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第17回レポート
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第17回リーフレット

第17回 カフェ・デ・サイエンス


講師:  大島泰郎(おおしま・たいろう)
ゲスト講師:  竹田美文(たけだ・よしふみ)
日時:  2008年1月26日



異端児のみる生命 「微生物は敵か味方か」 BACK NEXT

M:微生物の種類が多いのは、環境に適応できる手段をたくさん備えているからで、人間に至るまでのいろいろな生物は、その手段が少なかったから、選択されて種類が減ってきたという考え方はどうでしょうか.

大島:絶対的な証拠はありませんが、我々は、地球の生命の始まりは単細胞だと思っています.我々のようにたくさんの細胞からできている生物は、化石の証拠から言うと、6億年前から今日までの間でしか存在していません.生物が40億年前に始まったとすると、15%くらいの時間にすぎません.今日迄の85%の時間は、微生物だけが進化していたのです.分子レベルでみると、我々と魚を比べても、同じ働きをしている部品は、ほとんど同じです.しかし微生物は、その部品ですら、非常にバリエーションがあります.それは進化するために許された時間が違うからだと思います.

N:抗生物質を使うことができなくなった場合の対策というのはあるのでしょうか.たとえば、2006年のノーベル生理学医学賞はRNAi(RNA interference)の発見でしたが、これを利用して核酸を薬に使えば、直接ウイルスをたたくことができます.先生は、RNAiをどのように評価されていますか.

竹田:抗生物質に代わる薬剤の探求は大きな課題で、多くの研究者が取り組んでいます.特に製薬業界は大車輪でやっていますよね.そこから何がでてくるのか.RNAiについては、理論としては分かりますが、薬になるかどうかは、何とも言えません.ファージ(細菌に感染するウイルス)が感染症の治療に役立つという考え方も根強く残っていて、今でも一所懸命にやっている人がいますけれど.

実は、北里柴三郎とベーリングが抗血清療法を発見した後、20世紀の始まり前後に発表された論文には、感染症の抗血清療法を述べたものが非常にたくさんあったのですが、その全てが成功していません.北里とベーリングの破傷風とジフテリアの血清療法が成功したのは、相手が毒素だったからです.山中伸弥先生がヒトの人工多能性幹細胞をつくった今、それからヒトの血液ができてくるのは目前に迫っていると思います.その血液を使って、コレラ菌の抗血清を作り、それをコレラに罹った人に打って、コレラ菌を殺すことができないかというようなことを、私は夢見ています.マウスのES細胞(Embryonic Stem Cell; 胚性幹細胞)が最初にできたとき、抗血清療法を夢見た学者はかなりいます.

U:BSE(Bovine Spongiform Encephalopathy; 牛海綿状脳症)やクロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jakob Dis-ease; CJD)について、検査法や治療法は進歩しているのでしょうか.

竹田:クロイツフェルト・ヤコブ病には、今のところ、治療法は全くありません.検査法はありますが、若い牛は、プリオンの数が少ないから検査できない.検査の感度の問題です.私の専門であるコレラ菌で、今一番感度の良い検査法を使えば、1cc中に50個の菌がいれば検出できます.しかし、1個では検出できません.それでも病気の原因になります.プリオンに関しても同じことが言えます.我が国で行った全頭検査では、全てネガティブでした.但し、感度の限界を下回ったという意味のネガティブです.

治療法に関しては、そもそも、プリオンとは何かというのが未だに分かっていません.生物としての最低条件は核酸があることですが、プリオンには核酸がありません.ただのタンパク質です.それが伝染するわけです.タンパク質が胃で消化されないで脳までいくなどということは、我々科学者の常識にはないわけで、その常識にないことが今起っているのです.治療法に関する論文は、現段階では、目についていませんね.

三井:原因が分かっていなくても治療法はあるという病気の例は数多くありますよね.

大島:梅毒は、病原菌が見つかる前にサルバルサンができていますから、治療薬のほうが先ですね.

竹田:そういうものはたくさんありますね.ジェンナー(Edward Jenner, 1749-1823)から始まって、最初の頃のワクチンは、サイエンスの裏付けのないものばかりでしたね.

三井:話を変えて、私が常々気になっていることをお尋ねしたいのですが、昔からいた大腸菌と今の大腸菌は同じものなのでしょうか.同じだとすれば、何をもって、同じだというのでしょうか.

大島:答えは、分類学上、大腸菌だと分類できるレベルでしか変わっていないという言い方になります.岩塩の中に、好塩菌という赤い菌がいます.塩が飽和状態になっているところに生えてくる菌ですが、岩塩の中に閉じ込められた状態で4億年くらい前の菌がとれてくることがあります.その遺伝子を、今の好塩菌と比べると、研究できた遺伝子の数は少ないのですが、同じ種類の菌だと言える程度にしか変わっていません.ただ、生き返ってきたものが、本当に4億年前の菌の子孫であると証明するのは難しいので、実際のところは分かりません.

E:腸内細菌のように、今、宿主を殺さないものは、もともと、宿主を殺していたのでしょうか.そういうふうに進化するとすれば、インフルエンザウイルスも、そのうち、無害になるのでしょうか.

竹田:面白い質問で、しかも大切な質問ですね.ただ、腸内細菌は、おそらく、最初は人を殺す菌ではなかったと思います.話が横道に逸れますが、大腸菌というのは脊椎動物の腸管の中にしか存在しない菌です.では、大腸菌の出てきたのが先か、脊椎動物の出てきたのが先か(笑).脊椎動物が先だと言いたくなりますが、進化の上では単細胞生物が先ですね.そうすると、大腸菌の前は、何という大腸菌だったのか(笑).生物分類の基準は、前世紀の学者が作ったものですが、今の分類基準では、大腸菌と赤痢菌は同じところに入ってきます.しかし、赤痢という非常に恐ろしい病気があって、志賀潔先生の見つけた菌が赤痢菌だったので、大腸菌とは別になっています.今の基準で言うと、「大赤菌」とか(笑).

人を殺す菌が、なぜ出てきたかというと、人に都合の悪い何らかの遺伝子が菌に入り込んだとしか考えられません.私の研究の始まりは、腸炎ビブリオですが、腸炎ビブリオの毒素は心臓を止めるのです.従って、腸炎ビブリオに感染しますと、何十万か何百万かに1人の割合で、心臓が止まって死ぬわけです.それは「かなり」な割合だと思っています.その毒素タンパク質の構造を調べてみると、N末端(アミノ基がある側の端)から数えて15番目から6個のアミノ酸配列が、蛇毒タンパク質のN末端の15番目から6個のアミノ酸配列と同じなのです.これは偶然では起こり得ません.腸炎ビブリオと毒蛇とが、どこかでクロストークしている.ダイレクトなクロストークはありえませんので、そこにどういう生物が介在しているのか.今、我々の感染症を引き起こす病原菌は、進化の過程で、いろいろな生物とクロストークして遺伝子を獲得した.それが、偶々、人間にとって都合が悪かった.これでストーリーはでき上がりますが、証拠を出せと言われると、何もない(笑).

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Last modified 2008.04.01 Copyright(c)2005 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.