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第16回レポート
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第16回リーフレット

第16回 カフェ・デ・サイエンス


講師:  大島泰郎(おおしま・たいろう)
ゲスト講師:  富田勝(とみたまさる)
日時:  2007年12月8日



異端児のみる生命 「生命の設計」 BACK NEXT

A:生命の起源に関して、全ての生物が同じ設計図でつくられているとして、その最初の設計図を設計したのは誰なのでしょうか(笑).設計図の設計と進化のツールは同じ概念のものなのでしょうか.

三井:その設計図は、「誰かが作った」ものでしょうか.私は、「できた」ものだと思いますけど.

大島:生命の起源の研究者によって多少違うと思いますが、私も多数派に属していて、生命の誕生は、自然界で起こり得る反応の積み重ねの結果だと考えています.また、進化についても、環境が変わったことによって必然的に起こり得る現象だというふうに考えています.

H:私は、1998年にライフサイエンス関連の事業を起こしましたが、当時、ヒトの遺伝子の数は十万と言われていました.それが、今では3万程度だろうということになっています.そもそも、誰が十万なんて言い出したのでしょうか.しかも、誰もそれに異を唱えていませんね.それがライフサイエンス研究の現状だと思います.大方のことが分かっている他の分野と違って、生命科学は、暗夜の世界、複雑怪奇な世界なのではないかと思っています.ヒトの細胞数が60兆個あることにしても、誰もそれを数えていない.

O:同僚に聞いたのですが、細胞の数は、先ず、体重を測ります.次に、一個の細胞の重さを測ります.それで、割り算したら出てきます.(笑)

H:そうすると、体重が200kgの相撲取りは、50kgの人の4倍も細胞があるという話になります.それほどいい加減な世界です(笑).

N:実は、化学振動反応という、酸化還元を繰り返す単純な反応だけでも、そのシミュレーションは非常に難しくて、全く分からない.それでもコツコツと一つずつ見極めていけば、何か分かる日が来るのではないかと考えています.

H:そういう奇々怪々の世界ですから、答えようの無いことが多くて当たり前だということを言いたかったわけです.

M:以前に冨田先生が、「生物学には未だ分かっていない "とんでもない発見" が、少なくとも三つある」と仰ったのを聞いたことがあります.それが何だったのか聞き忘れて、ずっと気になっていました.(笑)

冨田:僕は、そういうことを、よく、学生に言うのです.生命の起源も奇々怪々ですが、最も単純な細胞ですら非常に複雑なわけで、調べれば調べるほど、あり得ない事をやっています.

DNAの情報を正確にコピーして分裂しないと、進化のしようもありませんから、「偶然に何かパッとできた」と言われても、疑問は残ります.教科書には、「DNAを複製します」とペロッと一行で書いてありますが、大変なことなのです.DNAの太さを糸の太さに置き換えると、一つの細胞の、10m四方の核の中に、1,000km分の糸が入っていることになります.そこに並ぶ30億の文字を、細胞分裂するたびに、間違えずにコピーするわけですからね.複製メカニズムは書いてあっても、これほど複雑なことをやる理由は、どの教科書にも書かれていない.

このように、奇々怪々なことはいっぱいあります.これは正に、地球が丸かったということが分かる前の世界と同じです.太陽が昇る.「何だこれは?」.月が欠ける.「何だこれは?」.「海の向こうは滝になっている?」というような話もあったでしょう.そういう謎が、地球が丸くて太陽の周りを回っているという大発見によって、一挙に解決したわけです.

生命科学でも、「地球が実は丸かった」程度の大発見が、あるいは、アインシュタインの相対性理論に匹敵するような大発見が、まだ三つくらい残っているのではないかと思っています.

R:15、6年前に、筑波のコンソーシアムで、生命を作ろうとしている研究者がいて、無機質と有機質を混ぜたら、純水の中から、生き物のようなものができたと言っていました(笑).そういう研究もあるでしょうが、私としては、一つの細胞を研究したほうが、一挙にいろいろなことが分かるのではないかと思って、今日は楽しみに来たわけです.(笑)

三井:マイコプラズマのように全ての機能が備わっている細胞よりも、分業体制に入っている赤血球のように単純な細胞をシミュレーションするほうが手っ取り早いように思いますが.

冨田:赤血球のシミュレーションは、今でもやっております.実際にグルコースを食わせて、代謝物がどうなっているのかを測定しています.

大島:赤血球は、あまり単純ではないと思います.ソフトウェアのDNAはもっていませんが、ゲームは既に走らせてあるのです.ゲームを立ち上げて走らせたら、ソフトウェアの入っているCDを抜いても動き続ける.そういう細胞なので、複雑さは同じだと思います.「127の電子細胞」は、エネルギーだけを生産するという意味で、単純化した筋肉細胞と考えられるのではないでしょうか.

G:細胞内器官であるミトコンドリアもシミュレーションしているのでしょうか.

冨田:我々が開発した細胞シミュレーションの汎用ソフトウェアは、"E-CELL System"といいます.それを使って、いろいろなシミュレーションをしています.一つは、赤血球全体ですが、他にも、神経細胞で記憶のメカニズムに関係あると言われている長期増強現象というのをシミュレーションして再現しようとしています.また、心筋細胞は1秒毎に拍動しますが、条件によって動悸が速くなったり遅くなったりする状態もシミュレーションしています.ミトコンドリアをやっているのは別のグループですが、ミトコンドリア全体をシミュレーションしたものは論文にもなっています.ミトコンドリアは独立して生きているようでも、ホストのタンパク質などを取り込んで使っているので、意外と難しい.

I:心拍数の多い人と少ない人がいますが、拍動の速い人は早死で、遅い人は長生きすると、私の友人達が言っていました.それは本当なのでしょうか.

冨田:それは概ね正しいと思っています.寿命を縮める要因はいろいろありますが、なかでも、活性酸素が、DNAを始め、細胞のいろいろなところに傷をつけるから老化するという説が一般的です.それが本当だとすれば、運動すると、当然、活性酸素の量が増えますので、スポーツ選手は寿命が短いということになりますね.(笑)

大島:それは、また別の理由があるかもしれない.

O:心筋細胞一個をシミュレーションすることで、どういう意味があるのですか.集合的に働いている気がします.

三井:心筋細胞というのは、一個一個バラバラにしても拍動しますね.

冨田:心臓としての働きをみるためには全部まとめないといけませんが、心筋細胞一個でも、分からないことはいっぱいあって、状況次第で、拍動が止まったり、速くなったり、遅くなったりします.断片的なメカニズムは分かっていますが、それをちゃんと知るためにはシミュレーションが必要だということです.

大島:冨田先生の立場は、エッセンスだけを抽出してきて、単純に、最低限のパーツで・・・

冨田:本質をなるべく単純に再現することによって理解するということです.

三井:ここで十分程、休憩にします.

(休憩)

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