The Takeda Award 理事長メッセージ 受賞者 選考理由書 授賞式 武田賞フォーラム
2002
受賞者
講演録
パネルディスカッション
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パネルディスカッション
 
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西村:
 おっしゃるとおりなのですが、私が質問したことの一つは、今の場合ですと最初に解決したい問題の方があって、解決するためには、基礎的な研究に戻って新しい知が必要になる、そういうプロセスです。従来型のイノベーションモデルでは、研究者が好奇心に基づいて研究していて、それを自然発生的に別の人が応用していく、というようなモデルが支配していたころがあると思うのです。それに対して環境問題の場合は、逆に現実の問題を解決するために、戻って基礎的な知識が必要になる、という動きを提起してきたのではないかと思うのです。今、おっしゃったことはまさにそのとおりだと思うのですが、ちょっとその点でこの話題についてフロアから何かおっしゃりたい方はいらっしゃいませんか。実は、私自身、イノベーションモデルと言いますか、研究開発モデルの研究をやっております。そこでは、従来型の、好奇心から出発して順番に研究、開発、生産、販売と流れる、いわゆるリニアモデルは否定されるようになってきています。むしろ問題を解決するためになら、どんな基礎的なところまででも戻って研究するのだ、という考え方が次第に強くなってきているように思います。この辺は武田賞を創る上でも、ずいぶん意識してきたところなのです。いかがでしょうか。

聴講者1:
 今のご質問を頂いたと仮定しまして、私の考えを述べます。それは、感性豊かな有能な研究者、特にテクノアントレプレナーシップというものを考えたときに出てくることだと思うのですが、ニーズのそばに感性豊かな能力ある研究者がいるということが大切だと思います。わが国の場合に、そういう研究者のそばにニーズがあるような環境になっているかどうか、ということがちょっと危惧されます。例えば数学にしましても、私は数学者ではありませんが、純粋数学から大きな発展があったかと聞きますと、ほとんどない、結局応用数学なのだと、こういう話を聞きます。天文学の場合はまた、別かもしれません、人里離れたところでなければ研究ができませんから。しかし、本当に実生活をしている生活者のニーズを汲み取れるような、そういうそばに感性豊かな研究者がいるような、そういう環境が何か大切なような気がいたします。

西村:
 ありがとうございました。畚野さん、研究所の所長でもあった立場からいかがですか。

畚野:
 まず、地球環境では、問題がいっぱいあるから解決しなければならないところからスタートするわけです。確かに問題がいっぱいある。問題も一概には言えなくて、非常に小さなターゲットというか直接的なターゲットを解決するだけでなしに、もっと幅広いいろいろな問題があるわけです。まあ、答えは一つにならないと思うのですが。やっぱり今地球環境の問題だから、こういうところを狙ってやらなければならない、モチベーションを与えるという意味では、今の地球環境問題というのはやることがいっぱいあるのです。ただ、これに役に立つためにという直接的なターゲットに絞ったものは、あまりいいものはないような気がします。どんどん広がっていかない。さっきからいろいろ話が出ていますけれども、エラチさんの話もありますけど、やっていくと、どんどんいろんな展開が出てくるような方向を、最初に狙って進めるということが大事なような気がするのですが。先ほどから私が言っているように、いいものはほんとに後からどんどんついてくるのです。その中で、必要なものならどんな基礎的なものでも全部やっていく、これは応用研究だから応用になるようなところしかやらないというのではやっぱり駄目で、どんな基礎的なものでも必要なものなら全部突っ込んでやるということが必要です。これができるのはやっぱり能力、個人の能力ではなくて、社会の能力、度量と言いますか、それを可能にするような金も含めて、あるいは人材も含めて、そういう社会の成熟度とか、社会の全体の能力というのが関わってくる。地球環境というのは、そういうような考え方で大きく進めていかなければならないような気がするし、今、日本を含めてここに出ておられるような方々の国は、そういう力と度量を持っているところなので、そういうことをやっていくという認識をもって進めていくことが必要なのです。

西村:
 ありがとうございました。岡本さんコメントありますか。

岡本:
 地球環境問題とちょっとずれる話題かもしれませんが、昔、南極の海氷の厚さを測るレーダを作ろうとしたわけです。それには具体的なニーズがありまして、砕氷船の白瀬が南極海を航行中に立ち往生した、だから南極の海氷の厚さを測れるレーダを作れという具体的な問題が生じたわけです。一番苦労したのは、やっぱり海氷による電波の減衰のデータが全くない、そういう基礎的なところからスタートしなければならないということが、まずありました。今是非なんとかしなければいけないなと思っているのは地雷探知の問題です。地雷を撤去したいと思うと、砂の中にどれだけ電波が潜るか調べる必要があります。条件が違うと、水分が多くなってくるととたんに潜らなくなります。いろんな周波数のデータが揃っていないのです。衛星搭載レーダで言いますと、次の降雨観測を目的としたGPMでは、35GHzレーダを考えていますけれども、やっぱり基礎的な地面の散乱のデータが非常に少ないわけです。具体的なシステムを開発して、それを応用していくためには、基礎的なデータがどうしても必要で、翻って研究していかなければならないことがありますね。だから必ずしも技術の進歩というのは基礎を終わってから応用に行くのではなくて、フィードバックがあって、ジグザグに進んでいくように思います。

西村:
 ありがとうございました。
 さっき中村さんが問題を提起された、交通信号の問題に話題を変えさせて頂きます。先ほどの私のプレゼンテーションの中で、自由な参入規制のない自由な市場経済のもとでは、一回水位の差ができたとしても、じきにその差は埋まっていき、利潤が生まれない状態になっていく、というお話をしたかと思います。それに対して、規制があって簡単には参入できない状態になっていると、今儲かっている人が儲け続けることができるのです。これが、さっき中村さんが提起した問題の一つだと思います。








 
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