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第26回レポート
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第26回リーフレット

第26回 カフェ・デ・サイエンス


講師:  大島泰郎(おおしま・たいろう)
ゲスト講師:  河合剛太(かわい・ごうた)
日時:  2009年10月26日



異端児のみる生命「RNA」 BACK

大島: 先程、一つ一つの生物種は、ジグソーパズルの中の1片だと言いましたが、地球の生命の世界は、天候や宇宙的な出来事などで常に力が加えられて歪みを与えられているような状態ですから、往々にして隙間ができます.生物の進化は、その隙間を埋めるようにして起こっているというふうに考えると、過去へ戻ることはできません.見かけ上は過去の性質をもったような生き物が出てくることはあるかもしれませんが、それは新しい隙間で生じた生き物にすぎません.従って、進化というのは一方的な流れであって、後ろへ戻ることはないという考えで良いのではないかと思います.

L: この先、RNAの種類はもっと増えるのでしょうか.

河合: 今までは、皆、タンパク質に目が向いていました.タンパク質は手で触れても壊れないことが多いので、普通に実験していても採ることができるわけです.ところが、RNAは普通の実験では壊れてしまって採ることはできません.だから、研究の網に引っかかってこなかったということもあると思います.研究を進めていくと、もしかしたら、もっと見つかってくる可能性があるかもしれませんが、今は何とも言えません.

三井: 河合さんの研究室では、どのくらい厳密に環境をコントロールしているのですか.

河合: 研究室には、「RNA部屋」というのがあって、そこに入るときは、白衣を着て、手袋をします.マスクはしませんが、大きな声では喋らない、机の上に向かって喋らないというようにしています.それから、外から持ち込んだものは実験台の上に置いてはいけません.実験台の傍に小さなテーブルがあって、ノートなどを置くときは、そこに置きます.ノートに触るときは手袋をせず、素手で持って置きます.手袋をしたままで、実験に必要な器具以外のものを触ってはいけません.冷蔵庫の把手をうっかり素手で触ろうものなら、大目玉を食らいます.そして、皆で、把手をアルコールで拭き清める.そのような管理をして実験しています.

三井: アルコールで拭くだけでよいのですか.

河合: 一番良いのは、アルコールをかけて火を燃やす(笑).実験室を最初に立ち上げるときであれば、部屋を焼いたりすることもあると思いますが、今それをやると、消防署に怒られますし、現に実験をしている部屋ですから、せめてアルコールで拭くということです.ガラス器具などは、絶対に素手で触らないということが大事で、触ってしまったものは、完全にタンパク質を分解する処理をしてから使います.

三井: 手袋はゴムですか.

河合: それぞれの好みで、ゴム手袋派とビニール手袋派とがいます.僕はビニール手袋派です.とにかく、直接触らないということが一番大事ですから、手袋に少しでも傷がついたら、潔く新しいものに変える.とにかく、かなり注意してやっています.

M: ヒトの中でRNAが制御しているユニークな例がありましたら、教えてください.

河合: 先程お話したRNAの性染色体の制御は最もよく知られている例ですが、短いRNAが制御している例はいろいろあります.短いRNAが最初に見つかったのはショウジョウバエですが、ハエが大人になっていく段階で大事なタンパク質を作るマスタースイッチがあって、そのスイッチを入れるとタンパク質ができるわけですが、そのスイッチの制御を小さなRNAがやっています.そのスイッチは細胞の分化をコントロールしています.

有名なiPS細胞というのは、4つの遺伝子のスイッチを切ると、何も分化しない細胞に戻るという仕組みを利用したものですが、その4つの遺伝子のうち、少なくとも1つの遺伝子は小さなRNAでコントロールされています.このように、RNAは根幹にある重要なところで働いていることが多いのです.ヒトの最初の細胞が、幾つかの細胞に分裂すると、内胚葉、外胚葉、中胚葉といった基本的な分化が起こりますが、そのときのスイッチの中にも仕組まれているということです.

三井: ミツバチの社会性にRNAが関係しているというお話はどうでしょうか.

河合: 10年程前に、ミツバチの社会行動を研究している人達が、例えば、8の字ダンスができないミュータントなどで、どの遺伝子が変異しているかを調べていたら、ターゲットとなるDNAの領域にタンパク質をコードする配列はないけれども、RNAはできてくるということを見つけたのです.そのRNAは、ミツバチの脳にあるキノコ体と呼ばれる組織で発現しているというところまでは分かっているのですが、そこで一体何をしているのかはまだ分かっていません.

D: 先生のご本の改訂版が出るのはいつ頃になりますか.

河合: 今編集しているのは、改訂版というより、教科書のようなもので、4月くらいまでには出版できるのではないかと思っています.RNAに関する情報は氾濫していますが、研究室に来た学生に、RNAについて勉強してもらうための教科書がありません.そこで、最先端のことを盛り込むところまではいきませんが、古典的なことから最近のことまで、現時点で分かっていることをなるべくたくさん盛り込んだ教科書を作ろうとしているわけです.

D: 楽しみにしています.

河合: ありがとうございます.早く出せるように頑張りたいと思います.

三井: 出版されましたら、財団のホームページにも掲載したいと思います.では、これで終了します.ありがとうございました.(拍手)


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Last modified 2009.12.15 Copyright(c)2005 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.