The Takeda Foundation
カフェ de サイエンス
カフェ・デ・サイエンス Top

カフェ トップ
福井カフェ(初日)
Page 1
Page 2
Page 3
Page 4
Page 5
Page 6
Page 7
Page 8
リーフレット

科学技術週間 カフェ・デ・サイエンス in 福井


講師: 斎藤成也(さいとう・なるや)、
ゲスト講師: 佐々木閑(ささき・しずか)
日時: 2006年4月21日



日本人はどこから来て、どこへ行くのか BACK NEXT

三井: 言語については、佐々木さんが、いろいろ考えがおありだそうです。

佐々木: インド・ヨーロッパ語族というのがありまして、 1786年にウイリアム・ジョーンズというイギリス人が初めて発見するんですね。インドとイラン、それからヨーロッパ全体の言葉が、 全て元は同じだということを発見した。その頃、ちょうど、進化学が発達した時期で、ラマルクからダーウィンの時代なんです。 そこで、その進化学のやり方を言語学に適用しようという動きが出てきました。言語の中に残っている痕跡を使って、 一番大元のインドからヨーロッパまでの全てに共通する言語の元は何だということを探る、言語学と進化学が平行して動いて行く面白い時期があったんです。 ただ、残念ながら、DNAに相当するような、始めから終わりまで全ての情報を一本化して残して行くというような機構がなかったので、 かなり散発的になって、うまくいかなかったんですが、一つだけ例を言いますと、「白樺」という単語があるんです。 英語で "birch" ですね。ところが、インド・ヨーロッパ語圏内の、白樺の生えていない国に、「白樺」に対応する言葉が残っているところがある。 モノがないのに、言葉がある。これは言葉の化石です。つまり、一番大元の言語が使われていた場所には白樺があったけれども、 その言葉が南方の白樺のないところへ広がっていった。 そういう例を集めていくと、中央アジアからスカンジナビアの寒い地域が元であろうというところまで分かるんです。 こうして、進化学と言語学を並べてみると、面白い共通性があるということですね。

三井: 言語の場合は、音だから消えてしまいますよね。文字が残っていないと、 昔どんな言語が使われていたかということが分からないんじゃないかと思うんですが。

佐々木: そのインド・ヨーロッパ語の大元のところでは、もちろん文字など使っていなくて、音だけですから、 そこには非常に不確定な要素が出て来ることは間違いないんです。ただ、母音変換の規則性というのがあって、 いろんな単語が変わっていくときの規則があります。それをある程度適用して、仮説ですけども、元はこういう音が、こういう規則で変わって、 今はこうなっているんだろうという予測をたて、大元の形を推定するというようなことはできるんですね。 たとえば、インド語では、お父さんのことはパートル、お母さんのことはマートル、兄弟のことはブラートル、姉妹のことはスヴァスリと言いますが、 今の英語と非常に似ている。そういうものを皆合わせていくと、元の音まで、かなりたどれるということは分かるんです。 ただ、文字はありませんから、全体にそうだということは言えないけれど、逆に、文字が残っていても、発音は分からないんです。 そういう意味では、かなり不確定な要素はある。僕らの世界にも、DNAがあったら良かったのにな、とつくづく思いますけども。

三井: ものが残っていないということで言えば、生物学的な進化の場合でも、 ずっと昔のものは残っていないものはあるわけですね。例えば、皆さんが事前に書いて下さった質問の中に、昨日まではサルだったけれども、 ここからは人間という境目はどこだというようなのがありましたけども、そういうのは、どう考えたらよろしいんですか。

斎藤: 実験できれば良いんですけど、実験しちゃうと、マッドサイエンティストと言われて、 逮捕されちゃうと思いますが、空想はできます。チンパンジーのDNAで、ここは人間性に大事だと思われる部分を全部、人間のDNAに置き換えます。 チンパンジーと人間のDNAは、約1%の違いがありますので、約3千万個の、A、G、T、Cが違いますが、大事なのは、せいぜい1万個程度だと、 私は思っています。そこで、違っている塩基を一つずつピンポイントで変えてやるんです。今はできませんけど、 私は、あと十年くらい経ったらできるのではないかと思っています。とにかく、それを、チンパンジーのお母さんのお腹の中で育ててもらって、 産まれてきたのが人間にそっくりというのはあり得ます。そういう実験ができれば、どの遺伝子があれば人間になるかというのが分かるでしょうが、 そういう実験は、今も、これからも、多分できないでしょうから、証明するのは難しいと思います。

三井: 「日本人がどこから来たか」というテーマへ引き戻したいんですけれど、日本の原住民、つまり、 日本列島に一番古くから住んでいた人はどういう人なんでしょうか。

>> 方言を分析していったら、日本の言語が出雲の国から生まれ出たらしいという話を聞いたんですけども、 日本人も出雲の国から広がったのかどうかということを知りたいんですが。

佐々木: 出雲にも、福井と同じように、無アクセントの場所があるという、いわゆる根源的なもので、 それが大陸に繋がっているということなんですかね。そういう説は聞いたことがないんですが、神話的な流れから言えば、 当然、出雲から出てもおかしくはないですね。いくつかある日本人の出発点の一つだと思いますがね。

斎藤: 出雲大社は、実際は、今の4倍高かったという話ですね。今、24メートルですか。 その2倍、48メートルあったのは、まず間違いない。ひょっとしたら、その倍、96メートルあったという説がある。 強大な権力がないと、それほど大きな建物は造ることができないですよね。銅矛や銅鐸がいっぱい出土したことで有名な荒神山遺跡というのがありますよね。 あれが出雲の国ですから、大和朝廷が起こる前に、出雲に強力な政権があったことは間違いないと思います。そうすると、東京方言が標準語になったように、 元々の日本語も、その辺で普通に使っていた出雲方言が昔の日本語の原型になり、渡来人がそれを使って変形していったという可能性はあると思いますね。

三井: 日本人と、朝鮮半島に住む人や中国人は、見かけは随分似ていますね。 ところが言語的には、文法は日本語と韓国語は同じだけど、中国語は全然違うという。そのへんは不思議ですね。

>> 言語の話も面白いんですが、日本列島は、太平洋の堤防みたいになっていて、どんどん、いろんな人が流れてきて、 吹きだまりのようなもんだと、今回のチラシに書いてありますね。吹きだまりにいる人のDNAと、中国の真ん中みたいに、 通過していくところにいる人のDNAには、何か違いがあるんでしょうか。

斎藤: 単純に言えば、日本は島ですから、いろいろ変なのが集まって来て澱むということで、いろんなのが残るわけですよね。 大陸ですと、ある時、ブアーッと人口が増えれば、ガラッと変わる。我々の「古代DNA」でやっているんですが、3千年前の殷や周の時代にいた人と、 今の中国の人とは全然違う可能性がある。ところが日本は澱むから、そんなにガラッと変わらない。そういう違いはあるんじゃないかなぁという気はしています。

三井: 進化の問題を考えるときに、進化的な時間のスケールと、 我々が日常生活しているときの時間のスケールが感覚的に余りも違い過ぎて、非常に考え難いんですけども、何かピンとくるような方法はないんでしょうか。

>> 私もそう思います。変わったか変わらないかを議論するときに、25年とか30年が一世代として、 そのN倍のNがいくつになるのかがはっきりしません。今の話は3千年前ですが、6百万年前というと、何代くらい前になるのか。DNAが変化していると聞くと、 大正時代のことかと思ってしまうけれど、本当は、もっともっと時間をかけて変化しているんでしょうから、妙に短絡した話になっているような気がしています。

三井: 簡単に変わったと言われるんですけど、 その変わったことが表に出るまでにどのくらいかかるかということもありますし、私達の実感としては、 せいぜい、ひいおじいさんがひいおばあさんかの代しか分かりませんよね。ところが進化の話で1万年前というと、300代にもなって、 もう何が何だか分かりませんよね。

斎藤: チンパンジーと人間の違いでは、突然変異が大事なんですよね。 つまり、我々人間が共通してもっているあるDNAがチンパンジーでは違うとすると、そのDNAは、我々のご先祖様より、もっと前に変わっていることになる。 ところが、今話している2千年とか3千年前の人の話は、突然変異というよりは、むしろ、遺伝子の割合が違うとか、そういうレベルですからね。 日本人であっても、一瞬であろうと一世代であろうと、大きな変化は起こります。これは混血ですよね。終戦後に作られたエリザベス・サンダースホームでは、 アメリカ兵と日本人女性との間に生まれた孤児が養育されましたけれども、大きく違う集団が混血すれば、ガラッと変わるということは瞬間的にも生まれますからね。 我々が日本人の起源を考えるときには、そういう変化を考えているのであって、 長いスパンにおける突然変異というのはあんまり考えなくてもよいと思うんですけどもね。

>> 日本人というのは何でしょうか。この日本列島に住んでいる人が日本人なのか。 DNAのようなもので区別するものなのか。あるいは、国旗に向かって敬礼するものが日本人なのか。その言葉の定義を教えて頂きたいと思います。

BACK NEXT


Last modified 2006.07.04 Copyright(c)2005 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.