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第21回レポート
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第21回リーフレット

第21回 カフェ・デ・サイエンス


講師:  大島泰郎(おおしま・たいろう)
ゲスト講師:  矢木修身(やぎ・おさみ)
日時:  2008年11月10日



異端児のみる生命 「微生物と共に生きる」 BACK NEXT

B:20年程前に、嫌気性の菌を使って水処理をしようという国のプロジェクトがありました.アクア・ルネッサンスと呼ばれていましたが、好気性の菌を使う処理に比べると、10分の1くらいのスペースで、時間も短くできるという触れ込みでした.結局、菌体が沈まないとか、分離が難しいということで、膜分離と組み合わせようということになったと記憶していますが、その後どうなったのでしょうか.

大島:嫌気性の菌というのは酸素の無いところで生きる菌ですが、そういう菌と、酸素のあるところで働く菌は、菌としての性質がいろいろ違います.酸素があるところで働く菌は、ほとんどの有機物を完全に分解して、水と二酸化炭素に変えてしまいますので、早くリサイクルさせることができます.それに対して、酸素のないところで働く菌は、その代表がお酒を作る菌で糖分からアルコールを作りますが、そうした二酸化炭素にまで分解されないものを作り出してくれますので、それを利用することができます.一番期待が大きいのは、石油に代わるエネルギー源として、ゴミからメタンを作らせようというものです.

田舎で堆肥を作った経験のある人はご存知だと思いますが、堆肥の内部は70℃以上の高温になりますので、 雪が降っても、その周りは全部溶けてしまいますね.空気を送り込んで分解していると、そういうふうに熱として放出して、それでお終いになってしまいます.

嫌気発酵は今仰ったような問題の他に、プロピオン酸などの有機物を出して悪臭を発する菌が多いので深刻な問題になります.他にも、残渣を全部分解できないので、もう一度微生物で処理しなければいけないという問題もあります.廃棄物の性質とか、その場所の特性などにも依りますから、一概にどちらが良いとは言えません.

先程、カナダ人に九州の堆肥工場を案内した話をしましたが、訪れた時は、シーズンの焼酎カスが持ち込まれていました.鹿児島には芋焼酎の会社がたくさんありますが、会社ごとに処理の方法が違います.焼酎カスはものすごく臭いのですが、それを好気発酵で分解してしまえば、臭いの問題はあまり起こらずに消えてしまいます.しかし、それを嫌気発酵すると、メタンガスなどの役に立つものはとれるのですが、悪臭の問題を伴いますし、2段目の処理も必要になります.だから、どちらかに決めるのは非常に難しいと思います.

矢木:嫌気発酵には酸素が要りませんので、実はあまりお金がかかりません.活性汚泥で処理するときは、空気を流さなければいけないので電気代がかかるわけです.下水処理場の電気代は、費用の3割から4割を占めていると思います.アクア・ルネッサンスは、そういうことでも注目を浴びていたわけですが、そのときの技術が、今になって生きてきたと思います.

有機物を嫌気性の微生物で処理するとメタンガスが出てきます.それはバイオガスだということで、私たちも今その実験をやっています.通常、好気発酵では8時間で終わるところを、嫌気発酵では10日から2週間くらいかかります.ところが、今や、2日程度で終わる技術ができています.つまり、菌の濃度を非常に高くすることによって、従来の好気発酵と変わらない程度にまで短縮できつつあります.

今、アパレル会社と一緒に、廃棄された布の処理をやっています.コンビニとかデパートでは皆制服を着ていますが、最近の方は洗濯したものを嫌がって、一度着たものは着てくれないので、全部新着なのだそうです.そのために、その会社だけで、毎年77万着の服が廃棄されて、ほとんどが焼却されています.化繊だけなら再利用しやすいそうですが、綿やウールが混ざっていると難しいとのことでした.そこで、嫌気性微生物の塊、消化汚泥と呼んでいますが、それを使ってみました.その中に服を浸けると、ウールもコットンも二週間でボロボロになって、メタンガスを発生して、ポリマーだけが残ります.日本中で廃棄される布のうち、100万トンくらいがウールとコットンです.これをただ燃やすのは「もったいない」ということで、今プロジェクトの申請をしているところです.しかし、それらの微生物では色物が分解できません.調べてみると、赤とか黒とかの色はクロムが出しているのだそうで、クロムは微生物の生育に良くないのです.現在、クロムの入った服も分解できるような菌を探しているところです.

現在、日本の土壌を全てきれいにするのに13兆円かかると言われていますが、主に物理化学的な方法で処理されています.そこで、バイオでやれるものはバイオでやろうということで、地中に残っている有害なトリクロロエチレンなどを分解しようとしています.

トリクロロエチレンは、世界中の電子部品産業で、チップなどの油分をとるために使われています.また、少し前まで、日本中のクリーニング店は、ドライクリーニングにテトラクロロエチレンを使っていました.テトラクロロエチレンに浸けてカラカラと回せば汚れが落ちて、少し干しておけば、テトラクロロエチレンは全て飛んでしまいます.こんなに便利な溶剤はないということで、使用済みのテトラクロロエチレンが毎年4万トンも出ていました.それをきちんと処理すればよいのですが、放っておかれたり、山の中に捨てられたりして、こららの汚染箇所が日本中で100万カ所あるわけです.現在は、発がん性があるということで使われなくなりつつありますが、ドライクリーニングをやっていた土地は汚染の恐れがあります.今の法律では、土地の所有者が自分で土地をきれいにしなければいけなくなりましたね.

私たちはトリクロロエチレンを分解する細菌を研究しています.アメリカでも土中に糖蜜を入れたりアルコールを入れたりする研究が進んでいます.これは嫌気性分解ですので、問題はやはり臭いです.そこで、上部をコンクリートで覆ったりしています.日本でも某会社でやったのですが、地面の中にエタノールを入れると効果があります.現場では、メタンガスも出ますが、周りにはメタンを食べる菌もたくさんいますから、すぐに食べられてしまいます.このように、今、嫌気分解が見直されて、実用化されています.

三井:微生物で有機物を分解することはできるでしょうが、金属はどうなのでしょうか.

大島:一部の微生物は、自分で自分の身を守るために、水に溶けている金属イオンを金属にしてしまいます.水に溶けていなければ微生物にとって毒ではありませんが、金属そのものは残っているわけですから、いつかはまた溶け出してくる可能性がありますね.


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Last modified 2009.01.06 Copyright(c)2005 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.