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第26回レポート
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第26回リーフレット

第26回 カフェ・デ・サイエンス


講師:  大島泰郎(おおしま・たいろう)
ゲスト講師:  河合剛太(かわい・ごうた)
日時:  2009年10月26日



異端児のみる生命「RNA」 BACK NEXT

RNAワールド説には問題が残っていますが、DNAがかつてRNAであったという説については、進化に関心のある生化学者や分子生物学者であれば、世界的にもまず疑う人はいません.直接的な証拠はまだないのですが、DNAがRNAから作られてきたという間接的な証拠は、生化学の現象として15くらい挙げることができます.最も分かりやすい例は、我々の体の中で、DNAの原料は必ずRNAの原料から作られているということです.

RNAとDNAの違いは酸素原子1個ですが、その酸素はヌクレオチドの糖の部分にあります.RNAではリボースと呼ばれる糖が使われ、DNAではリボースから1個の酸素を取り除いたデオキシリボースが使われています.我々の体の中では、最初にリボースが作られ、リボースから酸素を引き抜く酵素が働いて、デオキシリボースが作られます.それがDNAの材料になるわけです.

ヌクレオチドの塩基についても、同じようなことがあります.DNAにはチミン(T)と呼ばれる塩基が使われますが、RNAではチミンの代わりにウラシル(U)が使われています.この場合も、先ずウラシルができてからチミンが作られます.その逆はありません.ウラシルができるまでのステップは全て可逆的な化学反応ですが、DNAの領域に入ると不可逆になります.ですから、進化の歴史で、RNAからDNAになったという説は、私もそれで良いのではないかと思っています.

最後に、私自身が今行っている研究の話をしますが、これも異端児的なRNAの使い方をしています.皆さんもご存知のとおり、事件の犯人や親子関係を判別するのに、DNA鑑定が使われます.これには、PCRと呼ばれるDNAを増幅する方法が使われますが、その方法を一捻りすると、RNAも増幅することができます.今、我々の腸内にいる微生物を調べる研究が盛んに行われていますが、微生物そのものを調べるのは難しいので、そのDNAだけを採取し、それを増幅して調べています.私が調べているのは土壌中の微生物ですが、同じように、DNAを増幅して使っています.

ところが、最近、これでは駄目だということに気が付きました.何千年も前の遺跡やミイラの中に残っているDNAを調べることができますね.そのことから、土の中にあるDNAでは、もう死んでしまって、実際にいないものまで調べているのではないかと思ったのです.本当にそうなのです.実験室で培養していた大腸菌で調べてみると、死んでしまった大腸菌のDNAがかなり長い間残ることが分かりました.では、どうしたらよいかというと、RNAなのです.RNAは、生きているときに作られて、不安定ですから、すぐに壊れてしまいます.実際に、大腸菌をRNAで追いかけますと、大腸菌が死ねば、RNAも消えてしまいます.だから、腸内細菌の研究もRNAでやらないと、本当は死んでしまって居ないものを分析しているのではないかという疑いを持ち始めたところなのです.

このように、RNAは、研究の対象としても意味がありますし、それから、研究を進める上の手段として使うときも、DNAとは一味違った特徴がありますから、生命の主役とも言える重要な役割を果たしている分子だと思っています.

三井: 今日ご紹介する本は、河合さんが編集された『機能性Non-coding RNA』(クバプロ)です.専門的で少し難しいかもしれません.2006年に発行されていますから、研究はもっと先に進んでしまっているのではないかと思います.大島さんが書かれたご本では、『生命の誕生-原始生物への物質の進化』(ブルーバックス・講談社)をご紹介します.これは1973年に発行された本ですので、RNAワールドについては描かれていませんが、生命の起原に関する研究については、あまり進んでいないとのことです.RNAの原料が原始スープの中でできる可能性が示唆された論文が出たのは極最近のことですね.

河合: 『機能性Non-coding RNA』という本を2006年に出してから、研究はどんどん進んでしまいましたので、最近、新しい本を作っています.そこにはRNAワールドの章もあるのですが、その章を書いているときに、問題の1つとして、塩基と糖が繋がったものができる反応は難しくて、まだ見つかっていないと書いたのですが、今年の5月に、それができるという論文がNatureに掲載されて、原稿を書き換えることになりました.少しずつですが、そういう情報も増えているようです.

三井: お聞きのように、RNAの研究はどんどん進んでおります.では、ここで10分程お休みします.

(休憩)

三井: 再開します.大島さんがゲストの先生に代表質問をするところから始めるというスタイルが恒例になりましたので、今日も大島さんから河合さんへの質問から始めたいと思います.

大島: 最初の質問は、RNAが遺伝子として主役で働くのはウイルスのときだけですが、どうしてウイルスだけなのかということです.RNAを遺伝子としているウイルスは古いタイプであるとか、あるいはDNAからRNAに先祖帰りした生き物であるというような考え方ができると思いますが、どうでしょうか.

もう1つの質問は、RNAウイルスには怖いウイルスが多いような気がします.それは単なる思い過ごしなのかどうかということです.DNAウイルスにも怖いものがあることは知っていますが、RNAウイルスはヒトにも重篤な病気を起こしますし、農産物にも甚大な損害を与えるものが多いというのが、専門家であろうとなかろうと、そういう印象を持っている人は多いと思います.

河合: 大島先生とは、僕が学部の4年生の時から共同研究をさせていただいていますので、質問を受けると、審査されているような気がします.(笑)

個人的には、RNAウイルスは新しいと思っています.セントラルドグマというシステムができあがって、初めてRNAウイルスが存在し得ると思うからです.RNAの良いところは、DNA、RNA、タンパク質という流れの途中にいるので、ウイルスのRNAは、細胞に入った後、核に行かなくてもよいということです.細胞質の中にあるシステムを乗っ取って自分のタンパク質を作り、それから自分の分身であるウイルスを作って、どんどん感染していくことができます.DNAですと、核の中に行かなければ、RNAにもタンパク質にもなることはできません.このように、RNAウイルスが細胞に入ってすぐに複製できるというところが怖いところで、それがまた、彼らがRNAを使っている理由ではないかと思います.

三井: インフルエンザウイルスなどのRNAは、非常に変化しやすいので、生体の防御機能が追いつかないという怖さもあるのではないでしょうか.


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Last modified 2009.12.15 Copyright(c)2005 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.