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第28回レポート
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第28回リーフレット

第28回 カフェ・デ・サイエンス


講師:  大島泰郎(おおしま・たいろう)
ゲスト講師:  林利彦(はやし・としひこ)
  福井寛(ふくい・ひろし)
日時:  2010年3月15日



異端児のみる生命「粧う (よそおう)」 BACK

三井: 化粧品に作用があってはいけないのではありませんか.

林: シアバターなどの成分はステアリン酸やオレイン酸ですが、それらは我々の体の中でグリセロールと結合して存在しています.そして、それらがフリーになって作用していることは分かっています.

F: 私はスキンケア製品の販売に関わっていますが、ミネラルオイルは良くないと先輩が言っています.本当に悪いものなのでしょうか.

福井: 我々研究者は通常ミネラルオイルという言葉を余り使いませんが、それは石油から取った油のことです.我々の立場としては、起源が何であっても、化学構造が同じでピュアであれば、同じ物質として扱います.ただ、不純物が問題にされる場合には、何から取ってきたかで、副作用が変わってくると思います.生物由来のものの方が悪さをする場合が多いような気さえしていますが、それも精製をすれば問題ないと思います.

G: 越前クラゲが大量に繁殖して困っているそうですが、そういうものから化粧品を作るというお考えはありますか.

福井: 私も何かに使えればよいと思いますが、生体のタンパク質にはアレルギー性があるかもしれませんから、化粧品としては使い難いだろうと思います.食べたほうがよいという気がします.

林: 私も越前クラゲが何か使い物にならないかと思います.しかし、私たちのところ運ばれるシステムがあれば使い物にできるかもしれませんが、あれほど大量のものをどうやって運べばよいのか分かりません.クラゲはほとんど水ですから、大量に集めても、水以外のものはほんの一部で、それを研究するのはとても大変ですし、クラゲを食べ物にするとしても、1トンからほんの1グラムしか採れないようなことをやる人はいるでしょうか.クラゲからとった水分が美味しいということになれば別ですが(笑).

我々の体の中にもクラゲのようなものがあります.それは、目にあるガラス体で、これを研究していたときはモノが採れなくて大変でした.ガラス体は大きな糸鞠状の高分子からできているのですが、年を取ると、高分子が切れて柔らかくなり、液体状になります.そうなると、目に圧力がかかったときなどに網膜剥離が起こるわけです.

ヒトデやウニの殻などもあまり有用性はありませんが、殻にある針のようなも含めて大部分はコラーゲンです.このヒトデからコラーゲンを採る方法がありますので、土地改良に利用できる可能性があります.今は重金属などで汚染されている土地は全部掘り返されているのですが、汚染が比較的少ないようであれば、コラーゲンがもつ重金属を集める性質を利用することができます.ただし、これも利益が出なければ誰もやらないでしょう.ヒトデやウニの殻を大量に集めることができれば、それらを有用に使えるはずだと思っています.利益を追求するだけでは、科学がどれだけ発展しても応用には繋がりません.

H: 素人考えですが、ヒトの細胞にあるテロメア(染色体の末端にあるDNAの繰り返し配列)の長さが全て同じであるとすれば、老化の進み具合は同じだと思っていました.しかし、体の場所によって老化の進み具合は違うようですし、老化の早い人もあれば遅い人もいる.だから、テロメアの研究をしたら、肌をいつまでも老化させないようにできるかもしれないと思ったのですが、どうでしょうか(笑).

大島: 老化の科学では、今の質問は重点を突いています.確かに、人によって老化するところはそれぞれ違いますが、今の時点では答がありませんので、私の大好きなジョークで答えます.

ある人が、膝が痛いので病院へ行きました.お医者さんが一所懸命に調べて、「これは年のせいで特別の病気ではありません.年を取ってくれば仕方がないのです」と言うと、その人は、「でも、私の痛いのは左膝だけで、右膝は痛くありません.右膝と左膝は同じ年だと思いますけど.」 (笑)

I: 5年前に富士フィルムを退社していますが、会社にいたときに問題だったのはゼラチンをピュアにすることでした.結局、完全にピュアにすることはできなかったのですが、そのうちに、どうしても除去できない不純物(イオウや金など)が写真の感度を決定していることが分かってきました.化粧品に使っているコラーゲンは、完全にピュアなものでなくてもよいのでしょうか.

福井: どのような不純物が入っているかによりますが、化粧品会社では、安全性を基準にした規格があって、それには合致していると思います.

三井: コラーゲンに含まれてくる不純物にはどのようなものがありますか.

林: 不純物とは何かという定義から始めなければいけないと思いますが、我々が普通に食べているゼラチンには、システインというイオウの入っているアミノ酸はあまり含まれていません.しかし、腎臓の基底膜など体の組織中にあるコラーゲンにはシステインがかなり含まれているものもあります.

システインのSH基は金と相互作用します.リュウマチの治療には今でも金を与えますが、金はコラーゲンのあるところにきれいに並びます.

富士フィルムでは、今は、遺伝子組換えで作っているようですが、それらはシステインのないものですから、イオウは含まれていませんが、天然のコラーゲンとは相当違います.

システインのSH基どうしは結合してS-S結合をつくり、それによってコラーゲンは丈夫な構造になります.コラーゲンの役割は遺伝子だけで決まっているわけではありません.また、骨の硬いところには特別な架橋構造をもったコラーゲンがあり、骨粗鬆症になると、その分解物(ピリジノリン)が骨から出てきますので、診断に使われています.藤本大三郎先生のような日本人研究者が最先端の研究をやっています.

J: 林先生は東京医科歯科大学で難病の研究をしておられたそうですが、それが膠原病のことでしたら、コラーゲンと膠原病との関係をお聞きできればと思います.

林: 膠原病の「膠」には「ニカワ」という漢字が当てられていますし、膠はコラーゲンそのものですが、膠原病というのは、難病で原因が分からないものに付けられた名前です.体には、神経組織、筋組織、上皮組織、そして結合組織というのがあります.その結合組織の主体がコラーゲンです.膠原病は結合組織に異常がある病気ですが、コラーゲンそのものが異常だというわけではありません.コラーゲンの代謝異常であることが分かっている病気の1つには、骨粗鬆症があります。膠原病には、強皮症、関節リューマチ、全身性エリマトーデスなどがあって、後者の2つは自己免疫疾患です.最初は、膠原病の研究だからコラーゲンをやっていれば研究費がもらえると思っていたのですが、だんだんもらえなくなりました(笑).

科学者は、コレをやるとアレが分かるということがないとやらない人が大半で、大島先生のように、コレが目的だという方もいらっしゃいますが、大変めずらしい(笑).私は、若い頃に、コラーゲンは老化に関係すると思ったので、コラーゲンを研究したら面白いだろうと思ってやってきたのですが、体の中でどういう働きをしているのかとか、老化するとどうなっていくのかというような研究に誰も興味をもってくれませんでした.今では、コラーゲンと老化の関係がかなり明らかになって、年を取ると、コラーゲン本来の架橋ではない老化架橋と呼ばれるものが増えてくることが分かっています.

老化の原因でハッキリしているのは食べ過ぎです.ミトコンドリアで過酸化物ができることが老化に繋がりますから、エネルギーを摂るのを最低限にすれば長生きします.サルを30年間飼って調べた結果、明らかに食餌制限をしたサルの方が若くて、食べ過ぎたサルは老けていました.しかし、どちらが幸福かと言うと、食べ過ぎたほうだと思います(笑).

K: カルシウムが骨を強くすると思っていたのですが、カルシウムとコラーゲンの関係はどのようになっているのでしょうか.

林: 歯のエナメル質は硬いことが大事ですから、アパタイトと呼ばれるリン酸カルシウムの結晶が主成分となっていますが、骨は硬いだけではなく、弾力性がないといけません.従って、骨では、アパタイトの結晶が小さくて、それがコラーゲン繊維と一緒になって、硬くてしなやかな構造になっています.コラーゲンにカルシウムをくっ付けるオステオカルシンというタンパク質を入れてやると、いくらでもカルシウムが付いて、石のように硬くなり、骨としては使い物にならなくなります.コラーゲンとアパタイトとのバランスが大事なわけです.骨粗鬆症では両方とも少なくなります.だから、カルシウムだけを摂取しても、コラーゲンがないと、骨粗鬆症が治ることはありません.

G: アンチエイジングに関するアドバイスをお願いします.

林: 無重力の世界に行くと、コラーゲンが減って立てなくなります.だから、宇宙飛行士の若田光一さんは宇宙ステーションで一所懸命に運動します.運動するなどの力学的に程よい負荷をかけかけるということが重要です.適当量のストレスは非常に大事です.ストレスがゼロであることを羨ましいと思うかもしれませんが、ストレスがゼロでは長生きしません.ネズミを使った研究で、一番長生きしたのは、ネコの顔を毎日1回見せたネズミです(笑).始終ネコに狙われても駄目ですが、自由にしてやっても、ネズミは長生きしません.

三井: では、ここで終わりにします.どうも、有難うございました.(拍手)


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