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第21回レポート
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第21回リーフレット

第21回 カフェ・デ・サイエンス


講師:  大島泰郎(おおしま・たいろう)
ゲスト講師:  矢木修身(やぎ・おさみ)
日時:  2008年11月10日



異端児のみる生命 「微生物と共に生きる」 BACK

三井:大勢いるときは、会話をするのではありませんか.

大島:中には付和雷同するものもいると思います.

矢木:先程言いましたように、微生物はセンサーのタンパク質を持っていますが、それの欠乏したものがいたら、同じようには泳げませんね.微生物も遺伝子の欠損株がよく出てきます.現在は、微生物の設計図は分かっているのですが、38億年という進化の歴史の中で組み込まれた遺伝子の制御の仕組みについては、まだよく分かっていません.

今、30億塩基が並んでいるヒトのDNAは10日くらいで解読できるそうです.微生物もこれ迄は1匹ずつしか解読できなかったのですが、仮に10匹いても、同時に解析ができるようになりました.10匹のDNAを短く切って配列を読み取り、それらをコンピュータで、1匹ごとの配列に繋げてしまいます.微生物のDNAは約300万塩基が繋がっていますが、100万円か200万円程度で解読してくれます.人間の場合も、お金さえ出せば、自分の遺伝子を調べられる時代になりましたが、分かってしまったら味気ないですよね(笑).

E:私は、実際に水虫に罹って、自分で治してしまいました.白癬菌は好気的な条件下で生きる菌だから空気を遮断すれば死ぬということで、白ペンキを塗ると三日で治るという話をペンキ屋さんから聞きました(笑).しかし、ペンキは剥げやすいので隙間ができると何度も塗りなおさなけれはいけません.そこで、白癬菌は角化した細胞しか食べないのだから、そういう細胞を取り除けばよいと考えて、次亜塩素酸ソーダを薄めて、その中に足を10分程浸けておいたところ、ベロッと皮が剥けて(笑)、いっぺんに治ってしまいました.

F:最近、細胞には意思があるという本(団まりな著、『細胞の意思』)を読みました.微生物は単細胞ですが、その意思については、どのように思われますか(笑).

大島:堆肥や土壌の中では、いろいろな種類の細菌が集まって塊で生きています.同じ種類の菌だけが集まっている場合もありますが、このような塊をバイオフィルムと呼んでいます.つまり、私たちが作った都市はいろいろな商売の人が集まった共同体ですが、それと良く似た生活をしているのです.そういうことをする行動に意思があると解釈するかどうかの問題だと思います.

F:その本には、細胞に意思があると考えることは、生物学の未来にとって非常に意味があるというふうに書かれていますが、どうなのでしょうか.

大島:それが生物学の発展に必要かどうかは分かりませんが、別種の生物の間ですら、意思があるかのように情報を共有しているという研究はとても大事だと思いますし、そういう解釈は、人に説明するときに、とても分かりやすいということはあります.

矢木:土の中には酸素が好きな微生物がたくさんいるにもかかわらず、私たちは地面をコンクリートで覆い固めて酸素を断っています.微生物と友達になりたいと思っている私としては、その中で「苦しい、苦しい!」と叫んでいる菌がいるような気がしますし(笑)、1匹1匹に個性があると思っています.

大島:漫画の「もやしもん」には、微生物を目で見ることができて、微生物の会話も聞けるという、特異な才能をもった人が出てきます.その漫画によれば、その人はとても不幸で、この空気中にたくさんいる微生物が邪魔で仕様がない.何よりも、微生物の会話がうるさくて仕様がない(笑).実際には、微生物が人間と同じように音で会話するというのは間違いで、微生物は物質で会話しているので、音は使わないと考えられています.

G:今、石油資源の枯渇が問題になっています.石油は古代の生き物を微生物が分解したものだと思いますが、石油が大量に採れる地域というのは、微生物が大量に発生しやすい環境だったのでしょうか.

B:古生代のパンゲア大陸に今の地中海に相当する海域があって、そこに川が流れ込んでプランクトンが溜まり、更に熱変化を受けて、今の石油になったと聞きました.その海の真中が今の中東で、アメリカ大陸も面していましたし、出口辺りが日本近海を含むアジアの採油地帯になっているそうです.場所によってプランクトンの種類が違うので、アジアの石油は環状化合物の含量が多く、アメリカ大陸では直鎖状化合物が多く含まれているということでした.私は日本近海も採油地としてかなりなものだと思っているのですが、日本が石油を掘り当てたら、産業も盛んで資源も豊富ということになって、黒字の減らしようがないので、掘ってはいけないのです(笑).

E:世界各地の石油を探している男から聞いた話ですが、石油が出るところは、岩石が「へ」の字に重なっていて、石油が気化してしまうのを塞ぐ蓋のような地形になっているそうです.彼は地図の上にそういう場所の印をつけていましたけども、日本近海のことは聞きませんでした.

H:私は食の安全に関わっていますが、遺伝子組換え食品の安全性については、あくまでも現在の科学で安全だと言っているに過ぎないというふうに考えています.将来、それが安全ではなくなるかもしれないというような問題は、農薬のときにもあったと思います.

矢木:仰るとおりですが、将来を予測するのは非常に難しいことですね.確かに議論はいろいろあります.アメリカでは、遺伝子組換えで作られた成長ホルモンを2週間に1回、牛に注射しています.このホルモンを与えると子供を産まなくても常にミルクが出る状態になるわけです.しかしミルクの中にホルモンが入ってしまいますと、そのミルクを飲んだ人の性成長が早くなったり、寿命が短くなるのではないかと問題になっています.

また、私たちは何気なく多くの抗生物質を飲んでいます.それが環境中に出て微生物に入ると、薬に耐性のある微生物がいっぱいできますが、その中から強毒な病原菌が出てくるという可能性もあります.食料にしても、世界の人口が100億になると、食料不足で死ぬ人がいっぱい出てきます.こういったときに、組換え技術は必要いなるかもしれません.

しかし、いくら科学で安全性を証明しても、安心できないというところに問題があるのではないかと思います.私は遺伝子組換えをしたものが良いと言っているわけではなくて、科学的な技術がそこまでいっているということです.それが良いか悪いかについては、いろいろな考え方があると思います.

最後に一言.現在、私たちは数万種の化学物質を使っていますが、微生物はその中の有害物質を分解してくれています.そのような微生物にはそれぞれ個性があって、人間と同じような生き様があるのではないかという気がしています.もちろん、中には悪いのもいます.人間だって悪いのがいますからね(笑).だから、微生物だからと馬鹿にしないで、身の回りにいるたくさんの仲間だと思って、可愛がってやってもらえたらと思います.(拍手)

三井:これで終わりにしたいと思います.どうも有り難うございました.(拍手)


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Last modified 2009.01.06 Copyright(c)2005 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.