The Takeda Foundation
カフェ de サイエンス
カフェ・デ・サイエンス Top

カフェ トップ
第26回レポート
Page 1
Page 2
Page 3
Page 4
Page 5
Page 6
Page 7
第26回リーフレット

第26回 カフェ・デ・サイエンス


講師:  大島泰郎(おおしま・たいろう)
ゲスト講師:  河合剛太(かわい・ごうた)
日時:  2009年10月26日



異端児のみる生命「RNA」 BACK NEXT

三井: 今日のテーマは、「RNA:生命の主役になれなかった分子」というちょっと謎めいたユニークなテーマになっていますが、このテーマは、今日のゲスト講師として来てくださった河合さんのご提案で、河合さんはRNA研究の最先端を行っていらっしゃいます.

河合: よろしくお願いします.(拍手)

三井: そして、いつも来ていただいている大島さんです.

大島: よろしくお願いします.(拍手)

三井: 大島さんは、RNAを直接触ってはいらっしゃらないと思いますけれど、RNA研究者が周りに多いという環境で・・・

大島: 私も触ったことはありますよ.(笑)

三井: 皆さんは、DNAやタンパク質という言葉はよく耳にされていると思いますが、RNAには、あまり馴染みがないのではないかと心配しています.

今回、皆さん方から事前に寄せられた質問を拝見しますと、RNA研究の最前線の話を聞きたいというのが最も多くありました.それに関して、RNA研究の進め方とか、創薬や診断に関係する話を聞きたいというのもあります.次に多かったのは、生命の起原に関するもので、RNAはどうやってできてきたのかとか、RNAワールド仮説についてのご質問もあります.それから、今年に入って騒がれているインフルエンザウイルスについての質問も多くありました.

では、これから、お二人に15分くらいずつ、簡単に呼び水的なお話をしていただきます.最初は、河合さんにお願いします.

河合: 今回は若輩者が出てきましたが、僕もいろいろ勉強しようと思って来ました.

皆さんの中で、50歳くらいより若い方は、生物学を学んでいれば、セントラルドグマというものがあって、遺伝情報をもつDNAからRNAができ、RNAからタンパク質ができて、そのタンパク質が働き、RNAはDNAからの情報をタンパク質に受け渡す働きをしているというふうに習っているのではないかと思います.ところが、最近は、分子生物学で最も大事だと言われているセントラルドグマの流れが、何か少し違うのではないかということになっています.そこに大きく関係しているのがRNAです.RNAは、少なくとも生命科学の分野で、今、非常に注目されている分子です.

長い間、体の中で働いているのはタンパク質だということになっていました.タンパク質が働いて、髪の毛や皮膚、目や爪ができます.脳で考えることもタンパク質の働きです.ところが、RNAもタンパク質と同じような働きをするという事実が次々と見つかってきました.そのうちに、RNAが生命の起原だというような話まで出てきました.

RNAはDNAと、"R"と"D"という文字が1つ違うだけで、原子レベルでは、酸素原子が1個違うだけですから、非常によく似ていて、DNAと同じように、遺伝情報を司ることができる分子でもあります.ところが、DNAと大きく違うのは、RNAはタンパク質のように、体の中で食べたものを消化したりする働きもできるし、いろいろな生体内反応をコントロールすることもできるということです.つまり、RNAはDNAの役割もできるし、タンパク質の役割もできるということが分かってくると、最初の生命はRNAだと考えれば手っ取り早いということになりました.最初にRNAで始まり、その後、タンパク質に働くところを任せ、遺伝情報のほうは長持ちするDNAを使う.このように生物は進化してきて、今、RNAは陰に隠れるようにして残っているというふうに考えられたわけです.

ところが、話はここで終わったわけではありません.最近になって、RNAは隠れているどころか、今でも立派に現役で、非常に大事な多くの仕事をバリバリやっているのだということを、多くの人が言い出しました.ここ5年くらいのことだと思います.ヒトのゲノムには、タンパク質の遺伝子が2万個くらいありますが、RNAの遺伝子は、それよりもずっと多いのではないかと言われています.

そういうわけで、今、RNAは非常に脚光を浴びています.創薬への応用とか生命現象の解明に期待されていますし、人間がなぜ人間なのかが分かるかもしれないといった夢のようなことまで語られています.しかし、現実はなかなか厳しくて、研究するのは大変ですし、実際のところ、どの程度重要なのかは、まだまだ分かりません.これから一所懸命に研究を続けていけば、ここにいる人が皆居なくなった頃には(笑)、何かが分かるのかもしれません.

今から50年くらい前に、ワトソンとクリックが、DNAの二重らせん構造を見つけたことによって、いろいろなことが分かるようになりました.もしかすると、それに近いくらいの新しいモノの考え方が、今、できつつあるのかもしれないと思っています.今日は、そんな状況が何となくでも伝わるといいなと思っています.

大島: 私は、RNAそのものの研究をやったことはありませんが、RNAを研究の手段として使ってきました.最初は、RNAを分解する酵素であるタンパク質の機能を調べるためにRNAを利用しました.RNAは、リボヌクレオチドと呼ばれるユニットが連続して繋がっているもので、小さいもので80個程度、大きいものでは数百?数千個並んでいて、その構造が化学的に変わりやすい分子です.その性質を利用していましたので、なかなか一筋縄ではいかないRNAの癖もよく知っています.

それから、生命の起原に関心がありますので、RNAワールド仮説にも興味があります.これは、RNAだけでできた細胞から地球上の生命が始まったという説で、今でも非常に有力です.しかし、その説には直接的な証拠がありませんし、欠点もあります.

最大の欠点は、RNAが程々に不安定だということです.RNAが研究の材料として良いと言ったのは、程々に不安定で、程々にバリエーションのある化合物が作りやすいという点なのですが、生命誕生の時は1つの欠点になります.RNAはヌクレオチドが繋がったものですが、その繋がり方にはルールがあります.試験管の中で、酵素を使わないでRNAらしきものを作ろうとすると、ユニットを混ぜ合わせただけでは、天然型の結合をもたないものがたくさんできてきます.特別な仕掛けを考え出せば別ですが、原始の海の中で、RNAが最初の生命となるような大きさの分子になるには、ものすごい量の原料が用意されていないと、RNAとして働けるような分子は、山のような屑の中にほんの僅かしか存在しないということになります.そして、非天然型の結合の方がエネルギー的に安定で、不安定な結合をもったものだけが生命として働いているというところに、RNAの生理的な機能の秘訣があるのではないかと思うわけです.


BACK NEXT


Last modified 2009.12.15 Copyright(c)2005 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.