The Takeda Foundation
カフェ de サイエンス
カフェ・デ・サイエンス Top

カフェ トップ
第18回レポート
Page 1
Page 2
Page 3
Page 4
Page 5
Page 6
第18回リーフレット

第18回 カフェ・デ・サイエンス


講師:  大島泰郎(おおしま・たいろう)
ゲスト講師:  斎藤成也(さいとう・なるや)
日時:  2008年3月29日



異端児のみる生命 「生物進化」 BACK NEXT

G:先進国であれば、余程のことがない限り、産まれた子供はみんな育ちますから、子供を残す前に淘汰される可能性は、事実上、なくなってきているわけですね.このように、今の人間の状況は、他の動物の状況と大きく違っていると思うのですが.

斎藤:人間に限らず、哺乳類が産む子供の数は非常に少なくて、特に霊長類は1回の出産で1匹しか産みません.双子の割合は、チンパンジーより、人間のほうが多いらしいですね.ただし、人間は医学を発達させて、それが極端にまでなっている.産まれたときの体重が500グラムしかない子供は、昔は死にましたけれど、今は未熟児として十分な手当をすれば育つ.流産してしまうような子供も、医学の力で生き残っていく.全体的に、そういう流れになっていますね.

N:そういうふうに、本来なら淘汰されたと思われる人間が増えていくと、人間という種が変化することになるのでしょうか.

大島:誰がいつ決めたということではなく、選択は、既に終ってしまったのではないかという気がします.つまり、我々は負の淘汰もやらないと決めたのだと思いますね.それをやらないために起る不都合は、とにかく環境を変えることで人間の社会を作っていくのだと.だから、幸いにして、熱いのが苦手な私も生きていける(笑).

O:我家の過去帳を調べたことがあります.近代の医療が始まるまでは、1年間に産まれた子供の3分の1が死亡し、小学校に入学する頃まで生き残るのは半分しかいない.アメリカのハーバード大学がそうです.1年目で入学した学生の3分の1が脱落し、卒業するのは半分で、淘汰されて優秀な学生だけが生き延びている.ところが、日本の大学は、文科省の方針で、入学した人は全員卒業させる.これは、税金をどういうふうに投入するかというプロの選択です.ご参考までに(笑).

J:人間だけが食べ物を調理加工しなければ生きていけない生物で、米、小麦、トウモロコシ、タロイモなどのデンプンを、生のままでは消化できない生物に成り下がっていると思います.将来エネルギーがなくなったとき、人間はどうなるのでしょうか.

斎藤:これは簡単ですね(笑).チンパンジーにも文化があって、文化はしぶといですが、文明というのは、1万年以上続いていますけれど、脆いものです.大きな戦争や自然の激変で、地球上の人類が99%死に絶えれば、今の文明を継続することは非常に難しい.従って、人間が100分の1になれば、エネルギー問題も一気に解決します.

私は、人類は最終的には全滅すると思っていますが、人間は環境をどんどん変えていきます.私は昔からSFが好きなので、SF流に考えれば、太陽が沈静化していることをキャッチしたら、当然、地球を脱出して別の恒星系へ逃げます.文明が続けば、そういうこともあり得ますが、それは文明の程度によると思います.

先程、遺伝子美容と言いましたが、我々は全員、ビタミンCを作れない遺伝病です.それはコストがほとんどゼロだからです.つまり、ビタミンCをつくることができてもできなくても、同じように生きることができた.我々の祖先が普通に食べている果物などにビタミンCが含まれていたので、体の中でビタミンCをつくることができない生き物でも同じように子供を増やすことができたわけです.従って、医療も非常に値段の安いものであれば、それによって、今まで生き残ることができなかった突然変異があっても、生き残ることができます.だから、コストパフォーマンスにかなり依存するのではないかと思います.

F:植物の実になる部分は、植物全体からみると、ごく一部ですから、葉緑体工学というのがあって、非常に効率良くデンプンを作る技術が開発されれば、食糧不足などは一気に解決されますね.そういうことを目指すべきだというふうに考えます.

斎藤:全く賛成ですね.宇宙戦争とかタイム・マシンで有名なH. G. ウェルズ(Herbert George Wells, 1866-1946)というイギリスのSF作家が書いた、意外と知られていない小さな短編のなかに、ヘモグロビンをクロロフィル(葉緑素)に変える薬の話がでてきます.その薬を服んだ人間は、やがてキノコみたいにブヨブヨになる.それは気持ち悪いのですが、そうなったら、裸になって日向ボッコをしている間に背中でデンプンがつくられて、食べなくてもお腹がいっぱいになる(笑).

大島:実際に、藻類と共生していて、食べなくても日光浴をすればよいという動物がいますね.

S:子供の頃から昆虫に興味をもっていたのですが、昆虫だけが、他の生き物には見られない蛹になることが不思議でした.生物進化のなかで、蛹というのは、どのようにして生じてきたのでしょうか.

斎藤:昔、ヘッケル(Ernst Haeckel, 1834-1919)という人が、「生物の発生は生物進化を真似ている」という説を述べたのですが、それに対する反証の一つとして、「蛹の状態と同じ生物がいたのか」という批判がありました.私は、昆虫のことはあまり知らないので、思考実験をやってみます.蛹の状態が良いかどうかは、判断が難しいですね.私は中立的に考えます.要するに、他の生物に食べられなかったから生き延びられたと.カモフラージュされていて見つかり難かったということもあったかもしれませんが、偶々食べられない状態が長く続いたことによって、蛹の状態を通らないと成虫にならないように固定してしまったと.それから、枯草菌というバクテリアは胞子をつくりますが、胞子は一種の蛹だと思います.

三井:豊島園の鯉の餌は蛹ですか.(笑)

D:暗いところに棲む魚は目がなくなるとか、飛ぶ必要のない鳥の羽がどんどん小さくなってしまうという変化が、その種の遺伝子レベルまで及ぶというのは、どういうふうに解釈したらいいのでしょうか.

斎藤:それは、正に我々が研究していることと関係しています.エイズの原因ウイルスであるHIVというウイルスのゲノムは、約1万個の塩基が並んでいて、そこに20個くらいの遺伝子がありますが、数が少ないので、1個の遺伝子が欠けてしまうと、もうウイルスとしては成り立たなくなって消えていきます.しかし、哺乳類の遺伝子は2万とか3万あると言われていますから、遺伝子が1個くらい欠けても、消えてしまうことはありません.

クジラ、ジュゴン、アシカ、オットセイ、アザラシなどの海に戻っていった哺乳類は、手足の発生を司る遺伝子がおかしくなったと考えていますが、このように、見た目は確かに退化して、魚のようになりますけれども、全く新しい生物が出てくる、つまり、新しい進化の可能性が次々と生じるというふうに考えればよいと思います.

東京工業大学の岡田典弘先生のグループが、グジラと一番近い陸上の生物はカバであると証明されました.実は、私は、十年くらい前から、「クジラってカバみたいだなぁ」と思っていたのです.私は中立論者ですから、クジラの祖先は、当然、4本足で歩いていたはずだと思っていたわけです.

大島:クジラのなかには、犀々、短い足の生えているのがあるそうですね.先祖帰りしているのがある.

斎藤:ダーウィン流の自然淘汰の考え方では、手足のないほうが有利だったから、クジラが出てきたということになりますが、そんなはずはありません.カバのような祖先の生物が川の辺りで生活していた.大型だから、これもまた他の生物に食われない.つまり、敵がいない.敵がいなければ、ある日オギャーと産まれた子供が一種の奇形児でも、お母さんが大事に育てたので、その子供が増えていった.それが川の中でフカフカ生活して、何千世代も経つうちに、やがて河口から海に出て行って、新しく進化したというふうに、私は考えます.あの時、こんな論文を書いておけばよかったなぁと思って(笑).中立進化というのは、そういう大きな変化をするのに重要だと思いますから、今、それをDNAのレベルで調べています.

A:何十億年前に生物が生まれたことを考えると、人間だって、条件さえ揃えば、新しい種が生まれてきてもいいのではないかと思います.将来、遺伝子を操作して新種の人間をつくる時代がくるとしたら、それも進化ということになるのでしょうか.

大島:我々は、新しい生物をつくる技術は手にしていますけれど、大事なことは、技術を手にしたことというより、むしろ、つくった生物が生きていける環境を用意することができるかどうかだと思います.我々は、大腸菌に糖尿病の薬であるインシュリンをつくらせているわけですが、この大腸菌は完全に人工の生物で、我々にとって有用な生物です.しかし、この大腸菌を自然界に放り出したら、それこそ負の淘汰をされる存在だと思います.勿論、このような実験は許されませんが、薬を製造する現場では、その菌が生きていける環境を提供しているから役に立っているわけです.結局、そういう利用の仕方しかないのではないかという気がしています.ある特定の限られた環境で生かし続けることができるような人工生物は、今後、更に思い切ったものができると思います.

先程、実だけの植物の話をされましたが、それと同じ考えで、羽のない鶏をつくるという話があります.しかし、これも、生命倫理上許されない話です.要するに、最初から裸のチキンが皿の上にでてくるのは、生命観を非常に損なうという考えだと思います.極端な話になると、そのチキンには羽だけではなくて、足もないわけですね.でも、手羽先が好きな方は困りますね(笑).


BACK NEXT


Last modified 2008.05.27 Copyright(c)2005 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.