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第21回レポート
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第21回リーフレット

第21回 カフェ・デ・サイエンス


講師:  大島泰郎(おおしま・たいろう)
ゲスト講師:  矢木修身(やぎ・おさみ)
日時:  2008年11月10日



異端児のみる生命 「微生物と共に生きる」 BACK NEXT

三井:再開します.お二方とも「何でもござれ」と仰っていますので、どんどん質問なさって下さい.私がお聞きしたいのは、「共に生きたくない」と思うのに、「共に生きる」というお話に出てきた水虫ですが、水虫の研究というのは実験室でどういうふうにするのですか.

矢木:水虫は白癬菌ですので、誰でも靴を履いたまま風呂に入らないで、数日間も経てば水虫が湧いてきます(笑).靴下の臭い匂いはプロピオン酸などの有機酸ですが、そこは水虫にとって非常に良い環境なのです.白癬菌は試験管の中で簡単に培養できます.カビの仲間で、培養すると、「こんなきれいなものを殺していいのだろうか」と思うような白くてきれいな菌糸を出します(笑).

水虫の薬を開発するために、日本中の水虫の薬を買いました.それを薄めて、どれが死ぬかを調べていましたが、水虫も耐性ができます.それが増えると、また新たな薬を開発しなければいけません.

微生物は会話をしていると言われています.例えば、日和見菌と呼ばれるシュードモナス・エルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa)は、1匹ではあまり活躍できませんが、仲間が集まると一気に悪さをします.切り傷が膿むのはエルギノーザのせいで、膿はエルギノーザの死骸です.これらの細菌は免疫力の強い人とは戦うことができませんから、仲間をたくさん集めようとして、オートインデューサーと呼ばれる物質を出します.寄ってくる仲間もその物質を出しています.集まると、自分で出さなければいけない量が減りますから、自分の体の中にある濃度が高くなります.その濃度が高くなることによって、仲間がたくさん集まったことを知ると同時に、毒を産生する遺伝子が一気に発現するわけです.

水虫なども仲間を呼び集めて一気に増えているのではないかと思います.胃の中に棲む胃がんの原因菌として知られているピロリ菌にしても、胃酸という非常に低いpHの中で生きられるはずはないのですが、1匹が棲み着くと次から次へと集まって生きるのではないかと考えられます.

下駄を履けば、先ず水虫にはなりません(笑).空気に触れれば乾燥して、水虫が棲み難いからです.特に靴がいけません.水虫は体力が弱ると出てきますが、決して共生はしたくないですよね(笑).

三井:人にとって良い菌か悪い菌かというのは、あまり簡単に決めつけられないということですね.水虫菌と似た例が他にもありますか.

大島:ニキビ菌がそうですね.一般に悪いほうの菌に分類されると思いますが、実際にはもっと重篤な皮膚病の予防に役立つと信じられています.

三井:これは集英社新書の『人体常在菌のはなし』(青木皐 著)という本です.これを読むと、私たちは皮膚や腸の中など、体中にいっぱい菌を持っていて、それを大事にしなければいけないということを、ひたすら書いていらっしゃいます.ニキビ菌についても書かれていますし、黄色ぶどう球菌についても、病原性のない良い菌のほうはくっ着けておかないといけないのだそうです.お風呂に入ってゴシゴシ洗ってはいけないとか、腸内にいる細菌も、消化を助けたり、他にもいろいろと良いことをしていて、悪い奴ばかりではないので、バランスをとっておくことが大事だと書いています.

A:私は、ずっと水処理に携わってきました.処理場では活性汚泥を使っていますが、この100年間ずっと同じ種類の菌を使い続けています.かなり大きなタンクが必要で、滞留時間も長いので、遺伝子組換えなどで効率の良い菌ができれば、公共事業も随分安くなるのではないかと思います.その辺りについては、どのようにお考えでしょうか.

大島:技術的には二通りあると思います.一つは、遺伝子組換え技術のようなものを使って新しい菌を人の手で作るということです.もう一つは、微生物同士の会話を利用して、その菌を活性化させる特定の物質を与えることです.それから、活性汚泥も堆肥と同じで、そこには大変な数の菌が入っています.同じものを長く使っていても、処理場に入ってくる材料の種類が変わったり、一年の間でも気温が変わったりすると、その度に、どのような種類の菌がどの辺にいるかという微生物の構成は変わってしまいます.だから、活性汚泥の中は、非常にダイナミックで、全体として生きているようなものだと思います.

矢木:活性汚泥方式では、約6時間から8時間で、有機物が95パーセント以上分解されますが、非常に広い面積が必要です.そこで、短時間で効率よく処理する方法の一つとして、菌の濃度を高くする方法があります.窒素やリンが多いと藻類がはびこりますが、これらを除去するために、アンモニアを硝酸に変える菌などをゲルで高密度に固めた固定化菌体と呼ばれるものが利用されています.

それから、組換え技術で優秀な菌をつくることがいろいろとなされています.微生物というのは、自分が生きるために乾燥重量の0.5パーセントのリンが必要ですが、組換え菌の中には、その10倍のリンを取り込むものがいます.そういうリンを取り込んだ微生物を集めて、またリン鉱石として再生すればいいわけです.これは大竹久夫先生(大阪大学大学院工学研究科生命先端工学専攻・教授)が開発したのですが、リンを取り込むための遺伝子を入れています.このような技術を活用するには、社会的受容を得ることが必要ですね.がんに効く組換え技術であれば認めてもらえそうですが・・・.

組換え作物に対し、多くの国で作られているのに、日本ではなぜ嫌がられるのか.科学に対して正しい見方が必要ですね.大腸菌にしても、O157みたいに毒のものもいますが、大腸菌のほとんどは有害ではありません.フグも毒を自ら作らないことが分かりましたけれど、歌舞伎俳優の八代目坂東三津五郎さんがフグを食べて亡くなって以来、フグを調理する許可が必要になりました.フグはプランクトンを食べるから体の中に毒が溜まるわけで、人工の餌をやれば毒は全然溜まりません.だから、何が悪いのかという事実を理解しながら、やっていくべきだと思います.


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Last modified 2009.01.06 Copyright(c)2005 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.