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第17回レポート
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第17回リーフレット

第17回 カフェ・デ・サイエンス


講師:  大島泰郎(おおしま・たいろう)
ゲスト講師:  竹田美文(たけだ・よしふみ)
日時:  2008年1月26日



異端児のみる生命 「微生物は敵か味方か」 BACK NEXT

三井:敵のほうが少ないというのは意外でした.我々の印象としては怖いほうが多いような気がします.

竹田さんは、いろいろな本を書いていらっしゃいますが、厚くて高い専門書は敬遠しまして、本屋さんの棚で見つけたのがこれです.『甦る感染症』というタイトルで、2004年に岩波書店から出版されています.制圧されたと思っていた感染症の再流行とか、新興感染症などについて、非常によくまとめられています.面白く読み飛ばすというような本ではなくて、勉強ができるという本です.

大島さんのほうは少し異色ですが、「未来を開く微生物」という題で、中学一年生の国語の教科書に書いておられます.光村図書というところから出ていまして、本屋さんにあるそうです.大変苦労してお書きになったそうですが、何かコメントはありますか.

大島:国語の先生から、いろいろな注文が出るとは思いませんでした.直すのに一年くらいかかりました.

三井:では、ここで、10分くらいの休憩をとります.

(休憩)

三井:始めます.何かご質問はありますか.

Y:私の専門は食品関係ですが、卒業論文は感染症と関係していました.アスペルギルス(Aspergillus)という菌は、お酒を作ってくれるという点では良い菌ですが、アスペルギルス症という肺の病気の原因になるということで、敵にも味方にもなるということを知りました.アスペルギルス以外にも、敵になったり味方になったりする菌があるのでしょうか.

竹田:たくさんあります.因に、Aspergillusというのは、「門・綱・目・科・属・種」という分類体系でいう「属」の名前で、お酒をつくるAspergillusと病気になるAspergillusとでは「種」が違います.

敵にも味方にもなる例の一つして、斜視を治すボツリヌス毒素があります.ボツリヌス毒素には筋肉の緊張を解く作用があって、医薬品として利用されますが、これは強力な致死毒です.熊本の辛子蓮根事件(1984年)では、10人以上が亡くなりましたね.バクテリアの産生する毒素の中で、ボツリヌス毒素、破傷風毒素、O157の出すベロ毒素は、人間にとって最も強毒です.

M:微生物の構成要素は人間に比べて遥かに少ないですね.一般的に、構成要素が多ければ組み合わせの数も多くなるので種類が多くなるはずですが、微生物の種類が億のオーダーもあるというのは、どうしてなのでしょうか.人間一人一人が違うとすれば、日本人だけでも1億人いるわけですが・・・.

三井:染色体の組み合わせが同じ人は一人としていませんが、それを種類と考えていいのかどうか.

大島:必ずしも微生物は単純だと言えないと思います.微生物は細胞1個で何でもやってしまいますが、高等生物の細胞は分業していますので、細胞1個1個は非常に単純です.肝臓の細胞は解毒しかしていませんし、筋肉の細胞は運動しかしていない.ただし、分業していますから、細胞間の通信が必要となります.それこそ複雑ですから、微生物は通信などしないと思われていたのですが、微生物も仲間同士で会話をしています.

三井:微生物間の通信は、同じ仲間でするのですか.

大島:よく研究されているのは、同じ仲間です.光が届かない深海で、魚に寄生して光を出す微生物がいます.その光を利用して、魚は餌を食べ、その餌からバクテリアは栄養をもらう.しかしバクテリアの数が少ないと弱い光しか出せませんから、魚は餌をとってくれない.光を出すためには当然エネルギーを使いますので、弱い光を出すためにエネルギーを使っても、何も得することはありません.だから、自分の仲間がどれくらいの数になったかを通信し合っていて、ここで光ったら儲かるというときまで光らない仕組みになっている(笑).病気の感染菌でも同じような通信をしていると考えられています.僅かな数で人間の身体に入って増殖を始めると、あっという間に免疫のような防御システムでやられてしまいます.そこで、ある数が揃って勝てると思うまで、何らかの症状を起こすようなことはしない.

三井:本当にしてしまいそうなお話ですね(笑).

N:微生物は単細胞で全部やっているということでしたが、ウイルスも微生物に含めるとすれば、ウイルスは他の生き物に寄生していますよね.

大島:全ての微生物が、1匹で全部のことをしているわけではなくて、代表的な微生物がそうだということです.微生物も非常に幅が広いのですが、それは高等生物も同じで、他人に頼って生きている人はたくさんいます(笑).微生物も、ある部分は怠けていて、同じ寄生性の微生物の間で互いに寄生しているというタイプもありますし、完全に他の動物や植物の体の中に入って寄生しているものもあります.

N:分かっている病原菌は200種類もいないということですが、これはウイルスを入れた数なのですか.

竹田:ウイルスも入っています。しかし、人に関する病原菌の数ですから、動物全体に広げれば数は増えてくるでしょうが、分かっている数は少ないと思います.200種類では少ないと言われても、私達は感染症法に載っている100未満の数に悪戦苦闘していますから、これ以上になると困ります(笑).

N:分かっている病原菌の中で、ウイルスとバクテリアの割合はどうなっているのですか.

竹田:パスツールから始まった研究の材料は細菌でしたから、スピロヘータ、リケッチア、クラミジアは、細菌の中に含めて話をしています.ウイルスに関しては、研究者の手で扱えるようになったのは戦後のことで、エンダース(John Franklin Enders, 1897-1985)が小児麻痺のウイルスを細胞の中で増やしたのが最初です.彼は、ハーバード大学で、1942年に医学部の学生と研究を始めたのですが、第二次世界大戦で中断します.戦後、イタリア戦線から帰ってきた学生と一緒に研究を再開し、ウイルスを増やすことに成功したのは1948年のことです.その後、ウイルスは次々と分かってきましたが、現在の感染症法では、恐らく半々くらいか、バクテリアのほうが少し多いと思います.だからと言って、人間を病気にするのはバクテリアのほうが多いという意味ではありません.ウイルスも、これからどんどん分かってくると思います.

ウイルスは、動物細胞や植物細胞や細菌細胞に寄生しないと増えることはできません.そして、動物細胞に寄生するウイルスが人の病気の原因になります.最初に見つかったウイルスは、タバコの葉に感染するタバコモザイクウイルスで、これを結晶にしたのがスタンレー(Wendell Meredith Stanley, 1904-1971)です.私が学生の頃(昭和35年に大阪大学を卒業)は、川喜田愛郎(1909-1996)先生の『生物と無生物の間』という名著がありましたが、結晶化したものは生物ではなかろうということで、生物でも無生物でもないという位置付けだったのですが、今は一応、微生物として位置づけています.当時のウイルスのような感じで今出てきているのがプリオンですね.あれは生物なのか無生物なのか.しかし、感染症の病原体です.

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