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第19回レポート
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第19回リーフレット

第19回 カフェ・デ・サイエンス


講師:  大島泰郎(おおしま・たいろう)
ゲスト講師:  榊佳之(さかき・よしゆき)
日時:  2008年5月31日



異端児のみる生命 「生命の知・工学の知」 BACK

三井:私は、今の意見に全く賛成ですが、反対なさる方はありませんか(笑).

O:今の意見には、私も賛成です.また、榊先生が仰っていたように、やはり計測から始まるのだろうと思いますし、大島先生の仰るように、工学と生命をコーディネイトできる人を育てていかないと、調和のとれた世界は作れないのではないかと思います.人間が90億人にもなったら、食べ物も水もエネルギーも、足りませんからね.今日は、非常に大切な話を聞かせてもらっていると思います.

三井:生命については、分かっていないことのほうが多いと思います.ゲノム解析ができたのは素晴らしいことですが、それだけでは、どうしようもありませんね.では、次に、どういうことが分かればいいのかという辺りを、お話して頂けますか.

榊:実際に、我々が今、生命現象の中で理解していることには、おそろしく限りがあります.微生物というのは、海底1万メートルから、上空8千メートルくらいまでのところなら、必ず居ますし、火山の周辺にも、お腹の中にもたくさんいて、いろいろな化学プロセスを非常に上手くやっているわけですが、発見されていない微生物のほうがはるかに多いのです.そうした微生物のゲノムから、我々が有用と思えるような遺伝子を見つけ出すことが先決だろうと思います.

植物は、非常に有効に、太陽エネルギーを化学エネルギーに変えていますけれど、微生物の中にも、そういうものがたくさんあるでしょう.また、我々は、今、使いやすい石油だけを使っていますが、利用不可能だと思われている石油を取り出すことができる微生物もいると言われています.素材にしても、残留廃棄物になってしまうようなものではなくて、バイオプラスチックのように自然界の中でサイクルする素材のようなものは、植物と微生物が作り出しています.微生物の世界は、まだまだ未知の世界で、宝の山になっているという話です.

大島:環境のためには、新たに石油や石炭などを使わないで、我々が今持っている炭素の資源を速く回さなければいけないわけです.つまり、光合成で生産してから、分解して土に戻すサイクルです.ここで、生産するほうは、不思議なことに、非常に単純化した生態系を使います.同じ畑に同じ作物を植えるとか、牛や豚を一カ所でたくさん育てるということですね.そして、それらを使った後で処理するほうは、微生物なのです.それを微生物でやらないで、焼却に持ち込むと、環境に悪いことが起る.戻すほうは、不思議なことに、制限した単純化した生態系では不可能なのです.

我々の腸内もそうですが、微生物が集団で作業していることの詳細は、ほとんど分かっていません.集団全体のゲノムとなると、ヒトのゲノムの十倍から30倍くらいになりますから、強力な解析手段が必要です.それに、我々は、今迄、細胞が単位だということで、微生物は一個一個生きていると思っていたのですが、集団で棲んでいる場合は、全体が一つの生き物みたいな意識をもたないといけません.変わった形の多細胞生物という、システムが働いているわけですが、それが、いつ、どのように働いているかという解析も、まだ全然進んでいません.そういう微生物のことが分かってくると、分解のプロセスにも、工学の力を入れることができると思います.

三井:結論めいたお話がでたところで、そろそろ時間ですが、どうしても言いたいことがあるという方は、いらっしゃいますか.

P:私はどちらかというと、社会科学系ですが、遺伝子組換え技術の産物は、それが目に見えないだけに、漠然とした不安が常に付きまとっているのではないかという気がしています.ゲノム情報を使って、何か新しいものを作っていく場合には、どのような議論がされていくのかということを、やはり、少しお聞きしたいと思います.

榊:遺伝子工学ができたのは1972年ですが、1975年に、科学者が自主的に集まって、これをどうやって安全に使っていくかという議論をしました.一つは、物理的に広がらない方法、そして、使っている生物が自然界の中で生きられない方法です.その二段構えで、安全は保証しようということでやってきました.今また、同じような議論が始まっていますが、まだ物事が動いていないという感じです.

最初の頃のように、微生物や細胞レベルであれば、コントロールできますが、遺伝子組換え作物のようなものを、屋外で栽培するときにはどうするかという議論は、ずっと続けられています.この20年くらいの間に、自然環境が特段変わったことはないけれど、100年後になると、変わるかもしれないし、変わらないかもしれない.この議論は、どうにもならない議論なので、人間の知恵で防ぐしかありませんね.

研究者自身は、大変慎重で、かなり注意深くやっているはずです.ただ、どこかで、訳の分からない人がやりだすことになると、これは科学者の領域を超えますが、少なくとも、合成生物学と呼ばれる分野は、かなり前の時代の経験があって、慎重な議論をしながらやっています.

D:先程、遺伝子工学が品種改良の一つとして良い方法だというお話がありましたが、実際に、遺伝子組換え作物とそうでない作物の収量を比べてみると、遺伝子組換え作物のほうが少ないこともあるそうです.遺伝子組換え作物の種子は、毎年、必ず購入しないといけないことになっていて、資本の論理に屈服したような形で売られているわけで、遺伝子組換え技術が、必ずしも品種改良に使われているわけではないということを言っておきたいと思います.

榊:収量が減ったという話は聞いたことがありませんね.単位面積当たりの作物を作る生産効率は、この10年間で相当アップしているという統計がでていますので、農業プロセスの改良もあるとは思いますが、遺伝子組換え作物が増えてきていることと関連していると思っています.今のところ、耕地は増えていませんね.世界の作付け面積をみても、ダイズは7割くらい、トウモロコシも5割以上が遺伝子組換えです.遺伝子組換え技術は、人口の増加に見合う食糧を供給していくのに、かなり貢献しているのではないかと思っています.

三井:ここで、もうお終いにします.今日は、有り難うございました.(拍手)


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Last modified 2008.07.22 Copyright(c)2005 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.