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第13回レポート
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第13回リーフレット

第13回 カフェ・デ・サイエンス


講師:  大島泰郎(おおしま・たいろう)
ゲスト講師:  田村宏治(たむら・こうじ)
日時:  2007年3月24日



異端児のみる生命 「生命世界の右と左」 BACK NEXT

三井:ほとんど全てのことを網羅してお話して下さったようですが、今のお話を糸口にして、どんどんご発言下さい.

O:異性体が被害をもたらす例はサリドマイドの他にもあると思いますが、異性体の一方だけを作る触媒はないのでしょうか

大島:現在は有機化学も非常に高度なテクニックを使っていて、右手型とか左手型だけを合成するということに力を入れています.野依先生も、そういう分野です.生物の場合は、もともと一方しか使わないのが原則ですので、生物の触媒である酵素を使えば、いつでも、どちらか一方だけを作ることができます.

M:右左というのは、地球の自転に関係していないのでしょうか.

大島:非対称の世界があれば、非対称の物質を作ることができます.実は、地球の自転は、左右の違いを生み出す候補の一つでした.アメリカの学者が、10年程前に、それを証明したという論文を出したのです.地球の自転では僅かな差しかでないので、回転している遠心機の中で化学合成をやった.すると、一方が少しだけ多くできた.最初にほんの少しでも右手型が多くあれば、それを増幅することができるということになっています.ところが、それから1年も経たないうちに、何回もやってみると統計的な差はなかったという訂正の論文がでました.

この世界は、非常に大きいところと、非常に小さいところは非対称です.惑星は全て同じ方向を向いていますので、太陽系も銀河も非対称です.小さな素粒子の世界では、「パリティの破れ」という非対称がある.しかし、今のところは、生命が始まるときにそういうもので決まったという実験的な証明はありません

田村:北半球と南半球では渦の巻き方は逆になるということを聞き、南半球では内蔵の位置が逆になっている動物が多いのではないかと思って、オーストラリアの知人に、実験動物に内蔵逆位が多いということはないかと尋ねたことがあります.答は、「ない」ということでした.南半球で発生学をやっているところはほとんどないのですが、体の中が非対称になるということに関しては、北半球と南半球で差はないということです.

三井:北半球と南半球の話がでると、赤道の上ではどうなるんだという「へそ曲がり」が必ずいるのですが、この場合は無視しましょうね.

W:つむじの渦巻きは、発生学の観点から、あるいは、生命の起源の分子の観点から、何と関係があるのでしょうか.また、野球のグローブが柔らかいゴムのようなものでできている場合は、それを裏返しにすると、左のグローブが右になり、右のグローブが左になります.このような現象は存在するのかどうか.以上、2点について伺いたいのですが.

田村:赤ちゃんが胎内で成長する過程で、つむじがどのように生じてくるかというのは、解っていないと思います.

三井:人間以外の動物にもつむじがあるのですか.

田村:霊長類には同じようなものがあると思いますが、それ以外の動物の毛並みの中に渦があるということは聞いたことがないですね.

大島:基本的な分子で、手袋をひっくり返すようなことができるかというと、原子間の結合を切らないといけませんし、結合力は非常に強いから、不可能に近い.それに比べて、DNAの二重らせん構造は弱いので、強風で傘がお猪口になるように反転するかというと、それも非常に大きなエネルギーが要るので、実際にはほとんどありません.ただ、DNAは本来右巻きですが、一部が左巻きになることがあります.それは、塩基配列と周りの環境によります.そういう条件が揃ったときでも、エネルギーが閾値を越えた瞬間にパッとなるのではなくて、周りにある分子を退けながら、ジワジワとなります.なったとしても、非常に僅かです.タンパク質のらせんも右巻きで、左巻きは極めて例外的に、短い部分で起こります.右巻きから左巻きに変わったり、その反対もありますが、全体的に巻きを変えるという現象は知られていません.ですから、手袋をひっくり返すというようなことは、生体の分子では、たぶん起こらないと思います.ただ、アイデアとしては、とても面白い.おそらく、こういうことの専門家も考えたことのないお話だと思います.

K:心臓が反対側についているのは、奇形だということになるのですか.

田村:先天性の疾患という言い方をするときもあります.統計的に、約10,000から25,000分の1の確率で、内蔵逆位の人が産まれてくるといわれています.多くの場合は、心臓だけではなくて、内蔵全てが逆位になっています.ただし、これは疾患ではなくて、ほとんど自覚が無いくらい健常です.多くは健康診断などで見つかるようです.実は、人間の心臓というのは、全ての動物はそうですが、左右に寄っているだけではなくて、心臓の右側と左側では、少し形が違います.先程のソフトで合成した顔の話のように、両側が左になってしまったり、両側が右になってしまったりして、左右対称になる奇形がありますが、この場合は不全になります.特に両側が右になる場合は、生後1年ももたないといわれています.

W:逆位の人には、左利きが多いのですか.

田村:本で読んだだけですが、厳密な相関関係は無いと書いてありました.

M:BSEの原因だといわれているプリオンは、正常なタンパク質の巻き方にどのような影響を与えているのでしょうか.

大島:右巻きのバネをグーッと引っ張ると、波型になりますね.プリオンはそのような変換をしますが、巻きを変えるところまではいきません.ついでに言いますと、右利きの人は右巻きらせんを描くのは苦手らしくて、何も考えなくて描くと必ず左巻きになるといいます.Watson-Crickで有名なクリックが昔住んでいた家の前にモニュメントがありますが、そこに描かれているDNAの巻きが反対で、左巻きになっています.本の中にも、このような間違いがかなりあります.

I:量子力学では波動性と粒子性が混在するし、不確定性というのもあって、あいまいなものだと理解しているのですが、生物では、右でも左でもかまわないときに、どちらか一方に決まってしまうのは、なぜでしょうか.

大島:多くの動物の形は、基本的には、筒に手足を付けた格好ですね.それは10億年くらい前に決まって以降、変えていない.最初に左と右をつくっていないから、どちらが良いか分かりませんし、また、変える必要はなかった.対称に作っておくのが発生学的には楽なのでしょうね.1個の卵が分割するときに、左右の問題がでてきたように思います.

利き手のことを調べている先生によると、右利きの人のなかには、左手の能力が非常に劣る人がいて、100%右利きの人がいるけれども、左利きの人に100%左利きだという人はいないそうです.

三井:カフェ・デ・サイエンスで「脳」をテーマにしたときに、一卵性双生児に来てもらったことがあります.一卵性双生児は遺伝子が全く同じですが、弟さんが左手で字を書き、お兄さんは右手で書いていました.どうも「似非左利き」だそうで、弟さんは、お祖母さんから字を教わったときに、向かい合っていたので左利きになったということでした.私の親戚にも、女の子と男の子の兄弟がいて、男の子のほうが左利きです.聞いてみると、小さい時に何でも左手でやると、母親がひどく喜んだからだと言うのです.右左というのは、遺伝で決まっている以外に、社会的要素や文化的要素というのも非常に強いような気がします.

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Last modified 2007.06.17 Copyright(c)2005 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.