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第21回レポート
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第21回リーフレット

第21回 カフェ・デ・サイエンス


講師:  大島泰郎(おおしま・たいろう)
ゲスト講師:  矢木修身(やぎ・おさみ)
日時:  2008年11月10日



異端児のみる生命 「微生物と共に生きる」 BACK NEXT

矢木:重金属の処理は、微生物の一番弱いところです.水銀については、私たちも、今、組換え菌を使ってやっています.メチル水銀というのは水俣病の原因になったものですが、微生物によって無機水銀に変えることができます.水溶液1リットル中に水銀イオンが約1ミリグラム溶けていると、普通の微生物はほとんど死んでしまいます.ところが、水銀に耐性のある微生物は、40ミリグラムの水銀イオンが溶けていても、それを還元して金属水銀に変えることができます.金属水銀にしてしまえば、飛んでいきますし、そのガスを集めれば、水銀の再利用ができます.この方法はドイツでも排水処理に使われています.

水銀イオンを還元する遺伝子を入れた植物もあります.カドミウム汚染米のように、重金属類は植物に蓄積します.農水省では、今、カドミウムの取り込みに関与しているコメの遺伝子を入れた組換え植物を使ってカドミウムを浄化しようと一所懸命になっています.

それから、六価クロムというのがあります.鼻中隔穿孔(左右鼻腔隔壁に孔が生じる)が多発したことで知られる深川辺りの土地には、化学会社などがありましたから、六価クロムが埋まっています.六価クロムは猛毒ですが、還元して三価クロムにすれば毒性が低くなります.中国では、六価クロムを三価クロムに還元する微生物を用いた排水処理が実用化されています.

ヒ素も日本全国で問題になっていますし、鉛は北海道での汚染がひどいですね.狩猟で使う鉄砲の玉が鉛ですので、酸性雨で溶けて鉛汚染になっています.鳥打ちはプラスチックの玉を打たないといけないと思いますね(笑).植物の中には鉛を吸うのがあります.

重金属については、微生物が利用できるのは水銀とクロムです.しかし分解してしまうわけではありませんから、それを資源として再利用するということだろうと思います.

B:重金属類は植物のほうが取り込みやすいのではないかと思います.金沢城の瓦には鉛が含まれているそうですが、金沢城の石垣の下にはヘビノネゴザというシダ類が繁茂していて、鉛を濃縮しているという話を聞きました.金鉱を探す山師もヘビノネゴザなどを目印にするそうです.

C:「微生物と共に生きる」ということで、すぐに頭に浮かんだのは水虫です(笑).一般に、寄生する微生物というのは、宿主が死ぬのは自分にとっても損ですから、宿主と折り合いをつけて長く一緒に暮らしていくのが正しい戦略なのだろうと思います.しかし、宿主の死は避けられないわけですね.そのときは微生物にとって辛い時期になりますが、新しい宿主を探せば、また繁栄できるということで良しとしているのでしょうか(笑).

大島:微生物に限らず、生物は自分と同族のものを永続させたいという意思をもっているわけではなくて、そういう仕組みを進化の中で獲得してきたのです.水虫のような感染菌も、少しでも多くの人に感染しておけば、どれかがまた別の人に飛び移るチャンスがあるだろうという戦術をとっているのだと思います.

実際に、今思いついた例が二つあります.一つはインフルエンザウイルスです.ヒトにはかなり重い感染症の原因になりますが、もともとは水鳥のウイルスで、元の宿主とは非常に仲が良いわけです.それがたまたま違う種類の動物に感染したときには重い病気を引き起こします.つまり、互いに仲良く協調するまでには進化的な時間が必要で、ヒトとインフルエンザウイルスはまだそういう歴史を経ていないからだと解釈されています.

もう一つは微生物ではありませんが、海底の熱水噴出孔のところで、地底の熱に依存して生きている一群の生物がいます.その海底から出る熱水は重金属などを高密度に含んでいて、いきなり4℃という冷たい海水の中に出ると、そこに重金属が沈着してチムニーと呼ばれる煙突のようなものができます.地下のマグマの活動には数百年の周期があって、熱水の出るのが勝手に止まってしまうことがありますから、海底には、かって熱水が出ていたと思われるチムニーの周りに貝の死骸がたくさんあります.つまり、生息環境が変わってしまったために絶滅したものがあるのです.ところが、また新たに熱水が噴出してくると、その付近に前にいたのと同じ種類の貝や目の退化したエビなどが集まってきます.これらの生物が、海底のかなりの距離を、餌も無しに、どのようにしてそこへ移ってきたかは、誰も知りませんが、こうした西部劇のゴーストタウンみたいなものがいくつも見つかっています.

三井:その場所で、下等なものから進化してできたというのは考えられないのですか.

大島:200年とか300年の間に、そこで進化が起こっているとはとても考えられませんね.

D:金や銀、あるいはプラチナのような貴金属類を溜め込む細菌はいないのでしょうか.いれば一儲けできそうだなと思ったのですが(笑).

大島:それはいると思います.細菌は同種の金属を溜める傾向がありますので、カドミウムを溜める生き物は、化学的な性質が似ているバナジウムも溜める傾向があります.ただ、環境中の重金属は、我々にとっては毒なのですが、工業的に見れば、それを集めて利用するには、量が非常に少ないので、 鉱石を買うことに比べると、水銀と言えども太刀打ちできないのではないかと思います.環境を守るための出費を認めてもらえない限りは、環境中の水銀を集めて商売にならないでしょう.

矢木:それはなりませんね(笑).実は、金を食べる藻類を研究されている方がいました.確かに溜まるのですが、金が水に溶けていないと取り込まれませんので、金をいかに溶かすかという問題があって、うまくいっていません.一時は「これはすごい!」ということで話題になりましたけれど(笑).

大島:生き物が金を溜めるのは、何も不思議なことをしているわけではなくて、金と結合するタンパク質を作るわけです.海にはかなりの金が溶けていますし、世界の海は繋がっています.ですから、儲けたいと思ったら、生き物をそのまま使うより、金と結合するタンパク質を精製し、それを筒の中に入れて、東京湾の片隅にでも置いておけば、四六時中そこに海水が流れ込みますから、死ぬ頃までには儲かるのではないかと思います(笑).

矢木:微生物の中には毛が生えているのがいます.大腸菌にも8本くらいの鞭毛がありますが、それを1本にまとめてスクリューのように回転して泳ぎます.しかも、大腸菌は多くのセンサーを持っていて、好きなものがある方へは泳いでいき、嫌いなものからは逃げるわけです.好きなものがあるときはスクリューを左に回し、嫌なものがあるときは逆に回すという具合です.つまり、泳いだところの物質の濃度を記憶していて、移動した瞬間に濃度が薄くなると、これは間違った方向だということで逆回転する.このような走化性(化学物質の濃度差に刺激されて移動する性質)に関するタンパク質が大腸菌には1,000個もあるということが分かってきました.

そうすると、微生物で金を集めるには、金を感知する遺伝子を入れた菌を作ればいいわけです.「ジュラシック・パーク」という小説では、恐竜を刺した蚊の化石から恐竜のDNAを取り出し、ワニのお腹を借りて恐竜を作り出すという話になっています.今、マンモスのDNAが見つかって解読されていますが、象のお腹を借りれば、マンモスもできるではないかという気がします.金の場合は採算が取れないでしょうね(笑).

大島:微生物を研究している私は、常々、微生物のことを「偉いなぁ!」と思っているのですが、皆さんが参加申込みの際に書いた質問等を拝見すると、「共に生きる」というより、 「共に生きてあげよう」というニュアンスの感じられるものがあります.大腸菌のように小さくて程度の低い微生物でも、どこにどのような物質があるかを知っていたり、その情報に基づいて行動するために鞭毛を揃えて回転するとか、脳なんかなくても、そうした情報処理の能力があるわけで、微生物と我々は大して違わないと思います(笑).

大腸菌だけでなく他の菌でも、美味しい餌になる糖分のようなものがあれば、その方向に泳ぐというのは、多くの実験で証明されていますが、実は、その性質を1匹1匹調べた先生がいます.実験そのものは難しいのですが、中には、逆に行くものがいるのだそうです.1匹だけの実験を何回も繰り返せば、統計的には、美味しい餌の方へ行き、嫌いな光や物質や刺激から逃げるということになるのですが、勘が悪いのか、天の邪鬼なのか、他のものとは別の方向へ行くものがいるというのも人間と同じです.(笑)


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Last modified 2009.01.06 Copyright(c)2005 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.