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第16回レポート
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第16回リーフレット

第16回 カフェ・デ・サイエンス


講師:  大島泰郎(おおしま・たいろう)
ゲスト講師:  富田勝(とみたまさる)
日時:  2007年12月8日



異端児のみる生命 「生命の設計」 BACK

A:隕石が衝突するような大事件が起これば、生物の対応は不可能だと思いますが、最近の地球環境の変化程度では、生物の進化に問題ないのでしょうか.それとも、危機的な状態になる恐れがあるのでしょうか.

大島:地球上で新しい種が現れるような変化は、時間的には、1,000万年単位でしか起りません.進化に関して、単に環境の変化というときには、スケールが非常に大きくなります.それに、生物はネットワークを組んで生きていますから、環境が変わるとそのバランスも変わります.メンバーのバランスが崩れることも進化の要因に成り得ます.とにかく、進化は、とても時間のかかるプロセスだということです.

冨田:地球温暖化が問題になっていますが、地球は元々温暖で、二酸化炭素だらけの灼熱の星だったわけですよね.そこにシアノバクテリアのような光合成をする生物が大爆発して、地球環境が変わってしまった.そして、大気中の二酸化炭素が固形化されたために、二酸化炭素の少ない今の環境があるわけです.我々は、何十億年もかけて固形化した炭素を燃やして気体にしているわけで、元の地球に戻そうとしているかに見えます.6%削減といったレベルの問題ではないと思います.大気中の二酸化炭素を固めて海に沈めるなど、何らかのウルトラCの技術が必要です.

O:安部公房という作家の小説に、第四間氷期というのが出てきます.そのとき、人間はどうするかというと、鰓を付けて生き延びる(笑).

F:薬学部におりますので、病気の細胞のようなものもシミュレーションできればよいと思います.新薬の開発では、実験動物にありとあらゆるイジメのようなことをやっていますが、シミュレーションで判断できることが増えて、死ななければいけない犬を一匹でも減らすことができればと思います.

冨田:先程、赤血球のシミュレーションをしていると言いましたが、代謝系に関して非常に完成度の高い赤血球モデルがあります.それを使って、遺伝的酵素欠損症、つまり、ある種の酵素遺伝子に生まれつき異常がある貧血患者の赤血球をシミュレーションしました.その赤血球は、正常人の赤血球に比べて、寿命が短いのですが、シミュレーションでも、代謝が滞った結果、細胞内の酸化状態が強くなって、寿命が短くなるということを確認しています.どの遺伝子がどうなるかというのを片っ端からやったり、そうなったとき、どうしたら元に戻るかというのも片っ端からやったり、コンピュータというのは、網羅的に、全通りの組み合わせを百万通りとか、そこが強みだと思います.

F:新薬の開発に際しては、思わぬところに副作用があるので、単に胃薬を開発する場合でも、胎児への影響だとか、あらゆる影響をみる必要がありますけれど、なかなかできないというのが現状です.これからの新薬開発は、「網羅的」というのが重要な要素で、何らかのシミュレーションを導入しなければ大変かなと思いますので、是非、ご協力をお願いしたいと思います.

冨田:ありがとうございます.(笑)

M:シミュレーションが人間の心に与える影響に関心があるのですが.最初にシミュレーションを発表されたときの反応はいかがでしたか.(笑)何かパターンがありますか.

冨田:生命科学者がどう受け止めたかということであれば、なかなか厳しいものがありました.パターンは三種類あります.先ず、全否定という方がいらっしゃいます.つまり、「そんなものは全く信用できない.コンピュータ屋のお遊びだ」という人が、10年前には半分以上いました.僕が最初にE-CELLを発表した学会は、1996年か1997年の分子生物学会でした.情報処理学会ならば、受けることは確実に分かりますが、僕が「これは生命科学だ.生命科学者からフィードバックをもらわないと意味がない」と頑固に言い張って、分子生物学会にしたのです.そこでは、それこそ99%の方からボロクソに言われました.しかも、僕の前では言わずに、学生を捕まえて言うわけです(笑).僕には、「変わったことをやっていますね」などと仰りながら.学生達にしてみれば、研究の意味を根底から覆されるわけですから、ショックを受けて、泣きだしてしまう女子学生もいました.そのような学生のモチベーションを上げてやるのが大変でした.しかし、1%くらいの方は、「よく分からないけど、将来的には、こういうことをやらないと、どうにもならなくなるだろうね」と言ってくれました.年々、そういう人の割合が増えて、今はどのくらいでしょうかね.

大島:市民権は、もう確実に得られたと思いますね.

冨田:そうすると、半分くらいですか.

大島:ところで、三番目のタイプは何ですか.

冨田:無関心です.(笑)

M:何か芸術をみるような反応はありましたか.

冨田:十年前に、ライブで、デモをして見せたのですが、「グルコースをゼロにしてみます」と言って、細胞を死なせたり、「37番目の遺伝子をノックアウトします」と言いながら、マウスをクリックしてみせたりしたのですが、そのデモに、いたく感動してくれる人がいました.100人の前で話すと、5人くらいの方が寄ってきて、「スゴイですね!」(笑)

O:実験をしている人と僕らのように図式や言葉しか使わない人の間には根本的な違いがあって、実際のモノを扱っている人達は、言葉だけ扱っている人間を胡散臭く思っている(笑).これはどうしようもないですね.だんだん変わっていくと思います.

C:今日のテーマに挙げてあった「柔らかいロボット」はできるのですか.

三井:いくつかのテーマが残ってしまいましたね.生きているのと死んでいるのとどこが違うのかという話も採り上げたいと思っていました.ところで、「柔らかいロボット」というのは、どういうロボットですか.物理的にフニャフニャしているわけではありませんよね.「融通が利く」ということですか.

大島:冨田先生の細胞は「柔らかいロボット」だと思います.たとえば、赤血球の中にあるヘモグロビンが酸素を運ぶときに、電子的な機械でしたら、スイッチのオン・オフです.冨田先生の作った赤血球モデルは、そのオン・オフに近いことをやっているけれど、非常に角の取れた滑らかなカーブを描いてオン・オフをやっている.そういう意味では、既に柔らかい機械ですよね.

冨田:そ、そうですね.(笑)

先程から何度も、「127遺伝子の細胞」はグルコースを与えないと死ぬと言ってきました.この「死」というのはどういう意味かということですが、非常に難しいですね.普通は、グルコースがないと、ATPがグーッと下がってしまいますが、ATPが下がりかけのときにグルコースを足してやると、それを取り込んで復活します.ところが、あるところまで下がってしまうと、グルコースを取り込むのにもエネルギーが必要ですから、取り込むことすらしなくなって、そのままタンパク質が自然分解するまでズーッと何も起らない.僕は、それを「死」と定義しましたけれど、それは嘘です.今言ったような定義で死んだとしても、注射針で細胞の中にグルコースを足してやれば生き返るわけです.取り込めなくなっただけですから.つまり、細胞の中に、生きている細胞と全く同じ組成のものを注入してやれば生き返るわけですから、「死」という定義を考えること自体、あまり意味がないのです.

大島:私もここで主張したいのは、「死」というのは、何かシャープな境界のある現象ではないということです."pH"と同じで、「死」という言葉で表現できる状態に限りなく近づいているかどうかということに過ぎないと思います.冨田先生の細胞は、正にそれをやってみせてくれるのだから、スゴイです.

三井:この「異端児のみる生命」の第一回目で、大島さんは、「死と生は連続的だ」というふうに仰ったのですが、どうしても承服できない人がいらっしゃいましたね.既に時間が過ぎていますので、この話は、また次の機会に譲るとして、今日はこれでお終いにします.

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Last modified 2008.02.12 Copyright(c)2005 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.