吉川先生と西村先生を囲んでの全体座談会
1.Disciplineの価値評価
2.賞賛の意味
3.目に見えないものの評価
4.生活者の欲する空間
5.本来の工学
6.第二種基礎研究の例
7.公的資金と私的資金
8.現実に富を作るのは企業
9.第二種基礎研究は民にもある
10.目標設定が重要
11.第二種基礎研究には方法論の構築が必要


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9.第二種基礎研究は民にもある

(羽田野) 
第二種の研究というのを、より積極的に民のほうに、私企業の側に移していったり、現実のかたちを、仕組みをつくるとかはないのでしょうか。

(吉川) 
それはあるのです。ですから今、日本でいい企業と言われているのがあるでしょう。自動車会社とかトヨタとかキヤノンとか、工作機械ではファナックとか、あるいは液晶をつくったシャープとか。ああいうのはみんな第二種基礎研究の悪夢の時代をみんな持っていますよ。しかし、あれは第二の基礎研究ではないのです。なぜかというと、その結果が一般的な公共財にならないのです。商品だけが出ているでしょう。あれでは、あれを公共的な世界に出すことによって、トヨタの経験を一般化しなければいけないのです。ところがトヨタはもちろん立派な会社ですから、トヨタは調査する、うちに来た人に対しては全部情報を提供したのです。看板システムとかああいうのは、アメリカで教科書になったわけでしょう。日本では藤本さんがやりましたけれども。ああいうふうにして、外に出たのが非常に幸いだったのです。ところが後はみんなプロジェクトXみたいなかたちで頑張っているという物語プラス製品なのです。それで終わっちゃう。それを私は第二種の基礎研究とは呼ばないのです。トヨタの看板システムのように誰でも勉強できるようになった時に、これこそ第二種の基礎研究だと、それを基礎と呼んでいるのです。

(赤城) 
やったことそのものは同じようなことだけれども、外を出すことをしていない。

(吉川) 
公共的な知識になったかどうか。第二種の基礎研究として、われわれが公的な機関として言えるのは、それを常時公的な知識として外へ出そうということです。

(西村) 
その定義ですと、トヨタシステムについての第二種基礎研究をやったのは藤本隆宏さんだということになりますか。

(吉川) 
そういうことです。あの人がいなかったら、誰も知りませんからね。

(赤城) 
そうすると公的資金でそういうのを研究するということをやるということはあり得るわけですね。

(吉川) 
ただその時は完全に公開して、自らパブリッシュしなければいけない、情報をね。

(赤城) 
小林先生のところでやるとか。

(吉川) 
いやいや…。それは、小林先生がやるのではないです。60の研究ユニットを小林さんは監視して、みんなパブリッシュしなければいけないぞいけないぞと、小林さんが言うわけなのです。現場を全部見てくれって、昨日その要請をしてきたのです。小林信一さん、彼に、60も本当に無我夢中で研究している研究ユニットがある。唯一小林さんのところが冷静なのですよ。ですからその冷静な目で、第二種基礎研究をやっているところを発掘し、それをしかも教科書化するということで、要請していくという、そういう役割を持っています。

(禿) 
さっきおっしゃったトヨタの看板方式みたいに、ある企業で成功したのをウォッチして公的化する仕事もあるわけですか。

(吉川) 
そうです。その場合、成功した後です。そういう仕事もあるわけです。

(禿) 
それを公的機関がやればもっといいわけです。

(吉川) 
そうです。われわれの言っている第二種の基礎研究も、製品化しなくても、第二種で苦しんだ結果というのは、やはり知的行為ですから、それはやはり客観化して、他へ伝承していくのですね。



 
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