The Takeda Foundation
カフェ de サイエンス
カフェ・デ・サイエンス Top

カフェ トップ
第18回レポート
Page 1
Page 2
Page 3
Page 4
Page 5
Page 6
第18回リーフレット

第18回 カフェ・デ・サイエンス


講師:  大島泰郎(おおしま・たいろう)
ゲスト講師:  斎藤成也(さいとう・なるや)
日時:  2008年3月29日



異端児のみる生命 「生物進化」 BACK

E:私の専門は環境問題です.今日は、人間の特殊性についての話がありましたが、地球にとって、人間は本当に特殊なわけで、地球に悪いことをしているのは、人間だけです.いずれ、人間は滅亡するだろうと思っていますが、それでも、あとどのくらいの期間、こうした悪いことをするかというところに、現在の環境問題があると思っています.

斎藤:人間だけが地球に悪いことをしているわけではありません.20億年くらい前に、非常に毒性の強いガスがどんどん出始めたわけですね.ストロマトライトのようなものが、地球の環境を激変させたことによって、我々は、仕方なく、酸素を呼吸して生き残っている(笑).

E:長い歴史のなかで、火山の爆発や惑星の衝突という地球の激変もあったと思います.しかし、人間は、非常に短期間で、環境を大きく変化させています.

三井:人間はどれくらいもつかということに関して、どなたか、お答えできる方はありますか.

O:私は、答られます.去年の武田シンポジウムで、国際日本文化研究センターの安田喜憲教授が、2050年から2070年にかけて、現代文明は崩壊すると仰いました.ローマクラブの予言は2020年でしたか.もうそろそろですね.(笑)

E:今日の議論を聞いていると、これからも人類が栄えるかのようで、私には違和感があります.人間は、地球の上で生きさせてもらっているのに、自分たちが主人であるかのような顔をしている.私たちは、地球に対して、自然に対して、もっと謙虚な気持ちをもたないといけないのではないかと思います.

I:炭酸ガスが地球の温暖化を引き起こしているという議論がありますが、大本は、石油や天然ガスを掘るからです.それを放っておいて炭酸ガスを減らすというのは、暴力団の取り締まりでチンピラを捕まえるようなものです.これは、人々の生活に関する問題というよりも、政治と経済の問題だと思います.

N:2050年問題というのがあって、今のままでは、石油がなくなる.水がなくなる.食糧がなくなる.この三つのクリティカルポイントが2050年にくるので、今の文明は維持できなくなるというわけですが、技術屋としては、エネルギー効率さえ上げていけば、相当生き延びられるのではないかと思っています.

三井:人間は特殊だということになりましたけれど、それは脳が非常に発達したということなのでしょうか.そうすると、将来、この脳はもっと発達する可能性はあるんでしょうか.

斎藤:コンピュータという20世紀最大の発明がありましたから、人間の脳細胞が変わらなくても、外部に脳ができたために、これからもっと大変なことが起って、私は「面白いなぁ」と思いますね.それで滅びるかどうかは知りません.

先程、石油を掘ることが悪いという意見がありましたけれど、根本的には文明ですよね.中国へ行ったら、禿げ山ばかりです.日本には1億人もいるのに、山には木がある.文明の違いというのは、かなり大きいので、最近の話ではなくて、1万年以上前からの話だと思っています.

J:今は日本の山や野に緑があると言っていますが、江戸時代の末期には、江戸の周りの山はみんな禿げ山でした.神戸の六甲山も禿げ山でした.米を炊かないと生きて行けないわけですからね.そのために、よく洪水が起ったようです.昭和30年のエネルギー革命で、薪から石油とLPGに変わったことが、今も日本の山が残っている理由です.

2050年に石油がなくなって一番困るのは、移動体、すなわち車や飛行機の燃料が無くなることです.2050年以降の海外旅行は帆船になるかもしれません.飛行機をバイオ燃料で飛ばそうとすると、海外へ行くのに、1千万円とか2千万円もかかる.社長でも、海外出張は一生に一回しか行けない.ただ、電気は原子力で何とか賄えますから、電車は動きます.また、インターネットは恐ろしく発達します.

(会場から、「頭ばかり大きくて、手足がヒョロヒョロになるの?」)

しかし、物の運搬ができなくなりますから、その辺のアスファルトを全部引き剥がして耕地にしないと、食糧も手に入らなくなります.だから、皆さんはほとんど筋肉質の体になってしまうと思います.(笑)

B:太陽電池をゴビ砂漠と同じ面積に敷設すれば、全世界のエネルギー需要が賄えるという話もありますから、エネルギーがそこまで枯渇することはないでしょう(笑)

大島:「もし未来のことを知りたかったら、過去のことを調べる」というのは、一つの手段だと思います.我々の過去には、少なくとも一時期、原人と旧人が地球上に同居していたわけですね.ひょっとしたら、新人もその時代に出現していたかもしれない.このように、人類だけでも2種類か3種類が共存していたのに、いつのまにか新人だけになった.この絶滅の原因は分かっているのですか.

斎藤:分かっていませんね.新人だけが言葉を使っていたという説がありますが、ネアンデルタール人にも新人と同じFOXP2という言語遺伝子があると言われています.実験過程で、現代人のDNAが混ざったかもしれませんが、そういう報告がありますので、新人だけが言葉を使っていたとは言えませんね.単に運が良かっただけかもしれません.生き残った我々のほうが有利だったという人間中心主義は、非中立な考え方ですが、中立的には、どっちもどっちですね.今後どうなるのかということも、この文明が続く限りは、ホモ・サピエンスという我々しか存在し得ないですね.しかし、これは地球上での話です.

「トータル・リコール」というSF映画がありましたが、火星や金星などを地球のように改造して、徐々に人間が住めるようになってくれば、そこに人が行って増えていく.火星と金星は、文明が長く続けば、頻繁に惑星間輸送ができますが、それが途絶えたときには、普通の生物進化と同じように、各惑星ごとに異なるホモ・サピエンスからの子孫種が出てくる.そうすると初めて、人間の分化が起る.私は単純にそう考えています.

三井:何か結論めいたものが出ましたけれど、これだけは言っておきたいという方はいらっしゃいますか.

Q:本日の話題の一つとして予告されていた「多細胞生物の成立」について、お聞きしたいと思います.

大島:実は、多細胞生物がいつから始まったか分かっていないのです.化石の証拠からいうと、10億年程前から始まっていると思いますが、多細胞にならないと、我々の目に見える大きさにはなりませんからね.私も疑問に思っていることがあります.単細胞生物というのは、言葉通り、細胞一個の生物ですが、多細胞生物というのは、不思議なことに、中途半端なサイズのものはいませんね.たとえば、細胞2個だけで、半分ずつ分業して生きている生き物はいませんし、3個の細胞からなる生物も4個の細胞からなる生物もいない.あるいは、進化の途中段階ではいたけれども、非常に不利だったので、早くに消えてしまったのかもしれませんが、斎藤さんは何かご存知ですか.

斎藤:前にも言いましたが、単細胞生物こそがチャンピオンで生き残っていて、我々多細胞生物は、それに負けたから、仕方なく巨大化して、みんなで仲良くくっ付いて細々と生きているわけです.ところが、不思議なことに、バクテリアでもくっ付き合っていますよね.このように、くっ付き合うことが簡単に起るにもかかわらず、多細胞生物の系統は、今知られているのは3つだけです.つまり、動物、植物、そして、カビとキノコの仲間である真菌類です.しかも、この真菌類は、我々動物とかなり近い.こうしてみると、多細胞というのは有利ではありませんね.有利だったら、あちこちにたくさん出てくるはずですから.

Q:人間に分化したとき、人間は負け犬で、食べるものがないから、知恵を発達させたということになるのでしょうか.

斎藤:チンパンジーと人間についても、元々は森に生きていたのだから、自分たちのテリトリーを守って生き残ったほうがチャンプに決まっています.だから、単純に言うと、我々の祖先は負け犬で追い出されたということになります.

カビの仲間に、「やーめた」と言って、また単細胞に戻った系統がたくさんあります.これをイーストと言います.イーストというのは酵母で、パン酵母が有名ですが、実際にはいろいろな酵母がいます.ただ、カビの仲間は、体全体の統一性が弱いのです.植物だって統一性は弱いですね.挿し木をして、また生えてくるのですから、我々から見たら、化け物ですよ(笑).それが普通であって、我々動物のように、非常に統一性がとれているほうが変なのです.もっとも、動物でも、クラゲの発生初期の状態、ポリプは分裂して生きていきますし、プラナリアは、切られても、また生えてきます.だから、多細胞だから素晴らしいということは絶対ないと思います.

三井:核膜のある生物、いわゆる真核生物といわれている単細胞生物は酵母だということで、真核細胞をもっている我々は、酵母から進化してきたと思っていたのですが、酵母が出戻りだというのは、今日、初めて知りました.

斎藤:酵母の研究者が聞くと嫌がるでしょうね.酵母こそ真核生物の代表だと思っていますから.酵母なんて、ならず者ですね(笑).それから、真核生物の大部分は単細胞生物です.

三井:もう4時を過ぎてしまいましたので、この辺で終わりにしようと思います.このギャラリーで、科学者でありながら芸術家である方とのコラボレーションができて、今日は大変嬉しく思いました.斎藤さん、大島さん、ありがとうございます.(拍手)


BACK


Last modified 2008.05.27 Copyright(c)2005 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.