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第19回レポート
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第19回リーフレット

第19回 カフェ・デ・サイエンス


講師:  大島泰郎(おおしま・たいろう)
ゲスト講師:  榊佳之(さかき・よしゆき)
日時:  2008年5月31日



異端児のみる生命 「生命の知・工学の知」 BACK NEXT

三井:「微生物は敵か味方か」というテーマは、大変面白かったのですが、敵の話に片寄った気がしますので(笑)、今度は、味方の話を、是非、大島さんにやって頂きたいということで、皆さんと一緒にお願いしたいと思います.(拍手)

遺伝子工学が始まってから、もう30年余り経っていますが、変な事は起っていませんから、安全面ということでは、かなり信用してよいのではないかと思います.

C:先日、神戸大学で、遺伝子を組換えた細菌を流しに捨てたというニュースがありましたので、実際に起こり得るという不安があります.

三井:少し話題を変えましょう.また、『人を助けるへんな細菌すごい細菌』を持ち出しますが、慶応義塾大学で、メモリーを保存する細菌が開発されたそうです.枯草菌の遺伝子の中に、アルファベットの文字列を塩基配列に対応させたDNAを、何カ所かに組み込んでおくというものです.例えば、自分の名前を特定の塩基配列で決めておいて、それを組み込んでおくと、そのバクテリアを誰かが盗んで増殖させたとしても、持ち主が分かるというようなことでしょうか.

榊:DNAを構成する塩基は4種類しかありませんが、特定の組み合わせにすれば、文字列として、それが出てくる確率は非常に少なくなりますね.そこで、そうした文字列をバーコードのように利用するということは、広く行われています.犯罪捜査に利用されるDNA指紋というのは、正にそれです.また、現在、「DNAバーコード計画(International Barcode of Life Project)」というのがあります.地球上の全生物種のそれぞれに特色ある配列を、バーコードとしてデータベースに登録し、各々の生物が棲む場所や地域を特定したり、生物の分類にも役立てようという壮大な計画です.カナダ人の研究者が、森林を守るために始めたのですが、非常に難しいことですので、本当にできるかどうか分かりませんし、それだけのことをやる必要があるのかどうかも分かりません.

D:それと似たことを、日本電気がやりましたね.日本電気の9800というパソコンを、エプソンがコピーしたのですが、日本電気は、プログラムの中に、NECというロゴを入れておいたわけです.それをやった人が私の友達だから知っているのですが(笑).

榊:今、理研が作った人工的なDNAを自動車の塗料に混ぜて、個々の自動車を識別するというような研究が、トヨタ自動車と共同で進められています.塗料を分析すれば、どの車かという製品番号まで分かりますから、ひき逃げ犯の探索などに役立つことになります.

大島:実は、私が昔やったことで、今でも面白いと思っていることがあります.遺伝情報からタンパク質が合成されるときは、トリプレットといって、4種類の塩基、A、T、G、Cから任意に三つが選ばれたものが、遺伝暗号の単位となって、タンパク質のアミノ酸の並び順が決まります.その3文字目は、80%程度の自由度があって、3文字目が違っていても、できるタンパク質は変わりません.3文字目は人為的に変えられますので、自由に通信文を作ることができます.それを何に使うかというと、ETに手紙を出すときに使います(笑).それが、国際の天文学雑誌に載りました.それだけではなくて、次の週のNewYork Timesの科学欄でも紹介してもらいました(笑).拾い出した3文字目を縦横に並べ替えると、絵が浮かび上がるというやり方で、色盲の検査紙みたいなものを作ればいいわけです.

B:今年の武田シンポジウムで、林原が大成功を収めたトレハロースの話がありました.効率良くトレハロースを作る酵素を選び出すために、1万種以上もの細菌を調べたそうですが、遺伝子組換え技術に反対する世論に配慮したからだということでした.人間が神の領域に近づくのはまずいのではないかと思われているような発言もありましたが、遺伝子組換え操作で改良する辺りまでなら、私は肯定的に考えます.

三井:やはり、既存のモノを上手く利用するために工学の知を働かせるのが良い方向ではないかと思いますが、どういう方向に行くかが問題ですね.特に、特定の人なり企業なりが、自分の利益のためにやると、大きな顰蹙を買うことになります.モンサントが、農薬耐性のダイズと農薬をセットにして売り出しましたけれど、これが、遺伝子工学に対する抵抗勢力を作ったということもあると思います.

C:僕には、人間が、生態系から飛び出して、自分達だけで組織を形成し、それ以外の自然との間に線引きして、独立して生きているようなイメージがあります.更に、人間が人間に都合の良い生き物まで作ることができるようになると、人間はどんどん自然から離れていくような気がします.

三井:前回、「進化」をテーマにしたときも、人間は生物の中では特殊だという話がでました.

榊:私も、生物の中で人間は特殊だと思っています.これだけ同じ生物種の数が増えたら、食糧不足とか、感染症が広がって、一般の生物進化では、絶滅しないまでも、それに近い状態になっているだろうと思います.人間は、工学のような知恵をもった未曾有の生物なわけですが、やり過ぎてしまって、自然から独立しているように見えたりします.しかし、どう考えても、自然の力のほうが大きいわけですよ.ここ数万年だけを見れば、人間は理想的にやっているように見えますが、自然環境が大きく変われば、どうなるか分かりませんね.

従って、自然環境を少しでも長く持続させるためには、人間がやっているプロセスを、この自然のサイクルに適した形にしたほうが良いということで、生命の仕組みを工業プロセスに取り込んでいこうというのが、私の主張なわけです.

E:我々の大多数は、遺伝子組換えトウモロコシから作られたサラダオイルなどを体内に取り込んでいると思いますが、遺伝子組換え作物が存在しなかった時代の人間と今の人間は、遺伝子レベルで見て、本当に同じなのでしょうか.(笑)

榊:同じかどうかは分からないと思います.生物というのは、個々に多様であって、生き残ることができるものだけ生き残るというのが生命の原則ですから、今の我々は、いろいろな自然環境の中で、いろいろな選択を受けて、生き残ってきたわけです.そこには、トウモロコシの影響もあるかもしれませんが、それだけで変わることはないし、それだけで滅んでしまう程、生物は柔ではないと思います.30年前と今とでは、トウモロコシだけでなく、自然環境も大きく変わっていますし、私たちが食べているものだって、30年前とかなり違っていて、糖尿病は非常に増えていますからね.


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