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第32回レポート
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第32回リーフレット

第32回 カフェ・デ・サイエンス


講師:  池内了(いけうち・さとる)
日時:  2010年12月20日



世界はパラドックス「生物のパラドックス」 BACK NEXT

三井: 生命の場合も、タンパク質が先か、DNAが先かという問題がパラドックス的にあるわけです.今のタンパク質は、DNAの遺伝情報を基にして作られるけれども、それにはタンパク質が要る.そこでもたちまちパラドックスになる.今、生命の起原はどういうふうに考えられているかについて、大島さんに少し説明していただいてもよろしいでしょうか.タンパク質が先か核酸が先かというのは、あまり意味のない議論でしょうか.

大島: タンパク質という機能的なシステムと核酸という遺伝的なシステムの、どちらがより完成度の高い形でスタートしたかについては異論があります.進化的な多様性を生み出すには遺伝的なシステムが先に必要ですが、他方では、遺伝のシステムは好い加減なほうが良いという意見もあります.後者であれば、いろいろな変異をした子孫がたくさん産まれてきますから、機能的なシステムのほうが先でなければいけません.もう一つは、同時にスタートしたというものですが、もちろん、どれが正しい答かというのは、誰も知らないことです.

三井: 事前に寄せられたご質問の中には、生まれと育ちのパラドックスというのを気にしていらっしゃる方も多かったと思います.例えば、「学者家系とかスポーツマン家系というのは、遺伝的要素と環境要因のどちらの影響が大きいか」というのや、性格や行いについて、また、男性的な女性とか女性的な男性について、先天的要因と後天的要因のどちらが大きいかというのもありました.簡単に言えば、遺伝的な要因と環境的な要因の両方で、相補ったり、中には、結果的に反発したりしているところがあるかもしれませんが、総体としては両方が影響して決まってくるわけですね.

池内: それは現象によるでしょう.スポーツマンの家系などは、環境がものすごく影響しているというのは事実ですね.しかし、スポーツに適した頑丈な体をもつという生得的なものも確かにあるわけです.ただ、三代くらい続くとほとんど普通になってしまいます.

男性的な女性と女性的な男性についても、生得的な側面はかなりあるのではないかと思います.動物などは雌が基本であって、人間で言えば、雄はY遺伝子からの指令でホルモンのシャワーが出て、男性系が作られていくわけです.従って、胎児の段階でのホルモンの浴び様といった、母体の環境によって様々なタイプができる.それは不思議ではないと思っていますし、僕自身にも女性的な部分があるわけです.

三井: それは遺伝子レベルで決まっているのではないでしょうか.

池内: 遺伝子レベルではなくて、胎内環境だと思います.遺伝子レベルでは、雌がX遺伝子、雄がY遺伝子という決まったものをもっていますから.

三井: 新聞からの知識ですが、緑藻の一種でボルボックスという生物がいます.これも男性化遺伝子のあるほうだけが雄になるということを日本人が発見して、その遺伝子に「侠気(おとこぎ)」という名前を付けました.ところが、最近、雌にだけある遺伝子というのが見つかり、それには「緋牡丹」という名前が付けられたそうです.そうすると、雌が基本というのも怪しくなってくるのではないでしょうか.

池内: 例外的なものや過渡的なものはいろいろあるのだと思います.

三井: 先程、雌雄同体についてのお話がありましたが、動物の場合は、カタツムリやミミズ、それにプラナリアなども雌雄同体ですが、一つの個体の中に精巣と卵巣をもっています.しかし、その中で受精が起こるわけではありません.別の個体と出会って接近遭遇が起こらないと受精は起こらないのです.つまり、出会った時に精巣を使ったほうが雄で、卵巣を使ったほうが雌になります.そこで初めて雄と雌ができてくるわけです.雌と雄の個体が分かれていると、雌は必ず雄に会わなければいけませんし、雄は雌に会わなければいけませんが、雌雄同体であれば相手が誰でもいいわけですから、非常に効率がいいですね.ですから、進化の過程で雌雄同体を経て、そのうちに雌的なところが強いのが雌になり、雄的なところが強いのが雄になったということで雌と雄が出来てきたと考えるのはいかがでしょうか.

池内: 私はそう思っていますが、そういうときに、雄的とか雌的というのを何で決めているのか、また、雌雄同体のままだったらどうなるのか、それがよく分かりません.

三井: 卵を作るほうが手間がかかるわけですね.

池内: 専ら雌だけが手間がかかるようになったのでは大変だと思いますが.

三井: なりたくなくても、なってしまったのでしょう.

池内: なるほど.

D: 雌雄同体のとき、遺伝子はどうなっているのですか.

池内: 精子と卵子をつくる染色体は違うのではありませんか.

E: 魚の中には、卵がふ化するときの水温で雄と雌が決まるものがあります.遺伝子はほぼ同じで、卵をつくる個体か、精子をつくる個体かということではないのですか.

三井: よくわかりませんが、ホルモンの影響で変わってくるのかもしれません.魚の中にも、小さいときは雄で、成長すると雌になるとか、いろいろありますから、環境の影響ですね.

E: 人間でも、カリブ海の島で性転換した人がいたという話を聞いています.

池内: X遺伝子かY遺伝子かで、サイズも中身も違うのに、どうしてそんなに簡単に入れ代わることができるのだろう.

E: 入れ代わったのではなくて、形態だけだと思います.

C: いろいろあるということで、この議論はこれで打ち切ったほうが良いと思います.(笑)

池内: 生物は、いろいろあるのです.(笑)

三井: 毒と薬の場合もそうですが、いずれも両方あるということになってしまいますね.それでも、やはりパラドックスだということですか.

池内: 本当にパラドックスだと言えるかどうかは、どこを見て、どの部分を取り上げているかを、きちんと定義しないといけないのでしょうね.


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Last modified 2011.01.19 Copyright©2005 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.