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第27回レポート
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第27回リーフレット

第27回 カフェ・デ・サイエンス


講師:  大島泰郎(おおしま・たいろう)
ゲスト講師:  長瀧重信(ながたき・しげのぶ)
日時:  2009年12月21日



異端児のみる生命「放射線の影響」 BACK NEXT

三井: 比較するにも、放射線を全く浴びていないというコントロールがないわけですね.

大島: 同じ動物を使って、洞窟に入れたものと入れないものを比較すれば、多少の差は出てくるかもしれませんが、洞窟内の放射線を完全にゼロにすることはできませんから、微量の放射線を浴びるのが良いかどうかを実験するのは、人間以外の動物のレベルでも大変難しいのだろうと思います.

三井: 最初に弱い放射線を浴びると、後から強い放射線を浴びても抵抗力ができているというお話を聞いて、以前、「タンパク質の品質管理」というテーマのときに、永田和宏さんが話してくださったことを思い出しました.つまり、最初に小さなストレスを与えておくと、そのときにつくられたストレスタンパク質によって、次に強いストレスを与えたときにはストレスに対する態勢ができているということでした.それと関係がありますか.

大島: DNAに傷が付くと、修復系を活発に誘導するという機構があるかもしれないという気がします.

休憩前に、もう一つだけ質問したいと思います.既に、三井さんから、人間以外の動物で放射線に強いものがあるという話がありましたが、私の専門に近い微生物で、ラジオデュランス(Deinococcus radiodurans)という種類の菌は、桁がいくつも違う程、放射線に強いのですが、なぜ地球上にいるのかは分かっていません.もっと分からないのは、その辺の土に棲むクマムシで、これがものすごく強い.私はそのように聞いていたのですが、クマムシの専門家に聞くと、放射線に弱いのもいるそうです.とにかく、なぜ強いかは誰も知らないのですが、自然界には、このように、微生物でも昆虫でも、特異的に非常に放射線に強いのがいます.そこで質問ですが、放射線に対する人間の個人差には、どれくらいの幅があるのでしょうか.

長瀧: それは大きな問題です.疫学的な調査では、個人差は無視されています.医学そのものにしても、最近の大規模な疫学試験や介入試験では、全て個人差がないのです.私たちの年代は、目の前の一人の患者さんをどうするかということだったのですが、今は、一般的な統計がどうだという話になっているようです.ただ、人に会って話を聞くと、「こんなに被爆しましたが、元気です」と言われることもあります.

私が学生の頃は、結核が大問題でしたので、結核研究会に入り、埼玉県の田舎へ出かけて、子供のレントゲン写真を撮ったりしました.そのときは、こちらもX線を浴びながら子供を支えて、1日に10?20人もの写真を撮ったものです.それを1週間ぐらい続けましたから、被曝線量は原爆の被爆者の高い被曝線量くらいは浴びたと思います.また、当時の先生は、胃のレントゲン写真をとるとき、手で触っていましたから、手に毛が生えているのは、まだ1人前ではないと言われていました.当時は、それ程無防備でした.もちろん、疫学的には、その頃レントゲンを撮っていた先生には、がんの発症率が高いといわれています.しかし、私は、個人的に非常に多くの線量を浴びたにもかかわらず、今のところは何もありません.個人差というのはそういうレベルでしか分かりませんね.

大島: 今の時点では、放射線に強いかどうかの検査はできないわけですね.それができれば、がんになったときに重粒子線の治療を受けるのに適しているかどうかが事前に決められるのですが.

長瀧: 大事なことは、個人の感受性をどうやって調べるかということです.例えば、被爆者とタバコの害を一緒に調べた調査では、タバコを1日に40本以上吸っていた人は、確かに、普通の人よりも多く肺がんで亡くなります.しかし、タバコを吸っている人に限れば、肺がんになるのは14人に1人という結果があります.つまり、14人のうち13人は、いくらタバコを吸っても肺がんにならないわけです.そういう集団があった場合には、DNAを調べて比べてみれば、将来は個人差の原因が分かる可能性があります.

ある1人の被爆者ががんになっても、それが被曝によるものかどうか、DNAを調べても分からないという話をしましたが、どれくらいの被曝でどうなったという生存者の記録をしっかり取り、その人達の組織を残しておけば、今から50年も経つ頃には、DNAで分かるようになるかもしれません.今は研究などしないで、現生存者の組織を100年程度保存しておくことが、今我々にできる最も良いことではないかという気がしたこともあります.山の中に保存しようという計画を立てたこともあります.

三井: お話が続いていて中断しにくいのですが、ここで少しお休みにします.

(休憩)

三井: そろそろ始めます.ここに、放射線の計測器を持っていらっしゃる方がいますので、皆さんに見ていただいてはどうでしょうか.

A: ヤフーオークションで購入したロシア製のガイガー・ミュラー(GM)計数管です.ボタンを押すと測定が始まり、30数秒経つと測定値が出てきます.それが1時間あたりの放射線量です.今、この部屋では、1時間あたり5マイクロシーベルトになります.

大島: それはどういう目的で売られているのでしょうね.やはり、チェルノブイリ絡みの製品でしょうか.

三井: 説明書には、「食品を測る場合には、ガイガーカウンターに絶対水分などを付着させないでください」とか、「内部に水が侵入した場合には、携帯電話などと同じく、使用を諦めてください」とか、やたらに水に濡らさないようにと書かれています.「アルファ線には反応しません」とも書いてあります.

長瀧: 非常に珍しいものを拝見させていただきました.チェルノブイリでは、外国の人が感度の良い線量計を持参して、あちこちの家に入り込み、そこら中にカウントがあると言って大騒ぎしたので、住民達はパニックに陥ってしまいました.その当時我々が持ち込みましたのは、普通の研究室が使っている線量計で、線量計の感度は、約1マイクロシーベルト/時間でした.汚染地域の中も随分歩きましたが、すべて感度以下で、意外なかんじだったことを思い出します.この部屋で1時間当たり5マイクロシーベルトというのは、日本の平均よりは多過ぎるのではないかと思いますが.

原爆においても、被曝線量が正しいかどうかが裁判で話題になります.放射線は距離の2乗に反比例して減衰しますが、何も無い所に比べて、何かモノがある所では、その遮蔽によって線量が変わります.従って、原爆被爆者の患者さんは、1人1人、被爆の時に、どこでどのような格好をしていたかが調べられています.原爆という1つの放射線の源から出ている放射線として、原爆からの距離で計算されます.それから、JCO事故の時も、中性子がどんどん出ている間、付近の住民は、中性子が出ている場所からどれだけ離れた所に居たのか、壁の向こう側に居たのか、それともこちら側かというのを全て調査して、1人1人の被曝線量が推定されました.つまり、放射線源がどこにあるかによって、測定の仕方が変わります.


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