeda Award 理事長メッセージ 受賞者 選考理由書 授賞式 武田賞フォーラム
2002
受賞者
講演録
パトリック・O・ブラウン
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Q&A






パトリック・O・ブラウン
 
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[図 4]

[図 5]

[図 6]

[図 7]
[図 4]
このご婦人は、手にもったマイクロアレイにサンプルを置こうとしているところですが、こういうこともあり得るでしょう。

[図 5]
スティーブも述べたように、マイクロアレイを使って、遺伝子やゲノムのほぼ全ての性質を研究することができます。少なくとも過去数年間では、遺伝子発現パターン、すなわち、私たちのゲノムが私たちの体にある1個1個の細胞に書き込んである脚本についての研究に、最も多く利用されていて、大きな成果が出ています。

[図 6]
私たちの体を作っているのは、種類の異なった何千、何万という細胞で、それらは、大きさも形も実に様々です。また、物理的な性質や挙動も実に多様です。このイラストを見ても、こうした多様性がわかると思います。たとえば、ここにある神経細胞は、他の細胞と接触したり情報交換をしたりするために何千にも枝分かれしています。この枝は1メートルもの長さになることがあります。また、それに比べれば比較的小さな白血球と呼ばれる細胞もありますが、これは私たちの血液中を動き回っていて、感染や怪我を見つけだす仕事をしています。

皆さんの体にある細胞はすべて、完全複製されたゲノムをもっています。ゲノムそれ自体は、細胞の脳のようなもので、細胞がどのようにデザインされ、細胞がどのように働くべきかを指図しています。細胞一つ一つがこれほどまでに違っているのに、全く同じゲノム、つまり、完全に同じ遺伝子セットを持っているとは、どういうことなのでしょうか。

その問いに答える手段の一つとして、遺伝子とはゲノムを構成している言語のようなものだと考えてみます。日本語を話す人々がボキャブラリーを共有しているように、全ての細胞は同じボキャブラリーを使用しています。私たちはそのボキャブラリーを使って何百万という物語を書くことができますが、各細胞にあるゲノムも同じように、細胞一つ一つに合わせた伝記の脚本を、同じ遺伝子セットを使って書くことができるのです。

これらの脚本はとても魅力的です。それは、私たちの体にある各細胞が、今まさにこの時に、その細胞のゲノムが、刻々と変化する状況に応じて、新しい脚本の1ページを書いているところだからです。それは、ダイナミックなプロセスであり、そこでは、各細胞にある遺伝子の発現パターンが環境の変化に対応しています。従って、そのパターンを調べることによって、各細胞の置かれている状況がわかるのです。

この脚本は、遺伝子の転写物であるRNAを使った遺伝子言語で書かれていますから、その脚本を読む、つまり、私たちの体の細胞や組織の遺伝子発現パターンを読むために、マイクロアレイを利用することができるのです。

これらの脚本を読む際に直面する最大の難関は、脚本がゲノム特有の言語で書かれているということです。それは、今ようやく学習し始めたばかりの言語です。従って、新しい細胞や組織を研究するとき、その遺伝子発現パターンを理解しようとすることは、私たちにとって挑戦なのです。

私たちの採るべき手段は、そのパターンを研究することによって、その言語を学ぶ努力をすることです。小さな子供が言葉を学ぼうとするときは、脇目もふらず、言葉の使われ方を非常に注意深く逐一観察していますが、それと同じです。

[図 7]
このスライドは、ゲノム言語のパターンを研究する方法の一つを表していますが、ゲノムの発現パターン地図だと考えてくださればよいでしょう。

この地図は、表のようになっていて、縦のカラムはそれぞれ、一つのサンプルに存在する遺伝子全て(ここでは、6,000の遺伝子)の発現を測定した結果が示されています。つまり、縦のカラムの一つ一つは、マイクロアレイ解析1回分の結果です。

そして、それぞれの列には、私たちが解析した種々のサンプル一つ一つに存在するある1個の遺伝子の発現を測定した結果が表されています。この場合には、400以上のサンプルを解析しています。

このマップにおける個々のポイント、あるいはピクセルは、特定の組織サンプル1個に存在する11個の遺伝子の発現結果を示しています。

しかし、このように、何百万という数のデータを掲載した表から、その意味を読みとろうとする人はいないでしょうし、こうした測定結果を表すには、カラー・スケールを利用したほうが、遙かに簡単で実用的です。ここでは、明るい黄色で最高の発現レベルを、紺色で遺伝子が全く発現していない場合を、その中間の色で中間レベルの発現状態を表しています。

最終的には、これを有益なマップにするために、非常に良く似た発現パターンを示す遺伝子を一緒にまとめるクラスタリングという手法を用いてデータを整理しました。また、非常に良く似た発現パターンを示す細胞や組織のサンプルのクラスタリングもできます。

このような図を見れば、ゲノムの発現パターンがいかに複雑に込み入っているか、ただちにわかります。ゲノムの発現パターン、組織中の細胞、発現している1組の遺伝子、そして、それら遺伝子の発現レベル、これらの間には、何と多くの変化があることでしょう。また、そうしたプログラムが、実に高度に制御されていることもわかります。特徴的な発現をしている系統的な遺伝子グループが観察できますし、発現プログラムが似たものや違うものなど、様々なパターンを示す細胞を見分けることもできます。








 
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