The Takeda Foundation
カフェ de サイエンス
カフェ・デ・サイエンス Top

カフェ トップ
第13回レポート
Page 1
Page 2
Page 3
Page 4
Page 5
第13回リーフレット

第13回 カフェ・デ・サイエンス


講師:  大島泰郎(おおしま・たいろう)
ゲスト講師:  田村宏治(たむら・こうじ)
日時:  2007年3月24日



異端児のみる生命 「生命世界の右と左」 BACK NEXT

三井:肺や腎臓は左右に一つずつありますね.形は違うかもしれませんが、同じ働きをしていますね.

田村:そのとおりです.体の中心からみれば、腸管も、体の右側と左側では同じことをやっていますね.ただ、形態的にみると、人の肺では、肺葉が左側に二つ、右側に三つあったと思いますが、マウスの場合は左側に一つしかなくて、右に五つくらいあります.腎臓も左側と右側では大きさが違います.トリの卵巣は、発生過程で両方できてきますが、片方が全く無くなって、左側だけになります.

三井:二つあるということは、一つがダメになったときの補償になるということがあるのかしら.目的論的に言うのはよくないですね.

X:交通問題を研究している人から聞いた話では、人間の心臓は左にあるので、左側通行のほうが心臓を守るという意味で、非常に合理的なのだそうですが.

大島:日本では、武士が刀の関係で左側通行のほうが良かったんだと思いますね.

K:私の場合は、目だけ左利きで、手と足は右利きですが、それぞれの利きは独立しているのでしょうか.

田村:利きは、おそらく、全て神経回路の問題です.目と手と足の運動は、それぞれの神経の回路を介して行われていますから、それぞれ別個に利き側をつくってもおかしくないと思います.

A:「右も左も分からない」と言いますが、子供のときは分かりませんね.私の場合は、右の薬指に霜焼けができていたので、それを見て右が分かりましたけれど、我々はどうやって右と左を認識しているのでしょうか.

田村:その認知も、神経が回路を作っていて、そこに左右性がでてくることによって生じると思われるのですが、神経の回路に左右性があるかどうかということは、全然分かっていません.

ヒラメもカレイも泳ぎ始めるときは普通のサカナと同じですが、大人になる段階で海底に着床します.そのときに片側を上にします.左側に目があるヒラメの場合は正中を越えて目が左側に動きますから、視神経を捻らないですむように、左目からの視神経は下、右目からの視神経は上になって交差しています.カレイは右側に目がありますので、ヒラメとは逆になります.僕らの視神経は、1本1本の神経が編み目状に交差していますから、魚のように簡単ではありませんが、ヒラメとカレイから、そのメカニズムを解明していけるのではないかと、僕は信じているのですけれど・・・.

M:一つの方向に片寄るのは、種によって、あるいは環境によって、何らかの必然性があるのでしょうか.

田村:ゾウリムシは9割がたが右回転するそうです.理由は分からないのですが、ゾウリムシの体を覆っている繊毛のプロペラの向きが一定方向になっているからではないかといわれています.僕らの体の中にも繊毛があります.数ミリ単位の大きさの胎児の状態ですが、最初は対称だったところに、何らかの力が加わって非対称になった.それが、体の中で一定方向に回転する繊毛だというのです.繊毛の回転によって、あるタンパク質が片側に寄せられ、それが左と右の違いをつくるきっかけになるという面白い話もあります.

O:フクロウは、右耳と左耳の付いている高さが違うそうですが、系統的にそうなっているのですか.

田村:私もその事実を知っているだけですが、ミミズク、フクロウの類は左耳と右耳の高さが違うと言われています.確か右耳が左耳より上に付いていたと思います.それを知ってから、ミミズクの耳の神経回路を見てみたいと思っているのですが・・・.

M:人でも音が立体的に聞こえるのは、そうした構造があるのでしょうか.

Y:私が大学におりましたときに、興味をもって調べたことがあります.結論を言いますと、人間の場合は耳たぶの形が非常に重要な役割を果たしています.交通事故などで耳たぶを無くしてしまったような人は、音源定義はできないということになっています.耳たぶの形は、人それぞれ違いますが、産まれたときから、自分の耳たぶで経験したことを脳で独自に処理をして、自分なりの音を聞いているわけです.

三井:人間より聴覚が発達している動物がいると思いますが、そういう動物の耳の構造はもっと複雑なのでしょうか.

Y:感度の問題と定義の問題がありますが、一般に、食べられる動物のほうが感度は良い.人間はどちらかと言えば、襲うほうですから.(笑)

T:蛇のように長い動物は、右と左がないと考えられるのでしょうか.

田村:残念ながらあります.ヘビは最初から胴体が長かったわけではなくて、徐々に長くなっていったのです.その祖先系のものは、腸を巻いていました.いったん巻くというシステムを作ってしまいましたので、胴体が長くなっても長い消化管を作るわけではなく、長い胴体の一部で捻転しています.ウナギもそうです.両生類の一部にも、アシナシイモリ(Caecilian)という非常に体の長い動物がいますが、それらの内蔵も全て捻転しています.

O:時実(利彦)先生は、虫の鳴き声を例に挙げて、左脳で聞くか右脳で聞くかで違って聞こえると書いています.日本人は虫の声を愛でて聞きますが、ハワイに移住した人は、そういう聞き方をしなくなるそうですから、右脳と左脳の働きにも後天的な要素があると思います.

三井:右利きと左利きには、かなり後天的な要素があると思いますが、遺伝的要素か後天的要素かというのをどのようにして区別できるのでしょうか.

大島:私の息子は左利きで、私の弟もまた左利きです.そういうふうに家系をみたら、遺伝的要素があるかどうかわかってくるんじゃないでしょうか.

田村:今のところは、区別できないというのが、正直なところだと思いますね.僕は、矯正できるという経験的なものも含めて、先天的なものと後天的なものと、両方あると思います.区別がつかないのは、先天的なものが何で決まっているかということが何も分かっていないからです.先天的なものというのは、突き詰めて考えていけば分かるはずですから、将来的には区別できると考えています.

三井:脳の機能というところに集中していけばいいわけですか.

田村:脳の運動と感覚を司るところの連絡だと思います.

三井:シナプスのようなところですか.何か実験をすればいいというわけではなくて、あくまでも自然にある状態を調べるということでしょうか.

田村:左右の何らかの形を変えてやって、性能が変わるかどうかを実験することはできると思います.

BACK NEXT


Last modified 2007.06.17 Copyright(c)2005 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.