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第17回レポート
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第17回リーフレット

第17回 カフェ・デ・サイエンス


講師:  大島泰郎(おおしま・たいろう)
ゲスト講師:  竹田美文(たけだ・よしふみ)
日時:  2008年1月26日



異端児のみる生命 「微生物は敵か味方か」 BACK

H:2000年に、鳥取県で弥生時代の「生」の脳が発見されました.200体くらいの頭蓋骨が集中的に出てきて、ほとんどのものは腐敗していたのですが、3体だけが「生」の状態でした.鳥取では非常に有名な出来事ですが、世の中にはあまり知られていないようです.世界的にも例がないくらいの発見だと言われています.それが未だに問題となっているのは、なぜ、生の状態で1,800年間も保存されたかということです.見つかった場所は粘土層に挟まれていて、完全に酸素が無かった状態だということです.従って、酸化細菌による腐敗はない.しかし還元細菌はいるはずです.では、なぜ還元性菌で腐敗しなかったのか.あるいは、還元性菌を殺してしまうようなものが周囲にあったのか.菌を殺す理由の一つに、重金属のようなものの存在が挙げられているのですが、重金属で全ての微生物を退治することは可能なのでしょうか.

大島:岩石圏を1000メートル、2000メートルと掘っていっても、微生物は見つかります.しかもかなりの数です.ただし、培養できない菌が多い.

竹田:エジプトで4,000年前のラムゼスIII世のミイラを見たときに、どうやって保存したのかと不思議に思いました.ミイラには天然痘の痕もありますから、その頃から天然痘はあったのですね.ミイラを保存する技術は、4,000年前から伝達され続けていったはずですが、アレキサンドリアでは、遺体が入っていたと思われる何百という洞窟の中にミイラの跡形もない.そこに残されていた資料によれば、僅か500年か1,000年の間に、保存方法が変わったために、ミイラとして保存できなかったということのようです.

H:鳥取県で生の脳が発掘された付近には人形峠がありますから、ウランによる可能性はありませんかね.

Y:脳に病気があって腐らなかったというのは考えられないのでしょうか.プリオンみたいなもので.

O:骨の中というのは保存状態が良いというので、死者のDNA判定をするときに、歯髄を使いますね.横田めぐみさんの鑑定でも、そのあたりを利用したという話です.

大島:恐竜の卵なども稀に化石として出てくることがあります.中の有機物は石化していますけれども.

O:人間以外の生物は、微生物も含めて全て進化論に則ってやっているんですね.その進化論とは、適者生存です.条件に合ったものだけがスクリーニングされて生き残っていく.ところが、人間は科学というものを手に入れたものですから、病気になっても生き残ろうと足掻いている.そこに無理があるのではないかという気がします(笑).それから、人間の排泄物の半分は大腸菌だそうです.私の田舎では、昔、家の中で馬を飼っていましたけれど、牛は、病気になるからということで絶対家の中で飼わない.糞中の微生物が関係していたのではないかと思います.

竹田:今のお話の中で修正しないといけないのは、人間の排泄する糞便の「乾燥重量」の半分ですね.(笑)

C:私の仕事は環境衛生と関係ありますので、新たな感染症がどんどん出てくることが気になっています.私達が小さい頃は、子供が清潔でないのは当たり前でしたが、今は、保育園の園児を対象にした衛生管理も始まっています.このように周りの環境がきれいになってくると、感染症は増えるのでしょうか.それに対して、私達はどのように対処すべきなのでしょうか.

竹田:感染症は限りなく増えます.しかし、そのことと、我々の環境がきれいになったこととは関係ないと思います.熱帯や亜熱帯の密林の中には、人間を病気にする細菌、ウイルス、あるいはプリオンが無数に存在していると思います.それを、人間が持ち出すことが問題となります.エイズという病気は、アフリカの密林にある特定の集落にだけ見られた病気だったのに、そこへ探検に行った人が持ち出したと考えられています.私がかって厚生省直轄の研究所の幹部職員だったから言うわけではありませんが、こういうものが我が国に入ってきても、行政の対応が先行して、大流行にはならないと思います.現所長はどうお考えでしょうか(笑).私が所長をしていた時代と今とでは、行政の対応は全く違っていてさらに進歩しています.

人間社会の変化も問題になります.実は、1993年に、インドでペストが大流行しています.ペストの流行は、1923年の香港での流行が最後なのですが、インドでペスト対策の指揮を執ったのは、私の長年の友人でした.ペスト菌は、今でも世界中にあって、リンパペストのうちは抗生物質で完全にコントロールできます.それが肺ペストへ移行すると流行の原因になります.インドの最初のペスト患者は、実は、エイズ患者だったそうです.つまり、最初のペスト患者は、菌が感染した時、リンパペストの時期が殆ど無く、すぐに肺ペストになったと考えられます.そして、その呼気からペスト菌が出て流行を起こした.こうした人間社会の変化も、密林から持ち出した菌が人間社会に流行する切っ掛けになるのではないかと思っています.そういう意味で、「限りなく」増えると言うと心配でしょうから、「少しずつ」増えます(笑).

R:抗生物質やワクチンで敵を倒す以外に、たとえば、乳酸菌がピロリ菌をやっつけるように、「菌をもって菌を征する」というような手段が進展する可能性はありませんか.

竹田:可能性はあります.乳酸菌の話しをしますと、インドでは、何千年も前から、各家庭でヨーグルトを作っていて、経験的にコレラに罹り難いことを知っています.ピロリ菌を対象にしたのは、明治製菓のヨーグルトですが、東海大学の古賀泰裕先生が見つけた乳酸菌ですね.一般的には、乳酸菌が腸内病原菌に対して効果があるということで良いと思いますが、サイエンスの土壌に載ると非常に批判が多いのです(笑).それは、きちっとした実験証拠を出すのが非常に難しいからです.わが国で乳酸菌を最初に製剤にしたのは、ヤクルトの創始者である代田稔(1899-1982)先生です.ただ、乳酸菌といっても何十種類もありますから、乳酸菌の属と種まで明確にする必要があります.全く効かない乳酸菌もあると思いますから.今後は,どの「属、種」の乳酸菌が「どの菌」に効果があるのか,実験を積み重ねる必要があると思います.

大島:廃液を処理する微生物の場合でも、似たような事情があります.納豆をつくる菌と同じ仲間の土壌細菌が主役ですが、科学的な裏付けはないし、混合物を使っていますから、その中のどの菌が働いているか分からない.今日は、東大農学部の五十嵐泰夫先生が来ていらっしゃいますので、何か補足があれば.

五十嵐:先程、適者生存の話がでましたけれど、今、適者生存を進化の中心に置いている研究者は、あまりいないと思います.強いものが必ずしも生き残るわけではない.環境条件によって変わるわけですから、種の多様性が重要になります.日本人にはコレラに罹る人がとても多いので、インドで闘えば、我々は皆弱者になります(笑).誰が強者で誰が弱者だということではなくて、そこは、人間のやさしさだと思います.いろいろな人が多様性に富んで生きていくのが人間の社会ですし、いろいろな動物と一緒にやっていくのがこの生態系であるということで、お帰りになって頂きたい(笑).

三井:これで、心安らかにお帰りになれますね(笑).

B:プリオンタンパク質に何かが付いていて、それが影響しているのという可能性はないのでしょうか.

大島:ウイルスが感染して病気を起こす場合でも、ウイルスの全部が必要なわけではなくて、ウイルスがもっているDNAだけで感染することができます.従って、プリオンと呼ばれているタンパク質に、極微量の遺伝子の働きをする物質が付いているのではないかという疑いはずっとあります.しかし、サイエンスでは、「ある」ことを証明するのは楽ですが、「無い」ことを証明するのは不可能なので、その議論は尽きませんね.

三井:いよいよ終わりにします.今日は、有り難うございました.(拍手)

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Last modified 2008.04.01 Copyright(c)2005 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.