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第25回レポート
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第25回リーフレット

第25回 カフェ・デ・サイエンス


講師:  大島泰郎(おおしま・たいろう)
ゲスト講師:  遠藤浩良(えんどう・ひろよし)
日時:  2009年8月17日



異端児のみる生命「クスリのリスク」 BACK NEXT

三井: 今日のテーマは「クスリのリスク」です.これは、他ならぬ大島さんのご提案ですが、回文になっていることに、皆さんはお気付きだったでしょうか.そして、今日の講師としてお出でくださったのは、遠藤浩良さんと、いつも来ていただいている大島泰郎さんです.

今回は、参加を申し込まれた方が事前に出してくださった質問が非常に多岐に亘っていますので、最初に、少し整理して、話題を絞ってみようと思います.

先ず、最も関心のありそうな話題は、毒と薬の関係です.毒だったものが薬になったり、薬のなかには副作用が出て毒になるものがあります.では、副作用とは何かということになると、それは量的な問題なのかもしれませんし、他のものとの組み合わせで起こるのかもしれません.そうすると、薬を何種類も飲んでいらっしゃる方は心配になることもあると思います.また、普段、食べたり飲んだりしているものでも妙なことが起こるという場合があります.私が知っている最もひどい例は、風邪薬をブランデーで飲んで死にそうになった人があるというものですが、そういうことがいろいろあると思います.

それから、漢方薬についてお尋ねになっている方も数人おられます.人間が合成した薬は成分が分かっていますし、単品が多いので、それがどのように作用するかは理解できますが、漢方薬にはいろいろなものが含まれていますから、かなり複雑です.

これは私も考えることですが、薬なしでも病気は治るのではないかとコメントされた方がいらっしゃいます.生物の体には恒常性を保とうとする機能があります.外部から入ってくる異物を処理する免疫系とか、肝臓での解毒作用などといったシステムがあるわけです. 従って、そういう個々の身体的な機能に問題があって起こる副作用もあると思います.つまり、個人差による薬の作用ですね.

また、昔から多くの人が求めてきたのは不老長寿の薬です.今でも求め続けているかどうかは疑問ですが、最近、Natureにラパマイシンという薬がネズミの寿命を延ばしたという記事が出て話題になりました.薬で寿命をどうにかできるようになるのでしょうか.こうした話題にも興味があります.

最後に、薬からは少しはみ出しているかもしれませんが、サプリメントの問題があります.売る方は薬のような作用を謳い文句にしていますが、どこまでが薬で、どこまでがサプリメントなのか.また、サプリメントについて、どのように考えたら良いかということも話題になるかと思います.

では、最初に、自己紹介を兼ねて、遠藤さんにお願いします.

遠藤: 「異端児のみる生命」という一連のシリーズで私が呼ばれた理由は分かりませんが(笑)、日頃から、自分でも異端児の一人ではないかと思っているものですから、見事にハマっているということでしょうか.

私は昭和5年生まれですから、今年で傘寿になります.敗戦後、日本の教育制度が大きく変わり、好むと好まざるとに係らず、新制大学で教育されることになりました.その新制大学で教えておられた先生は全て旧制大学で教育を受けた方々ですが、「新制大学出の人間が日本を背負うようになったら、日本は滅びるのではないか」と随分虐められたものです(笑).だから異端児にならざるを得なかったという面もありますが(笑)、薬学の世界においても、製薬業界においても、異端的な発言の多い人間になっております.

現在はNPO・医療教育研究所の理事長として、薬剤師の生涯研修のためのプログラムを提供する仕事をしています.薬剤師には、世界的な薬の進歩に付いていくために、また正しい薬の流れをつくっていくためにも、常に勉強してもらわなければいけません.その手段として、多様な課題を扱ったプログラムをウェブ上に用意しています.それを、勤めを終えて家に帰ってから、パソコンに向かって勉強するということになります.そういう仕事の関係上、世界の薬の動きに接していますので、薬に関する雑学的な知識は、忙しい現役の先生より多いかもしれません.

もう一つの仕事は、横浜市立大学で、非常勤講師として、創薬科学についての講義をしています.これから薬に携わるかもしれない20歳前後の若い学生さんに、過去の経験も含めて、薬について語っております.所属学部は国際総合科学部環境生命コースといいますが、「国際」、「環境」、「生命」といった今流行の言葉を全て並べていても、よく分からないので、「古い言葉で言うと、どういう学部学科ですか」と聞くと、理学部生物学科だということでした.(笑)

昔からそうですが、今でも、理学部を出てもなかなか飯が食えないということで、横浜市立大学でも理学部生物学科の卒業生の大多数は製薬企業の就職試験を受けるそうです.そのとき、薬系の大学を卒業した人と張り合うことになりますが、薬のことを何も知らないのは大変不利だということで、薬のことを教えて欲しいと言われました.従って、今の私は、一方では薬剤師のために働き、一方では薬学部生を食いつぶそうという理学部生を教育していますから、敵に塩を送っているようなものですが、これも、異端児の一つの役割かもしれません.(笑)

戦後、アメリカ軍が日本に入ってきたとき、彼らはペニシリンを持っていましたから、肺炎などで死ぬことはありませんが、栄養不足で苦しんでいる日本国民は肺炎で簡単に死んでいきました.薬があるかないかによって生死が決まる.それを目の当たりにして、薬というものは大変素晴らしいものだということを知ったわけです.その後(1956年)、そのペニシリンで、当時の高名な尾高朝雄・法学部教授が、虫歯の治療の痕が化膿しないようにと注射されたペニシリンでショック死をするという有名な事件がありました.この事件で、初めて、薬もまた怖いものであるということを世の中が知ったのですが、その後、薬害と一括して言われるような薬による悲惨な事故、いわゆる薬の副作用による健康被害の例は多々ありました.「薬害」と言うと、薬が害になるようで、厚労省などはその言葉を使いたがりません(笑).正式には、「医薬品副作用健康被害」となっています.

今日の表題は「クスリのリスク」ということで、薬というのは確かにリスキーなものであるということもいろいろと経験してきましたので、そのようなところから、皆さん方に具体的なお話ができるかもしれないと思っております.

ごく最近の話題では、宇宙飛行士の若田光一さんが骨粗鬆症の治療薬(ビスフォスフォネート)を長期の宇宙滞在中に服用して、正に体を張った実験をやってきました.宇宙飛行士が無重力空間で長い間生活していると、骨粗鬆症になることが分かっています.そこで、我々の住む1Gの地上で開発された骨粗鬆症の薬を宇宙で飲んでいたわけです.その薬などは、我々の体の中には全く存在しない原子間結合様式をもつ物質で、典型的な生体異物です.もし、この世に神様が存在して、神様がこの生命をお創りになったのだとしたら、そういう存在しない物質は、(存在してはいけないから)?作らなかったのではないか.そういう異物を薬として使っても良いのか.それは人間として不遜な行為ではないか.そういうことを、個人的には思ったりしますが、うっかり喋ると、製薬会社の方に非常に渋い顔をされます(笑).実は、世界では、特に日本では、現在その薬が骨粗鬆症の第一選択薬、つまり、骨粗鬆症になったら最初にその薬を使うということになっているのです.

このあとは、皆さんのご質問に応えながら、新聞やテレビなどのメディアで採上げられないようなことも含めて、現在の考え方についても、いろいろとお話してみようかと思っております.


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Last modified 2009.10.27 Copyright(c)2005 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.