The Takeda Award 理事長メッセージ 受賞者 選考理由書 授賞式 武田賞フォーラム
2002
受賞者
講演録
パネルディスカッション
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パネルディスカッション
 
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西村:
 私の方から赤アさんに質問します。窒化物を非常に早い段階で選ばれた時に、その最終的なターゲットとしての青色発光ダイオードという、生活者にとっての価値と言いますか、最終的な応用的な価値、これをどの程度強く意識されていたのでしょうか。その当時窒化ガリウムを選ぶということは実現可能性があるかどうか判らないような、ある意味では相当ヤバイ選択ではなかったかと思うのですが、そういう選択をした時に最後の青色発光ダイオードの実現というのはどの程度意識にあったのか、ということをお伺いしたい。

赤ア:
 それは午前中にもお話したかと思いますが、かなり強く意識しておりました。窒化ガリウムの前に66年ごろから窒化アルミニウムというものを実はやっておりまして、それで発光という現象を追求しておりました。ただし、窒化アルミニウムはバンドギャップが非常に大きい、ダイヤモンドよりも大きいぐらいですから、ほとんどどんな手段を用いても電流が流れないものですから、これはちょっと面白くないと思って、その次の弟分にあたる窒化ガリウムに重点を切り替えた訳です。それでも、先ほど話が出ました、赤色緑色の発光ダイオードを既にやっておりましたので、当然この次は前人未踏の青色ということは、最初から考えていました。今日ちょっと申し上げたかと思うのですが、PN接合ということと同時に青色発光ということは最初から思っておりました。

西村:
 ありがとうございました。中村さんの窒化ガリウムを選んだ理由はちょっと違うようですね。できてもできなくてもという面があったようですが、ちょっとご披露頂けませんか。

中村:
 そうですね。私の場合はそういうアントレプレナーシップはまったく期待していなかったですね。私の場合はできるとまったく思っていなかったです。ただ論文を書きたくて始めただけですね。論文を書いて、フロリダ大学の学生を見返してやろうとそれだけですね。ですから、青色発光ができるとは絶対思っていなかった。ただ、やり始めてやっていったら自然にのめり込んで最後にできちゃったという感じですね。だから、偶然といえば偶然ですよね。やり始めたら好きですから、のめり込んで自然とできたということです。やり始めるときは、できるとはぜんぜん思っていなかったですね。

西村:
 できると思っていなかった人が、世界で最初に一番良く光る発光ダイオードを作ってしまうんだから、面白いといえば面白いですね。天野さんの場合、学部の学生で卒業論文を選ぶ段階から、やっぱり世の中の役に立つということは相当意識されていたのですか。そのようなお話を午前中されていたと思うのですが。青色発光ダイオードの場合は比較的わかり易くて、できれば世の中の役に立つ、しかしちょっとやそこらではできない、そういう状態だったと思うのですが、それを学生さんの時から意識されていたのですか。

天野:
 かっこよく言うと人の役に立つということですが、平たく言うとサービス精神です、みんなを喜ばすという、それで自分も喜ぶというサービス精神と、それからやっぱりある程度の目立ちたがりということは、絶対必要だと思います。その二つでテーマを決めた、というのが本当のところです。

西村:
 残った時間に対して、なかなか大きな問題なのですが、生命系のお二人の方のお仕事を議論したいと思います。DNAマイクロアレイという共通点がありながら、ブラウンさんの方はインターネットで公開して、みんなが、誰でもアクセスできるという形で、科学的な知識を広げていきたいという考え方に立っている。一方、フォダーさんの方は対照的なアプローチをされている。自らベンチャー企業を創り、会社の仕事として、世の中に提供していく。私は二つの立場が相反すると思っているわけではありません。
研究開発には原資が要ります。知を生み出すためにも、あるいは生み出した結果としてさらに次の知を生み出していくためにも、広い意味でお金が必要、つまり投資が必要です。市場経済の中で考えれば投資の原資は利益からしか出てきません。アントレプレナーシップを発揮して利益を生み出していく、その生み出された利益の中から研究開発にまた再投資をしていく、そのプロセスを通して発展していくというのが、基本的には資本主義経済のメカニズムだと思うのです。一方で、科学の場合は、市場経済だけで成り立っているわけではない。最終的には資本主義経済が生み出したお金の一部ということにはなると思うのですが、それが公共的なセクターを通ってお金が出ている場合もたくさんある。そういう場合には、オープンに、市場メカニズムとは違う形で知識が広まっていくべきだという考え方、これも当然ありうるわけです。
実は、これは武田賞には最初から付きまとっていまして、昨年の第1回武田賞の時に、情報・電子系応用分野は、LinuxやTRONを開発した方々が受賞されました。こちらの方々はLinuxに代表されるように完全に無料でオープンに提供していく。ところが結果的には、無料でオープンな仕組みの中で、みんながボランティアで参加して、非常に良いオペレーティングシステムができた。そうなると今度は逆にそれがアントレプレナーシップの人たちを刺激して、いろんなかたちで、市場経済の中で、そのOSを使ったシステムや、OS絡みのサービスが、お金の動きを伴って提供されている、そういう現実があります。
ところがバイオの方では、国際的なコンソーシアムを尻目に、ベンチャーを創られた方々が先にヒトゲノムを読み取って、お金を伴いながら世の中に提供するということをされている。このあたりについて、とりあえず先ほどお二人からお話を伺ったわけですが、フロアの方からこのあたりについてもうちょっと聞きたいとか、俺はこう思うとかという方、ぜひ発言頂けるとありがたいと思います。これは今後を考える上でも、なかなか面白いし、紆余曲折しながら、ある合意がこれから形成されていくのだろうと思うのですが、これから、いろんな分野でこのようなことが起こってきそうな感じがしていまして、ぜひご意見があれば頂きたいと思うのですが、いかがでしょうか。
 相互にはいかがですか。もう少し言っておきたいということがあればいかがですか。フォダーさん、何かこの点に関しての特定のコメントがあれば。

フォダー:
ちょっとだけコメントさせてもらいます。西村さんの一般的なコメントの中にいくつかの重要な点があると思います。一つは、違いがあるということです。例えば、西村さんは塩基配列の公共データベースの問題を言われました。何が本当に人類の知であるかについて議論していますが、例を取れば私たちは営利企業ですが、遺伝情報についてのアクセスは公開されるべきだという考えを支持し、広めるという哲学を確かに持っています。他の多くのバイオテク会社と必ずしも同じではないのですが、会社としては、遺伝情報そのものは特許化されるべきではない信じているという立場に近いのです。ツールそのものは、遺伝学的な説明に行きつきますし、遺伝学の知識を作り出そうとしているものです。この点において、ブラウンさんがやられたこととアフィメトリックス社がやったことの違いを考えてみたい。両方の努力とも科学的な発見とその発見を引き出そうとすることを狙ったものでした。非常に幅広くオープンにアクセスできるようにするという考え方は両方とも共通に持っていると思います。技術の開発においては違いが出てきます。ブラウンさんのアカデミックセクターの場合の考え方は、そう言われたと思いますが、人々にこれらの技術をどのように使うのかを教育する、どのように教育するかを教育することだと思います。アフィメトリックス社は、商品化の戦略を取りますから、人々が使えるツールを作ることになります。また、おそらく違った目的を持っていると思います。片方の目的は、誰でもが使えるように知識を作り出すことを最優先とします。アフィメトリクス社の場合は、会社を創ること、アントレプレノリアルな活動であり、仕事を創りだし、創薬プロセスに道具を供給するために規制の課題にも取り組み、FDA承認をとって診断のコミュニティにも入るなどが目的です。ですから、全体としての結果についての要求は少し違うかもしれませんが、興味深いことに、最初の考え方では、両方ともヒトゲノムと人間の健康状態についての知識を求めていることを目的としています。

ブラウン:
 私がとったアプローチとフォダーさんがとったアプローチの間には敵対するものはないということを言ってフォローアップしたい。フォダーさんは、人々が非常に便利だと思い、科学的な進歩を促進するのに有効な製品を作った。製品を製造し、規制の課題にも取り組まなければならないのだから、無償でその製品を提供するわけにはいかない。私の場合は、アカデミックな研究環境だから、自分で作り出すのは情報です。百万人の人に配布するのは、百人の人に配布するのと同じように簡単で費用はかかりません。追加の経費はないのです。これはまったく異なる種類のいわゆるビジネスモデルです。しかし私たちは、フォダーさんの会社がやっていること、人々が購入して使用できる物理的な製品を作ることはできません。私たちは、それとは違うことをやっており、二つのアプローチは完全に補完的であり、だからうまく共存しているのだと思います。また、いつもそうだったと思うのですが、発表することが可能であり情報を共有することが可能な場合には、多くの会社はそうしてきたと私は思います。伝統的に、たくさんの科学的研究の論文が会社によって発表され、知識が無償で提供されてきました。これは偉大な伝統だと思います。ですから、表面的に見えるかもしれないよりはずっと小さな対立しかないのです。







 
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