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第17回レポート
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第17回リーフレット

第17回 カフェ・デ・サイエンス


講師:  大島泰郎(おおしま・たいろう)
ゲスト講師:  竹田美文(たけだ・よしふみ)
日時:  2008年1月26日



異端児のみる生命 「微生物は敵か味方か」 BACK NEXT

竹田:医学界におりますと、病原菌を味方だと考えて仲良くしましょうというのは(笑)、難しいですね.病人を目の前にして、この抗生物質で治ると分かれば、良心的なお医者さんでも、抗生物質をどう投与するかということしかないでしょうね.必要以上の抗生物質を与える乱用という問題は、医学界の問題というより、医師個人の問題となります.いかにして病原菌を駆逐するかということしか考えていないというのが、私の正直な答です.

G:微生物と何とか共存していければ幸せだと思うのですが、そういう手立てはあるのでしょうか.抵抗力が落ちると病気になるということですから、我々のほうは抵抗力をつける.そして、微生物にも何かやってもらうというような(笑)

竹田:ご質問の中に、既にヒントがあります.私の専門であるコレラ菌と共存するには、我々がコレラ菌に対する抵抗をもてばよい.コレラ菌に抵抗をもつということは、コレラワクチンを接種して、コレラ菌が入ってきても病気にならないようにすることです.それを共存と言うかどうかは別問題ですが、敵にはならない.40年にわたる研究を通して、私は、全ての感染症に対するワクチンができたらいいなぁと思っています.

ところが、現在あるワクチンは指折り数える程しかありません.感染症法に記載されている86種類の病原菌に対して、ワクチンがあるのは10種類も無い.そのほとんどはウイルスのワクチンです.しかも、世の中には、ワクチンは打たないほうがいいと考えている人がいます.さて、どうしたらいいのでしょうか.

今、私は、コレラワクチンをインドの人達に投与するために、インドへ行っています.手元にワクチンはあるのですが、1回分が1ドルのワクチンでは、高過ぎてどうにもなりません.私に付いているドライバーの月収は3千円です.従って、安いワクチンをどう供与するかが課題です.

J:耐性ができてしまった抗生物質をしばらく使わないでおくと、耐性はなくなるのではありませんか.

竹田:耐性というのは、菌の持っている性質で、その性質がなくなるわけではありません.多数を占めていた耐性菌が、同じ種類の他の菌に駆逐されて少なくなり、やがて目に付かなくなるということです.

J:お聞きしたかったのは、あるときにはペニシリン、あるときにはバンコマイシンという具合に、期間をずらして使えば、抗生物質の効きがいいのではないかということです.

竹田:そのとおりです.しかし、東京という限定された地域だけでも、「今日はペニシリンを使いなさい」、「明日はバンコマイシンを使いなさい」という指令を出すのは難しいことですね.(笑)

J:できないことはないと思いますが.

O:人間側の遺伝子の変異による対応もありますね.たとえば、アフリカの娼婦の中にHIVに感染しても発症しない人がいるそうですし、ペストと血液型の関係とか、鎌形赤血球がマラリアに感染し難いとか、他にも、イタリアの山村には何を食べても高脂血症にならない人達がいるという話があります.そういうことを対策とするのはどうでしょうか.

三井:そういう人間を増やすということですか.(笑)

竹田:生物の面白さというのは、性質が均質ではなくて、必ず例外があるということですが、今のお話は、全て例外のほうで、少数派です.そういう人間を増やすというのは、実際には難しいことですね.

I:私はずっと半導体に関わってきましたが、トランジスターは、60年前にできて今日まで、科学技術の指標となって人間生活の役に立っています.それに比べて、200年も前に発見された微生物の解明がなかなか進まないというのは、どうしてなのでしょうか.

大島:私は、個人的に、微生物は直接目に見えないからだと思っています.トランジスターは見えますから(笑).トランジスターだけを採り上げると歴史は浅いかもしれませんが、その背後に長い物理学の歴史がありますので、微生物学は歴史が浅くて未熟だという感じを私はもっています.

先程、培養できない微生物が100倍くらいいるという話をしましたが、コッホから始まった病原菌狩りのときは、不思議なことに、人間に感染症を起こす病原菌のほとんどが培養できたのです.人間の病気はそれだけ重要性がありますから、集中して研究したということもあると思います.それに対して、人間の生活に役立っている微生物、特に、今問題になっている廃棄物を分解するバクテリアなどは、「やってくれているからいいや」ということで、それを研究するための技術が進まなかったという事情があると思います.切羽詰まっていたら、もう少し進んでいたような気がします.

竹田:実は、病気が分かっていても培養できない菌は残っています.ハンセン病の病原菌であるらい菌は、今でも培養できません.それに、個人的には、川崎病も病原菌だと思っています.原因はまだ分かっていませんが、未だに培養できない病原菌あるいはウイルスの可能性があります.

確かに、コッホの時代にほとんどの病原菌は分かったのですが、20世紀に入って最初に発見された菌は、私の師匠(藤野恒三郎、1907-1992)が昭和25年に見つけた腸炎ビブリオです.その次が、2005年にノーベル賞をもらったウォーレン達(Robin Warren, 1937-: Barry Marshall, 1951-)の発見したピロリ菌ですが、まだ出てくる可能性はありますね.

ご質問にあったように、微生物の解析が進まないのは、半導体と違って、生物は生きていますからね(笑).生物は変異します.遺伝子はヌクレオチドでできていますが、10万個のヌクレオチドがあるとして、そのうちの1個が変わっても、全く性質が変わります.ホストの人間も人種によって違いますね.血液型がA型の人とB型の人とでは、罹り易い病気が違うということにも、ある種の真実があります.これは、A型物質やB型物質に直接関係しているのか、A型物質を合成しているすぐ隣の遺伝子と関係しているのか、それはまだ分かっていませんが、私達コレラ学者は、O型の人はコレラに罹りやすいというのを信じているのです(笑).

三井:前回も、生物は分からないことのほうが多いという話がありましたが、そういう事情もあるのではないかと思います.

S:耐性菌がいなくなるのに、どれくらいの時間がかかるのでしょうか.

竹田:それは、データがあるようでないですね.ある病院で特定の抗生物質を使わなくなったとしても、その隣の病院で使っていると駄目ですから.先程話題になったように、法律などで、日本全国で使わないような状態になれば、今の質問に答えるデータが出てくるかもしれません.

S:それが分かれば、国として、「今後10年間、この薬は使わない」ということができるわけですね.

竹田:現実に、ベルギーではやっています.この薬は絶対に使っては駄目だという規制をしています.

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Last modified 2008.04.01 Copyright(c)2005 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.