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第31回レポート
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第31回リーフレット

第31回 カフェ・デ・サイエンス


講師:  池内了(いけうち・さとる)
日時:  2010年10月25日



世界はパラドックス「物理のパラドックス」 BACK NEXT

三井: そこで、物理のパラドックスをもう一つ.宇宙に果てがあるとする.では、その先は何なのか.先に何かがあるとすると、そこにも空間がなければいけないから、これは自己矛盾である.従って、空間に果てはなく、無限に広がっていなければならない.これは、カントが言ったそうです.

池内: そういう考え方はあり得るでしょうね.それは正にカントの論理学です.

三井: カントが自己矛盾であると喝破していますが、パラドックスではないのですか.

池内: 果てがあったとしても、別の宇宙があればよいわけで、カントが、違う宇宙があることを知らなかっただけです.宇宙が無限個にまで連なっているとも考えることができるわけです.その場合に、果てという概念を、どこまで延長するのか.連なる果ての果てまで考えるのか、それとも、自分達の宇宙だけの果てを考えるのかということでしょうね.

三井: 宇宙の人は、最後になると、宇宙は無限であると言いますが、それを言うと、宇宙に果てはないことになるのではありませんか.

池内: 無限という概念も難しいのですが、現在の観測結果を見れば、無限のほうが良かろうということです.それで、現実に無限を証明したわけではないのです.

三井: つまり、有限であることを証明できないから、無限であると言っているのですか.

池内: そうではありません.我々は、無限の遠方まで測ることは絶対にできません.ある有限の場所を測って、これが有限なのか、あるいは無限なのかということを判断するしかないのです.そのときに、我々は空間の歪み率を測ります.ほとんど宇宙を代表しているくらいの広大な領域における空間の曲率を測った結果、無限だろうと判断しているわけです.だから、今のところは、無限のほうが都合が良かろうということです.

F: 宇宙は膨張していますから、遠くのほうから見ていると、どんどん光速に近い速度で離れて行くことになりますが、更に離れた距離では光速以上になるのではないかと思います.しかし、光速を超える物質はないわけですから、そこはどうなるのでしょうか.

池内: 宇宙空間は光速以上で膨張できます.物質がある空間に対して動いているわけではありません.空間自体が広がっているということには、相対性理論の枠ははまらないのです.

この例が正しいかどうか自信はありませんが、アサガオの成長速度を例にとると、部分部分が伸びる速度がそれほどではなくても、アサガオの天辺が伸びる速度は大きいということがあると思います.だから、各場所が全部光速以下で伸びていても、全部立ち上がれば光速以上の速さで遠ざかっているようになりますね.

三井: 宇宙とは何?と言いたくなってきました.

G: 無から有ができるというパラドックスが、なぜ必要なのですか.

池内: 何かがあると、必ず、それはどこから来たのかと言われますから、最初は何も無いというところから出発せざるを得ないのです.

G: 元からあったと考えておけばよいではありませんか.

池内: 昔からあったとすると、それは誰が準備したのですか.元からあったということにしてしまうと、それ自身は何も説明し得ないことになりますね.

三井: 物理学は説明しないのではありませんか.

池内: 説明はするのですが、なぜ、そうなのかはわからないということです.ただ、誰かがどこかで準備したということを考えないために、何もない状態というのを考えるわけです.何も無いという状態を考えれば、有ったも無いも何も要らないわけです.

三井: 何も無いのではなくて、ちゃんと中身があるというお話ではなかったのですか.

池内: 二つの重ね合わせの状態だから、何も無い状態なのです.

H: 今の話は、ビックバン前の状態だと思いますが、ビックバンが起こる切っ掛けは何だったのでしょうか.

池内: いろいろ調べていますが、それは分かっていません.

G: 時間を遡れば、一点に全てのモノがあったと考えなければいけないわけで、実際に何があったかは分からないのだから、考えても仕方がないと思います.それを考えることで、何か、実益があるのですか.

池内: 実益は一切ありません.実益を求め始めると、宇宙や素粒子などに関する学問は無意味になってしまいます.科学というのは、文化であると思っています.だから、実益は無いのです.何かの拍子に、結果的に実益が生じるかもしれませんが、それを目的にやっているわけではありません.物理学者は、やたら難しい問題を考え出して、自分で悩んでいる側面は無きにしもあらずですが、しかしながら、好奇心というのは、本来そういうものであって、そういうものを大事にしたいと思っています.

だから、単にあったということになると、それで終わりになってしまいます.そうではなくて、そこでいろいろな考え方をしてみる.それらは最終的に証明できないかもしれないし、100年先に証明できるのかもしれない.とにかく、現時点においては証明できないかもしれないけれど、様々な可能性を検討することによって、人間の考え方を深めていきます.科学にはそういう役割がありますし、僕は、それが一つの文化であると考えています.

G: 実益という言葉の使い方はよくなかったと思いますが、元からあったというところからも科学的に考えていくことはできるのではないでしょうか.

三井: 宇宙がどうして始まったかというのを、科学者でなくても、誰でも知りたいだろうと思います.我々は、何も無いところから出てきて、ここに今いるわけですね.だから、どうしてそういうことになったのかを知りたいのです.

G: 無から有が生じたというのは、一つの仮説にすぎません.

三井: 完全に何も無かったのではなくて、非常に僅かだけ何かがあったということはないのですか.


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Last modified 2010.11.24 Copyright©2005 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.