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第21回レポート
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第21回リーフレット

第21回 カフェ・デ・サイエンス


講師:  大島泰郎(おおしま・たいろう)
ゲスト講師:  矢木修身(やぎ・おさみ)
日時:  2008年11月10日



異端児のみる生命 「微生物と共に生きる」 BACK NEXT

三井:微生物を撒くというより、お話の種をいっぱい撒いて下さいましたので(笑)、これからお話が弾むことと思います.では、続いて、大島さんにお願いします.

大島:私が今おります所は民間会社の研究所ですが、親会社の専門が廃棄物の処理ですので、それに関する微生物の研究をしています.一つは、水の浄化です.食品関係の排水なので、動物の血液とか動植物由来の廃棄物を含んだ水を微生物の力で浄化します.もう一つは、ハムなどを作っている工場から出てくる動物の死骸を処理することで、食品にならない部分を微生物で分解します.大学でもそういうことをやってきました.

実は、土曜日の夜まで、カナダから来られた農学の先生を案内して、廃棄物を処理している会社の見学に、鹿児島へ行っていました.日本で一番畜産の盛んな都道府県は北海道だと思っておられる方が多いかもしれませんが、むしろ、生産量は南九州のほうが多いのです.しかも、北海道と違って、牧場と市民の住んでいる所が接近しているものですから、北海道のように放っておくわけにはいかず、廃棄物の処理がより重要になっています.

見学に行ったのは鯨の骨を処理した会社です.鯨は試験捕鯨が認められていますが、その肉も少し売られていて、最後に骨が残ります.この骨を処理する方法を、私がいる研究所の親会社が開発しました.先ず鯨の骨を置き、その上に堆肥を積み上げると、他の廃棄物が堆肥化するのと同様に、鯨の骨も全部溶けてしまいます.骨を作っているのはカルシウムとタンパク質ですが、微生物はタンパク質の部分を食べてしまいますし、カルシウムは細かな鉱物となるので、骨は全部溶けて無くなったように見えます.

カナダの先生が何故その堆肥場を見たがったのかというと、カナダでは、1年間に1万頭だか10万頭だかの牛が牧場で死んでいるそうですが、牧場で死んだ牛は、狂牛病でなくても全部廃棄することになっていて、現在はそれを焼却しているから、ものすごくお金がかかる.環境にももちろん良くない.そこで、そうした牛をバクテリアに食べさせられないかというのが、その先生のアイデアです.もう少し詳しく言うと、死んだ牛を、先ず昆虫に食べさせる.ゴキブリのような昆虫を想像してもらえばよいのですが、あれをアブラムシと呼ぶように、昆虫は油分が多いので、牛を食べた昆虫から油を絞って自動車を走らせようというわけです(笑).しかし、昆虫は最後の最後まで食べませんから、その後は微生物にやらせようということでした.

腸内細菌もそうですが、堆肥中の微生物も、大部分は実験室の中で培養できませんから、研究は非常に難しいのです.難しい理由の一つは、微生物が共同生活をしているために、単独で育てられないからです.微生物が共同作業をしているときは、矢木先生が仰ったように会話をしていて、その会話は物質でやっています.微生物が何かを作って放出することで他の微生物がそれを感知して、向こうが何を言っているかを理解するというやり方で会話しているわけです.そこまで分かったので、我々の夢は、その会話の文法や単語を習って、騙してやろうと(笑).「堆肥の上に、今旨いものが来たから、皆一斉に食え!」というような偽の情報を流してやる.そうすれば、今だと数ヶ月もかかる堆肥が、一週間でできるかもしれません.

この会では毎回、三井さんが本を紹介しているのですが、私もそれに習って、今日は本を持ってきました.こういう会をやる意義は、矢木先生と同じように、微生物というものを皆さんに知って頂きたいからです.運の良いことに、私の書いたものが中学校の教科書に採用されて、少しは役に立っているのではないかと思ったのですが、そんな教科書より遥かに威力のある本を見つけました.『少年マガジン』という雑誌で、日本だけで100万部出ているのだそうです.

最近の漫画にはよく微生物がでてくるそうです.この漫画の中には、古細菌のアーキア(archaea)というのが出てきます.アーキアは、ちゃんとした学術用語です.他にも、『イブニング』という漫画雑誌に、「もやしもん」という漫画があります.何とそこには、バクテリアが学名で出てきます.その中の一つで、Thermus thermophilusというのは、昔私が採った菌なのです.これほど光栄のことはありません(笑).

今は研究を評価するのに、ある研究論文が、それ以降に書かれた論文で何回引用されたかを示す数が引き合いに出されます.日本生化学会が出している英文の学術論文の雑誌は、日本の学会が出している英文誌の中でも発行部数が多いことを誇っていますが、たったの「2,500部」です.この漫画は「100万部」です(笑).そのような本に私の発見した菌が載ったということは光栄の至りです(笑).

それに、この漫画本は分厚いですが、学術雑誌はどんどん薄くなって、机の上に立つ雑誌は非常に少ないですね(笑).ただ残念なことは、漫画の中でバクテリアを採り上げてくれたのはいいのですが、やはり、記述が少しずつおかしい(笑).そこで、微生物の正しい姿を少しでも知って頂くことが大事ではないかと思って、今日のような企画には力を入れてやっています.(拍手)

三井:では、ここで10分間のお休みをとります.

(休憩)


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Last modified 2009.01.06 Copyright(c)2005 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.