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第16回レポート
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第16回リーフレット

第16回 カフェ・デ・サイエンス


講師:  大島泰郎(おおしま・たいろう)
ゲスト講師:  富田勝(とみたまさる)
日時:  2007年12月8日



異端児のみる生命 「生命の設計」 BACK NEXT

冨田:私もメンバーの一人でした.微生物を物質生産に利用しようというものです.大腸菌には約4,400の遺伝子がありますが、環境の変化に対応するための遺伝子など、滅多に必要としない遺伝子をたくさんもっていて、そこでエネルギーを無駄遣いしています.大腸菌が、工場のような非常に管理されたところで、最適の環境で生きるのであれば、遺伝子は4,400も要りません.そこで、不要な遺伝子を全部とってしまえば、工業用にはより効率が上がるのではないかというわけです.多少、効率が上がったと聞いています.


Y:メタボロームの素晴らしい測定方法を開発されたそうですが、それについてコメントを頂けますか.


冨田:メタボロームでは、代謝物質を一斉に測定するのですが、我々が開発したのは汎用の技術ですので、細胞の代謝物質だけでなく、尿、血液、コカコーラ、紅茶、何でも測れます.この数ヶ月で解析スピードが格段に上がりましたので、病気の人の血液を片っ端から測って、病気特有に増える代謝物質等を探してみたいと思っています.また、GABAとかポリフェノールのような機能性物質も測れますので、学部生と一緒に、果物を片っ端から測ってみようとも思っています.山形県産のサクランボはポリフェノールが多いとか少ないとか(笑).そういう情報は、コマーシャルバリューがありますから、非常に重要です.


H:どのような原理を使って測定しているのですか.


冨田:一種の質量分析計で、分子量1,000以下のものを全て一斉に測ることができる機械です.


三井:少し心配になったことがあります.現実の細胞をどんどん改良して、たとえば、エネルギー効率を40%から60%にしてしまったら、それは細胞と言えるのでしょうか.


大島:実は、それに近い生き物がいることを知っています.私の専門ですが、温泉の泉源、80℃とか90℃のところでも生きている生物がいます.タンパク質は20種類のアミノ酸でできていることになっていますが、その中のシステインというイオウを含んだアミノ酸は、酸素があって高温になる所では壊れてしまいます.温泉の泉源に棲んでいるバクテリアがもっているタンパク質は、全てのタンパク質ではありませんが、多くはシステインを含んでいません.19種類のアミノ酸でタンパク質を作っているわけですね.それで生きているのだから、アミノ酸の数は減らせるはずです.この頃、若い人に向けての会で講演を頼まれると、専ら、その研究をしたらいいと言うことにしています.半分くらいにまでは縮められると思いますね.


O:大腸菌にも種類がいろいろあって、K12株という昔から実験室でペットみたいに飼いならされた株や、O157という食中毒に起こす大腸菌がいます.O157にしても、ヨーロッパのO157と日本のO157は少し違う.どうして、そういう細菌が世の中に憚るかというのが気になっています.それから、先程、コンピュータはアインシュタインを超えないという話がありましたが、私の同僚は、昨日、学生を騙す為に、20年後には超えると言っていました.(笑)


冨田:人が一からプログラミングして人間の知識らしきものをやろうとしても、100年ぐらいの単位では、限界が見えていると思っています.もちろん、地動説のような凄い発見があれば別です.今のところは、コンピュータを勝手にやらせておいて、だんだん賢くするという方法しかないのではないかと思います.歴史的に有名な例ですが、強力なチェッカーのプログラムを作った人がいます.そのプログラムは最初すごく弱かったのに、負ける度に反省して、どの指し手が評価値を落としたかを分析し、次からその手を指す確率を下げるようにしていたら、遂に、そのプログラムを作った人も勝てなくなってしまったという.(笑)


H:冨田先生が『ゲーム少年の夢』をお書きになってから16年経っているわけですが、この16年間に、何が分かったかではなくて、こんなにやっても分からないという視点で(笑)、生命科学に関する本を書いて頂きたいと思います.何ができた、何が分かったという発表は多々ありますけれど、分からないということを仰ることができるのは、スゴい先生でないとできないと思いますので、是非、両先生に書いて頂きたい.


冨田:非常に素晴らしいコメントだと思います.高校の生物の教科書を見ると、分かっていることしか書いてないから、結局、暗記科目みたいになって、あまり面白くないですね.生物が面白いのは、分からないことばかりだからですよね.その辺を、高校生や中学生に熱く語りかける人が必要ですよね.


三井:それは、大賛成です.賛成の方は、どんどん本を書いて下さい.


大島:「分からないことだらけ」ということで一言.大腸菌が株によって少しずつ違うという話がありましたが、それも分からないのです.どこまで違ったら大腸菌でなくなるかは、誰も知らない.


T:冨田先生のシミュレーションを実応用した例がありましたら教えて頂きたいのですが.


冨田:先程、「シミュレーションをやった結果が正しいかどうかを、どうやって決めるのか」という厳しい突っ込みがありましたけれど、ある知識をプログラムして、シミュレーションがうまく動いたからといって、その知識が正しいという証明はできません.ただし、矛盾がなかったということは言えるわけです.多くの知識を断片的にもっていると、どこかに矛盾があるものです.無矛盾を確かめることが、シミュレーションの、当面のもの凄く重要な役割ではないかと思っています.


O:かって、哲学者が認識論で一所懸命に議論しましたが、哲学的にも、シミュレーションが現実と一致しているかどうかは証明不可能でした.矛盾が無いということしか言えない.ニュートン力学もそうです.あれは非常に精度が高くて、偶々合っているから信じているけど、実験と合わなかったら駄目です.それを人間でやったらどうなるか.自然界は人間が作ったものとは差があるから、合っているかどうかは人間の直感で決めるしかない.違っていたらどうなるかというと、淘汰されて死んじゃう.(笑)


B:人間はこれ以上進化するのでしょうか(笑).人間の遺伝子は下等な生物よりも多いということですが、もっと遺伝子が増えて進化する余地は十分にあるように思われます.しかし、細胞にもスペースがあって、かなり混み合っているようですから(笑)、構造的にもこれがプラトーなのかという気もします.それでも、進化し得るのか.進化するとしたら、どういうところが進化し得るのでしょうか.


大島:答は、イエスとノーと両方あります.生物の進化には、環境が変わって、それが長い時間をかけて影響した種類の進化があって、それはもうほとんど起らない.我々は、環境をコントロールしていて、環境を変えないような能力をもった唯一の生き物ですから、そのタイプの進化は起らない.それから、もう一つの進化は大絶滅です.隕石の衝突によるものは有名ですね.そういった類は、今では予測して避ける技術があると思いますが、それ以前の古生代から中生代、2億年前に起った大絶滅は、今のところ、本当の機構が分かっていません.しかも、恐竜の時よりずっとひどいのです.その当時地球上に生息した生物は、ほとんど全部死んでいる.進化学者によって少しずつ違いますが、一番大きい値をとれば、96%にもなります.それは避けられないかもしれません.そうなれば、進化するというより、ご破算で、もう一度やり直しです.


H:冨田先生は、「日本では生物が好きではなかったけれど、アメリカで受けた生物の授業が非常に面白かった」と仰った.そこには、日本の教育に対する示唆が(笑)含まれているように思います.そこで、先生には、文科省に対するご意見番になってもらったらどうかと思ったのですが・・・.


冨田:アメリカに限らず、日本でも、生物を教える人には二通りのタイプがあると思います.一つは、「生物というのは複雑で多様で例外だらけで、そんなもんだ」と教えるタイプ.もう一つは、「生物というのは複雑で多様で例外だらけのように見えるけれども、本質的なところは皆同じだ」と教えるタイプです.アメリカの先生は、最初の講義で、「大腸菌でもヒトでも基本的なところは皆同じなんだよ」と仰ったので、この先生の言うとおりだと思って興味を持ちました.


D:前半にあったお話ですが、ブドウ糖の供給を止めるとATPの量は減っていくけれども、その前に一瞬増えるということでした.その増えた原因は何だったのでしょうか.


冨田:解糖系というのは十数ステップありますが、前半の3ステップくらいではATPを消費します.そして、後半でその消費量の倍のATPを作ることによって、ネットで稼いでいます.従って、グルコースをピタッと止めると、最初に起ることは消費を止めることだったわけです.


大島:非常に明快.


C:コンピュータウイルスというのは人工知能のうちに入るのでしょうか.人工知能の先生方がコンピュータウイルスを研究すると、もの凄いのができそうな気がします.(笑)


冨田:ウイルスとは言いませんが、僕らが開発したソフトウエアを、お試し版として無料で配るときは、時限爆弾を入れます.お試し版を永久に使われると困るので、三ヶ月経つと動かなくなるようにするわけです.それもウイルスの一種ですかね.

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Last modified 2008.02.12 Copyright(c)2005 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.