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第28回レポート
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第28回リーフレット

第28回 カフェ・デ・サイエンス


講師:  大島泰郎(おおしま・たいろう)
ゲスト講師:  林利彦(はやし・としひこ)
  福井寛(ふくい・ひろし)
日時:  2010年3月15日



異端児のみる生命「粧う (よそおう)」 BACK NEXT

最近、マリンコラーゲンというのが出てきました.かつては牛からコラーゲンを採っていたのですが、狂牛病の問題が起こってから、牛に代えて、日頃食べている海産動物からコラーゲンを採っているわけです.魚の鱗も皮もコラーゲンでできています.三井さんや私が師事した野田春彦先生は、鯉濃(こいこく)の最も美味しい作り方は、鯉の鱗も一緒に入れることだと仰っていました.

そういうことですから、普段の食事でコラーゲンを摂らないような人は、やはりドリンク剤を飲んだほうがよいと思います.十分に摂っている人が更に摂ると更に良くなるということはないですね(笑).

ところが、最近になって気が付いたことがあります.コラーゲンを販売しているという中学校時代の友達に頼まれて、コラーゲンの良いところを見つけるために、毎日、コーヒーなどにスプーン1杯のコラーゲンを入れて飲むことにしています.今のところは何の変哲もありませんが、最近、コラーゲン入りの飲み物を飲んでいると、味はないのですが、強い刺激をジワジワと感じるようにする作用があるような気がします.傷口に刺激物が触ると、「痛いっ!」となりますが、そういう痛みを抑えるような感じです.

我々の皮膚感覚や味覚というのは、徐々に効くようなところがありますし、免疫における抗体にしても、抗原とすぐに結合する抗体が必ずしも良い抗体ではなくて、じっくり付いて、付いたら放さない抗体のほうが良い場合もあるのです.コラーゲンというのは、刺激物がダイレクトに結合するのを邪魔したり和らげたりするようなところがあるような気がします.

化粧品に使われているコラーゲンにしても、中に入らないと言いながら、場合によっては、ジワジワと効いているのかもしれません.ただし、化粧品というのは、体の中に入ってはいけないし、効いてもいけません.薬品のように作用するものは化粧品として使ってはいけないことになっていますから、化粧品と同じように使いながら、医薬部外品だとか、お医者さんの処方箋の中に入れて使われるわけです.

アメリカの形成外科医は、女優さんたちのしわ伸ばしのために、コラーゲンをどんどん注入しています.これは病気の治療として使っているので、化粧品ではありませんが、間違いなくしわは伸びます(笑).害もないし、即効性もありませんが、細胞を増殖させるとか、元の状態に戻るようにジワジワと作用する感じがあります.

直に効くものが大好きな方は、コラーゲンに興味を持つことはないと思いますが、我々人間は長生きしますから、1ヶ月くらい先に効くほうが良いわけで、体の中で直に効くようなものは怪しい場合が多いのです.痛み止めのような応急処置は、ただ止めるだけで、本当に治すわけではありません.

コラーゲンによる被害は、今のところ、本当に現れていません.一時、厚生労働省が、ゼラチンを使ったワクチンを開発する段階で、コラーゲンにはアレルギー性があると報告したのですが、偶然にそういう実験結果が出たに過ぎませんでした.コラーゲンは、全ての動物において最もアレルギー(抗原)性の少ないタンパク質ですから、人間だけが例外ということはありません.それは実際に証明されているのですが、一度、厚労省の役人がそう決めてしまうと、なかなか変えようとはしません.

それに、叩くのが大好きなマスメディアも多いですから、我々自身がもう少し科学的にモノを考えなければいけないと思います.このカフェ・デ・サイエンスも、科学で考えましょうということですが、科学で考える人間を増やさないと絶対にまずいですね.本当は健康に良いことなのに、ほんの僅かな例外が出ると全てが駄目だという考え方はおかしいと思っています.一般市民も、そうなっている理由をお医者さんや専門家に尋ねることができるような社会になって欲しい.私はコラーゲンで儲けているわけではありませんが、コラーゲンが良いものだということを世の中に伝えたいと思っていますので、コラーゲンを贔屓する話はいっぱいもっています.(笑)

C: 化粧品の安全性はどのように評価しているのでしょうか.

福井: 安全性に対する考え方は時代と共に変わってきています.例えば、30?40年前は、不純物による傷害が多かったので、化学的にピュアにするということが行われてきました.新しい物質を使う場合の保証試験には非常にお金がかかりますが、今は環境についても考えなければいけなくなりました.保証試験では、普通に使用する濃度より、例えば、100倍とか1000倍も高い濃度でのテストも行われます.安全性保証試験をそこまでやってまで使いたいと思う効果のある原料は、かなり限られてきます.

今は、これ迄に開発されたものをうまく組み合わせて、期待する性能が出れば、新しいものを使わなくてもよいのではないかという方向でやっています.今の安全性試験では、発がん物質をスクリーニングする毒性試験のように、微生物を使うことはありますが、動物は一切使わないことになっています.これ迄に集まっている試験結果をコンピュータに入れて、相関関係を調べたり、代替法で安全性のテストをやっています.

先程も言いましたように、化粧品を出す人達は危ない橋を渡ろうとしませんから、地道で地味にやっているというのが実情です.ファッショナブルな業界のイメージとは大分違うのではないかと思います.

D: キューピーが、コラーゲンを特定保健用食品として申請したのですが、それを食べてもそのまま吸収されてコラーゲンになることが証明されないということで蹴られたという話がありました.林先生は、それに関して、どのようにお考えでしょうか.

林: キューピーはマヨネーズで有名な会社ですから、たくさんの卵を使っています.卵の黄身はマヨネーズとして使われます。外側の殻の内側にある薄い膜は廃棄されます.それが大量に出るので、有効利用しようとしたわけです.カニ殻のキチン、キトサンを始め、鮭の皮や鱗のマリンコラーゲンなどは全て、これまで捨てていたものから作っています.

先程も言いましたように、コラーゲンを摂ることで何らかの作用があるという論文はたくさん出ています.それを公にしないのは、日本の官僚達の国策みたいなところがあって、どこかの国で卵殻膜からコラーゲンを摂り、それが有用だということが分かったら、日本もやるのです(笑).とにかく、日本で初めてやるのは大嫌いなのです.コラーゲンを良い意味で開発してきたのは日本です.日本が立ち上げたのですから、それを簡単に蹴ってしまうのはもったいないことです.

私も資生堂へ入って驚いたのですが、テレビで見る派手な宣伝とは違って、研究者達はえらく地味で、丁寧な実験をして、しっかりしたデータを出している会社だと思いました.日本では、そこまでして守りを固めないと何も採上げてはもらえないのです.日本人が非常に素晴らしい研究をしても、残念ながら、それらが外国に出てしまって外国で使われる.そして、それを逆輸入する.そういうものはたくさんありますが、コラーゲンもそうなりつつあるということです.

近頃は、一般の大学でも特許を出すようにと執拗に言われますが、出しても、間違いだらけの評価がされて、簡単に突っ返されます.とにかく認めないと一応言っておく.それでも言ってきたら考える(笑).科学者は本当に大変で、評価する行政側がしっかりしてくれないと、肝心の研究をする時間がなくなってしまいます.ここで訴えても仕様がないのですが(笑).

三井: アミノ酸をたくさん摂り過ぎると腎臓に傷害が出るそうですが、どうなのでしょうか.

林: 腎臓病の人は多くのタンパク質を摂らないようにすることが大事です.タンパク質を摂ると、どうしても窒素が出てきますが、それがアンモニアになって毒性作用もありますから、我々の体の中ではその窒素を尿素に変えているわけです.尿素は、皮膚の角質を柔らかくする働きもあって、重要な化合物ですが、大量にあれば、やはり悪い作用を起こします.

E: アフリカの樹脂が化粧品として輸入されているという話を聞きましたが、木の少ないアフリカの樹脂をわざわざ日本に持ち込む理由は何でしょうか.また、日本で昔から使われている椿油とはどう違うのでしょうか.

福井: シアバターのことだと思いますが、これは昔から現地で使われていたようです.自然ブームということと、肌の温度で溶けるので使用感が良いから使われているのではないかと思います.

シアバターと椿油とは脂肪酸の組成が異なります.椿油は昔から鬢付け油として使われてきました.生産地ではネズミなどが油を採る種子を食べますので、質の良い椿油を採るのはなかなか大変です.使い方が全く違うので比較になりませんが、私は、椿油のほうがシアバターよりも価値があると思っています(笑).

林: シアバターを作っているプルキナファソにいる甥を訪問した両親から聞いた話ですが、あの国では、シアバターしか輸出するものがないのだそうで、日本にできるだけたくさん買ってもらいたいということでした.実は、私も持っていて、毎晩、お風呂上がりに塗っています.固体でありながら、塗るとちょうど良い粘度になって溶け、垂れることはないし、塗ると同時にしみ込んでいくような感じがします.それに傷があるところでは、傷を覆うような感じにはなってくれます.皮膚薬というのは、きれいに塗り込むことが重要で、ただ塗ればいいというものではありません.

もう一つ良いことがあります.牛脂などは室温で固体ですが、オリーブ油は液体です.マーガリンを作るときは、液体の油に水素を付加して固体にします.つまり、脂肪酸の炭素と炭素の間に、ある程度の二重結合がないと、融点は低くならないわけです.その二重結合の構造が、天然の油では全てシス型になっていて、それが皮膚の細胞に作用することが分かっています.皮膚のバリアが作られるときに、細胞の分化を刺激する作用をもっているのです.これも徐々に作用します.だから、そういう二重結合をもっている油を使うのはすごく良いことですし、同時に、アフリカの国を支援することになります.


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Last modified 2010.05.26 Copyright(c)2005 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.