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第18回レポート
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第18回リーフレット

第18回 カフェ・デ・サイエンス


講師:  大島泰郎(おおしま・たいろう)
ゲスト講師:  斎藤成也(さいとう・なるや)
日時:  2008年3月29日



異端児のみる生命 「生物進化」 BACK NEXT

Y:突然変異というのは、なぜ起きるのでしょうか.

大島:生物の遺伝子は、A、G、C、Tという4個の化合物が文字のように並んでいますが、それを忠実に書き写すこと(これを複製といいます)で、親と子が同じ性質になります.その複製をする酵素は、99の後に、9が幾つも並ぶほど100%に近い正確さで働くのですが、完全に100%ではないために、常に一定の割合で間違いを起こしています.間違いを起こす比率は、バクテリアもヒトも、ほとんど同じです.もし同じでないとすると、生物進化の時計はできないわけですね.

斎藤:生物はDNAの突然変異を起こします.では、無生物に突然変異のようなものはあるのかと考えてみたことがあります.たとえば、半導体です.半導体には、正孔という、結晶の中に所々隙間のようなものがあって、その孔が空いているから電子が動く.量子力学的なレベルで、そういうことが起るらしいですね.正孔は一種の突然変異と考えてもよいかもしれません.コンピュータはコピー・ペーストを厳密にやりますが(それでも、100万回に1回くらいは間違うと思いますが)、実際の物質は量子力学の影響を受けています.DNAも物質です.つまり、突然変異というのは、非常に一般的な現象だと思います.

Y:遺伝子が複製されるときに、間違いが片寄るのではなくて、確率論的に間違うというのは中立説の立場ですか.

三井:間違い易いところがあるのではありませんか.塩基配列全体にわたって平等に間違いが起るわけではありませんね.

斎藤:DNAの塩基配列には、非常に間違いやすいところがあって、人のDNA鑑定に使われます.たとえば、ACCというような三文字が繰り返して並んでいるところがありますが、この三文字の並びの個数が変化するという突然変異があります.ここは非常に突然変異のスピードが速くて、遺伝的な多様性があります.犯罪捜査で、犯人と思われる人の血痕からDNAをとって、容疑者のDNAと比べたときに、この部分の配列が違っていれは、その容疑者が犯人でないということはすぐ分かります.

それから、中立説や自然淘汰とは関係なく、突然変異自体は常に起っています.皆さんも多くの突然変異をもっていますが、それが淘汰されるかどうかは、子供を残したかどうかですから、別問題です.

O:放射線の影響もありますね.放射線は常に降り注いでいて、コンピュータのメモリーのエラーの原因にもなりますし、細胞にも影響してがんの原因になったりします.

K:今、温暖化が問題になっていますが、自然界の変化によって、人類には、突然変異のような偶然の変化が起るのでしょうか.そして、変化した自然に適応して生き残る可能性はあるのでしょうか.(笑)

斎藤:進化というのは、基本的には、目的論的ではなくて、偶然に突然変異が生じて、そして変化していくわけです.ところが、人間は神の目をもってしまった.私は無神論者ですが、人間が作り出した概念として、尊敬はしています.つまり、人間は神の目で、全てを俯瞰しているわけです.そうすると、偶然ですらコントロールできますね.突然変異というエラーを見つけたら、それを修正すればいいのです.今、我々は、その技術をもっています.

去年のノーベル生理学医学賞は、突然変異を意のままに生じさせる技術に対して与えられました.この技術を利用すれば、ギリシャ神話にでてくるグリフィスのような怪物も作り出すことができますから、当然、人間も変えることができるということになります.

大島:人間は、環境のほうもコントロールできます.環境が変化すると、それまでとは違う生物が生きていける場所ができる.生物が陸に上がることができたのは、上空に安定なオゾン層ができたからです.空を飛ぶこともできるようになった.そうして、昆虫や鳥のような飛ぶ生き物が出てきました.

今の我々は、非常に高度な技術をもっていますから、温暖化に適応した人を作りなさいと言われたら、それは非常に面白い実験だと思いますし(笑)、やってよければ、私もやってみたいと思いますね.ただし、現実の人間社会では、我々を変えて新しいタイプの人を作り出すことは、倫理上、許容されないと思います.その上で永続的な生存を図るとすれば、環境のほうを変えるしかないと思います.

三井:温暖化すると、暑さに強い人が残っていくということでは駄目なのですか.(笑)

大島:私が専門にしているのは、温泉に棲んでいる好熱菌で、80℃から90℃にならないと増殖できません.実は、私は東京で生まれたのですが、江戸っ子にはなれないのです.それは何故かと言うと、熱いものが駄目で、熱いお風呂に入れない.そういう自分のinferiority complexが、好熱菌に対する興味の源泉だと思っています(笑).もし、熱い温度のところで生き残らなければいけないとすると、私は一番先に淘汰される(笑).そういうことが起らないようにと願っています.

三井:ヒトの遺伝子から不利な突然変異を消すというのは、「遺伝子治療」という言葉で置き換えてもよろしいですね.

斎藤:我々は皆、ビタミンCをつくることはできませんが、ビタミンCをつくる酵素の遺伝子を活性化すれば、つくることができるようになります.私は、それを「遺伝子美容」と言っています.

三井:そんな大変なことをするより、ビタミンCを含んでいるものを食べるほうがいいから、現状はそうなっているのですか.

斎藤:コストパフォーマンスですね.

Z:抗生物質は、もともと人間を救うために発見され、改良されてきましたが、最近では、その抗生物質の効かない菌がたくさん出てきています.結果的には、医薬品に人間が滅ぼされかねないという気がします.人間が環境をコントロールしようとする技術が、かえって復讐を受けるというようなことは、いろいろな面で考えられるのではないでしょうか.

大島:環境というのは非常にたくさんの要素を含んでいます.今の我々が、その全てのことを知っているわけではありませんね.抗生物質と同様、環境を維持するには、永続的な戦いを続けていかなければいけないと思っています.

N:人間はシミュレーションができるということが、他の生物との大きな違いではないかと思います.

F:人間というのは、見たこともない46億年前の地球を想像したり、何百億光年も離れた銀河系の将来を予測したりと、非常に不遜なことをしているわけですね.シーラカンスは、何億年もそのまま生きていますし、タラは海底でグータラしている(笑).どのような進化論であろうと、全て人間の傲慢な説ではないかと思います.いかなる生物にしても、存在することに意味があると考えるべきではないでしょうか.それから、人間は実験をして、その結果をフィードバックしますけれど、実際の生物進化では、そんなことは絶対にできないわけですね.

H:人間の特殊性ということになると、生命科学の話だけではなくて、脳科学や社会の話にもなってくると思います.ミームという概念もありますね.進化論は、そういう分野とも関係しているのでしょうか.

斎藤:全ては歴史ですから、当然関係があります.宇宙も全部進化しています.

T:ミームという言葉が出ましたけれど、人間は文化を持っているから特殊なのだと思います.人間は文化で生き残ってきたのですから、地球が温暖化しても、遺伝子を変える必要はないわけです.文化で環境を変えれば、人間はどこにでも住めるはずだと思います.

斎藤:人間が特殊だとは言いましたが、それでも進化には連続性がありますから、チンパンジーと人間とは非常に多くの共通点があります.神経系ができて、外界の情報を目や耳で集めて判断することができるようになったのは人間だけでありません.道具についても、チンパンジーの棒切れを使う蟻突き行動や、昆虫が葉を切り取って、カビの巨大な牧場をつくる行動をみれば、人間だけの専売特許とは言えません.この1万年くらいの間に圧倒的な技術力が生じてきたと思っているのは、我々が人間だからかもしれません.

文化と文明については、学生の頃からずっと悩んでいますし、文化人類学のほうでも問題になっていますが、技術力は文化というより文明だと思います.文化は普遍的なものと考えたほうがいいのではないかと思っています.いずれにしても、人間は技術の力によって、環境が変わっても生きていけるし、宇宙にも行ける.

ただ、我々が共通にもっている遺伝子だけを考えると、大昔から変わっていませんから、それがコアだとすれば、他の生物も同じようなことをやっていると考えてもいいのではないかと思いますが・・・.

大島:同感です.


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Last modified 2008.05.27 Copyright(c)2005 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.