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第32回レポート
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第32回リーフレット

第32回 カフェ・デ・サイエンス


講師:  池内了(いけうち・さとる)
日時:  2010年12月20日



世界はパラドックス「生物のパラドックス」 BACK NEXT

三井: 一見矛盾しているように見えることがあるから、それを本当に矛盾なのかどうなのか、科学的にはどうなのかというのを考えるのが、今日の大事な点なのですね.

水谷: パラドックスというのは生物固有の現象ですか.無機物でもパラドックスがあるのでしょうか.

三井: 頑丈なものを作ったら、壊せなくて困るというようなことですか.

池内: 「人間との絡みで」と言わざるを得ないのではないかと思います.頑丈なものを壊せないという例も、人間との作用の中で、それがプラスに働くかマイナスに働くかを決めるわけですね.ですから、無機物そのものは、その使われ方によってパラドックスになったりならなかったりするのではないかと思います.

I: そうすると、パラドックスというのは生物学の範疇だということですか.

三井: 前回の物理学でも、無から有を生じるパラドックスを始めとして、いろいろなパラドックスがありましたね.シュレジンガーのネコなどもパラドックスですね.

池内: 生きているのか、死んでいるのかというパラドックスです.

I: そうすると、今日出された生と死のパラドックスと同じ性格の問題ではありませんか.

三井: 一応、ジャンルをお分けになったわけですから、やはり、生物には生物特有のパラドックスがあると思います.

池内: 生物では、パラドックスという言葉はあまり正確ではないと思っています.生物の中には様々な対立物が存在していて、すぐに答が出せないような事柄がたくさんありますから、見極めてしまうと、パラドックスではなくなってしまうのかもしれません.

三井: 毒と薬のパラドックスにしても、適量を使えば、効いて欲しいところだけに作用しますが、たくさん使うと余計なことをするので、毒になる.そう言ってしまえば、パラドックスではなくなってしまいますね.そうすると、今日は、「生物のパラドックス退治」ということになりますか.

池内: それはいい言葉ですね.きちんと定義をしていくと、パラドックスではないということになるのかもしれません.

三井: ただ、奥が深いので、現在はまだ納得のいく回答が得られていないことがたくさんあるということですね.

J: 毒と薬の定義ですが、薬の一般的特性としては、毒性を示す作用が必ずあって、一つでも良い作用があれば、それを薬というと聞きました.

三井: それは、やはり、人間が絡んできますね.

池内: 人間というか、人間の体の反応ですね.実際問題として、全く副作用のない薬はないと思います.相対的に正の作用が大きいから薬として採用しているだけです.そうすると、本来的に、毒と薬が拮抗していることになります.使われ方によって、正作用のほうが大きくなったり、副作用のほうが大きくなったりするわけですから、毒と薬というふうには言えないかもしれません.

三井: 前に、「薬のリスク」というテーマでやったことがありますが、薬は気を付けて使わなければいけないというお話でした.

C: 池内先生のお話に出てきたサリドマイドですが、サリドマイドには、右手型と左手型という二つのタイプがあって、不純物が混じっていたので、アザラシ肢症が起こったと言われましたが・・・・・

池内: 不純物というよりは、右手系と左手系が半々に混じっていて、確か、右手系が悪役だったと思います.

C: そういう事実がわかったのは後からのことで、これは科学が追いついていなかった例だと思います.従って、パラドックスには、そういう関係もあると思います.

三井: サリドマイドを化学合成すると、どうしても右手型と左手型の両方ができてしまうわけです.それをそのまま使ったからいけないということだったのでしょうが、良いほうの左手型だけ与えれば良いかというと、それが体の中に入ると右手型になるものもありますので、今は、分離してもしなくても同じことだと理解されていると思います.

池内: サリドマイドはドイツの会社が開発した薬ですが、実験が不十分なままで売り出したことが問題だと思います.アメリカでは、FDAがデータ不足ということで認可しなかったために、被害者は一人も出ませんでした.その右手系と左手系を作り分けるようにしたのが野依良治さんの研究ですね.

E: 万人に効く薬というのはありませんが、7、8割の人に効くような薬は既に出尽くしてしまっているところがあって、新しく出ている薬などは半々でしょうか.例えば、イリノテカンという抗がん剤は、患者の10%くらいは生存期間が延びますが、7、8%が即死するほど、副作用は強烈です.特に、新しい抗がん剤は、副作用があるからと言って使わないわけにはいきませんから、その副作用をどうやって避けるかという方向に走っているのが現状だと思います.

三井: 薬がどのようにして効くのかが、完全に分かっていないからですね.

E: ある程度は分かってきています.例えば、イレッサという肺がんの薬は、特定のDNA塩基配列をもった東アジアの人にしか効きません.そういうようなことが少しずつ分かってきたので、薬として効く人にだけ与えれば、より安全になってきていると言えます.アメリカのFDAなどは、イリノテカンを使うとき、遺伝子診断をするようにと勧告しています.

池内: どの段階で人間に適用するかですね.

三井: 少し、パラドックスから離れてしまいました.

池内: いいじゃないですか.いろいろな知識をもっている方の集まりですから.

三井: 脇道に逸れるのは、カフェ・デ・サイエンスの特権です.ところで、万人に効く薬もあるのですか.


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Last modified 2011.01.19 Copyright©2005 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.