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第28回レポート
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第28回リーフレット

第28回 カフェ・デ・サイエンス


講師:  大島泰郎(おおしま・たいろう)
ゲスト講師:  林利彦(はやし・としひこ)
  福井寛(ふくい・ひろし)
日時:  2010年3月15日



異端児のみる生命「粧う (よそおう)」 BACK NEXT

三井: 今日のテーマは「粧う」です.「化粧」というテーマでも良かったのですが、それでは人間のことだけになってしまいますし、動物の擬態も話題にしたいということで、「粧う」としました.

男の方たちには化粧なんて関係ないと思っていらっしゃる方が多いのではないでしょうか.ところが、近頃の若い男性はものすごくお化粧をしているようです.「少年に化粧の鏡建国日」という俳句が新聞に載るくらいですし、『男はなぜ化粧をしたがるのか』(前田和男著、2009年、集英社新書)という本には、石器時代から現代に到る迄、時代時代で、男の人がどのように化粧をしてきたかということが書いてあります.

最初に、皆様からお寄せいただいた質問を整理して申し上げます.先ず、化粧の歴史についてお知りになりたいという方がおられました.それから、この質問は当然あると思いましたが、シミ、シワ、ハゲを防ぐ有効な方法は何かというものや、なぜ化粧をするのかとか、化粧は生命の維持と何か関係があるのかというご質問もありました.

動物とヒトとの違い、例えば、動物が何かアイテムを使って粧うことはあるのかとお書きになった方もありますが、それに繋がるのが、動物の擬態です.擬態は、自分の体の色を自分の周りの色に一瞬にして合わせたりすることを言いますが、それは一体どういうふうにするのか.擬態が有効なのは、天敵から身を隠したり、他のものに見せかけて、それを食べると毒だとか怖いという情報を敵に与えて自分の身を守ることができるからですが、捕食のために擬態を使う、つまり、忍者のように身を隠して餌に近づくようなこともあるのではないかというご意見を書かれた方もあります.このようにいろいろな話題がありますから、今日はどういう展開になるのか楽しみです.

今日の講師として来ていただいたのは、林利彦さんと福井寛さん、そしていつもの大島泰郎さんです.

林さんのご専門はコラーゲンということで、肌をいかに良い状態に保つかということが、お化粧と関係しているかもしれません.林さんは、一時、東京医科歯科大学医学部の難治疾患研究所・異常代謝研究室におられたことがありますが、その同じ医学部に、字まで同じという同姓同名の方がおられたのだそうです.(申し込まれた方の中に、ハナアブの生態について質問した方がいらっしゃいましたが)その方は虫の専門家だったそうで、当時は、論文の別刷り請求が間違ってくることがよくあったそうです.私は、当時の林さんにお電話するときに、「異常代謝の林さんをお願いします」と言ったのですが、林さんの代謝が異常みたいで気になったことがあります(笑).

林さんがお書きになった本を、ここに持って来ていただきました.『人の体は再生できるか - コラーゲンからさぐる細胞の設計・組立のメカニズム』(林利彦著、1991年、マグロウヒル出版)という本は、割と易しく書かれているそうですが、『化学教育』の中で高校の科学の先生のために書かれたものはより易しい書き方をしているそうです.それから、英語で書かれた記事もあって、コラーゲンについてよく尋ねられる質問、つまり、コラーゲンを食べたら良いかとか塗ったら良いかというような質問に対してお答えになるようなことが書いてあるのだそうです.

福井さんも林さんも化粧品会社の研究所におられたことがありますが、福井さんは、2週間程前に退職されたばかりです.福井さんがお書きになった『トコトンやさしい化粧品の本』(福井寛著、2009年、日刊工業新聞社)は、見開きの左側に絵があり、右側に文章があるという形式になっていて、お化粧のことが何から何まで書かれています.一番お得意な分野はメーキャップとフレグランスです.

そして、大島さんには、化粧をテーマに取り上げた理由や、擬態を話題にしたいと思われた理由も併せて、お話していただくことにします.

では、林さん、福井さん、大島さんの順に、少しずつお話をしていただきます.

林: 林利彦でございます.コラーゲンの専門家だと紹介されましたが、私が学生の頃は、コラーゲンというのは専門用語で、知っている人はほとんどいませんでした.今では新聞にその名が出ない日はないくらいですから(専門用語使用禁止のカフェ・デ・サイエンスですが)コラーゲンという言葉を使わせてもらってもよいですね(笑).

ただし、多くの人がもっているコラーゲンのイメージは、私のもっているイメージと余りにもかけ離れています.コラーゲンの専門家だということで、市民講座とか大学に呼ばれて話す機会が時々あります.今年の1月には、岡山大学で医学部の学生に講義をしました.そのときの質問も、「コラーゲンを食べたら体に良いのですか」というものでした(笑).生化学者であれば、タンパク質は分解してアミノ酸になるのだから、コラーゲンを食べても、そのままコラーゲンにならないことは常識ですし、教科書にもそう書いてあります.それでも、そういう質問が出てくるのはなぜでしょうか.実は、教科書に書かれていることが全てではないからです.

コラーゲンは非常に偏った種類のアミノ酸からできています.プロリンは、そのうちの一つですが、普通のタンパク質にはあまり入っていません.必須アミノ酸ではないので、あまり重要視されていないアミノ酸の一つです.しかし、プロリンを摂ることは必要です.なぜなら、人間の体を構成しているタンパク質の約3分の1がコラーゲンタンパク質だからです.骨は絶えず分解されて新しく作られています.従って骨をつくるコラーゲンはどんどん作られなければいけません.我々の体は、グルタミンやグルタミン酸からプロリンを作ることはできますが、何でも彼んでもゼロから作るというような無駄はしません.従って、プロリンを摂ったほうが良いということになります.

大部分の人は日常の食事でコラーゲンをたくさん摂っています.魚の煮凝りはほとんどコラーゲン由来ですし、フカヒレスープにも豊富に含まれています.コラーゲンは体を作るために重要ですし、量的にも非常に多いタンパク質ですから、ミルクや卵にもたくさん入っています.但し、インスタントラーメンで済ますような食事をしている人は、プロリンが足りないかもしれません.

コラーゲンには硬いイメージがありますが、体のしなやかさを保つためには非常に重要なタンパク質です.鉄筋コンクリートは、丈夫でしなやかですから、地震がきても大丈夫ですが、我々の体を作るコラーゲンもそういう種類の材料なのです.皮膚や骨などの組織が丈夫でしなやかさを保っているのは、そのおかげです.

私は、長い間、東京医科歯科大学で難病の研究をしていたのですが、その後で資生堂へ勤めたことがあります.朝日新聞の一面に出ていた資生堂の募集広告を見て、是非行きたいと思いました.その広告には、「これからは体の中から皮膚を美しくします」と書かれていたのです.化粧品というのは外部に塗ってごまかすというイメージがありましたので、体の中からきれいにするというアイデアは大変素晴らしいと思いました.面接で、1時間くらい得々とコラーゲンの話をしたことを思い出します.

今日は、いろいろな質問に対して、私が分かっていると思っていることをお話したいと思います.

福井: 皆さん、今晩は.福井寛と申します.私は、先月の終わりまで化粧品会社におりましたが、定年退職をしてから約2週間、毎日が日曜日という楽しい思いをさせていただいております.

私はメーキャップが専門で、ファウンデーションなどに使われる粉末を扱ってきました.私が会社に入って3年目か4年目に、「ナツコ」というファウンデーションが発売されて、ツイストが「燃えろ、いい女」という曲を歌ったのですが、その処方を作ったのは私です.その時に、400万個だか500万個だか売れました.日本では、その記録は未だに破られていません.もっとも、最近は多品種が出回るようになりましたので、その記録を破ることができるような市場構造ではないということもあります.「ナツコ」は両用ファウンデーションですので、乾いたスポンジでも使うことができますし、水で濡らしたスポンジでも使うことができます.そうできるように粉末の表面処理をしたわけです.

その製品が出る前は、濡れたスポンジで付けるタイプのファウンデーションで、パンケーキとかビューティケイクと呼ばれていました.それは水で使う粉ですが、肌に塗られると水を弾くようになります.私が子どもの頃、母親の手伝いで、生クリームをホイップしていたところ、冷やさなかったものですから、バターになってしまったことがあります.生クリームは水と混じりますが、バターは水の上に浮きます.生クリームは水の中に油の粒が分散していて、バターは油の中に水の粒が分散しています.それをエマルジョンと言います.ファウンデーションを水で濡らしたスポンジで取るときは、生クリームのような形で取り、それを顔に塗ると、力の作用とか水が蒸発したりして、油が外側になり、バターのようになって水を弾くわけです.バターに混ざっている粉がなかなか取れないように、ファウンデーションも簡単に落ちません.

その他に、顔の色を変化させるという研究もしてきました.昔は、絵の具を塗るようにして顔に色を付けていました.しかし、いろいろな色を重ねて塗っていくとだんだん黒くなってしまいます.そこで、全く新しい原理で顔に色を付けようと考えました.


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Last modified 2010.05.26 Copyright(c)2005 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.