請川先生講演
1.始めに
2.エネルギー技術開発の考え方
3.地球温暖化とCO2対策
4.エネルギーセキュリティ技術
5.情報化社会とエネルギー
  (質疑応答)


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[図 2]

[図 3]

[図 4]

[図 5]

[図 6]

[図 7]

[図 8]

[図 9]
2.エネルギー技術開発の考え方
  まず最初のスライドをお願いします。今日は大きく、三つないし四つの話をしたいと思います。まず、短中期的にはCO2対策、 中長期的にはエネルギー安全保障(エネルギーセキュリティ)技術開発が大事であると考えています。本来、国がやることはここまでで、 後で申し上げますが、最後の情報化社会とエネルギーというのは、今申し上げました地球環境あるいはCO2対策、エネルギーセキュリティ とは全く性格の違う、市場原理に基づく技術開発で、つまりあっても無くてもいいような技術開発です。

  これは、我々がよく使う図です。 技術開発をする者が、技術開発戦略を考える場合、各々が自分たちの分野がどういう性格 をしているかを明確に意識している必要があると考えています。そのために、技術をいろいろな切り口で切り分ける必要がありますが、 これもそのひとつです。今日は情報分野の先生が多いので例がちょっと良くなかったと思いますが、あれば便利な技術とその裏返しである、 なければ困る技術があると思っています。あれば便利な技術の代表に情報技術を上げていますが、要はあってもなくても我々は死なない。あれば、 ものすごく便利で、市場経済に大きなインパクトを与えるような技術は、市場原理にまかせておけばいい。また、こういう分野は研究者が自分で 戦略目標を設定しやすい分野です。これに対比して、なければ困る技術分野は、安全、環境、エネルギーセキュリティという分野ですが、これは、 なければ我々の生活、生命、人類の存続に深く関係する分野だから、なければ困る。なければ困る技術分野だから、国民の生命に責任をもっている 政府が関与する。あるいは口を出す。口の出し方にはいろいろありますが、政策誘導とか、税制誘導、社会システム構築、原発のような国民的 コンセンサスをとるという方法があります。最近、石油石炭税が導入されましたが、税制が変わると、技術の役割が大きく変わります。 税制が一つ導入されただけで今まで比較的優位だったAという技術がBという他の技術にとって代わられることがあります。 極端にいうと、エネルギーの分野は技術の寄与はあまり大きくないのかもしれない。こういう分野で技術開発目標を正しく設定することは 大変困難です。
  地球環境とエネルギーセキュリティが大きな命題であるとすると、これを同時に達成する技術開発は何か、それを達成する最も 効果のある方法は何かということを考えて戦略を立てていかなければなりません。ここに環境の変化というのがありますが、今後21世紀後半 に向けて、資源制約と環境制約がどんどん厳しくなっていく、それから少子高齢化が進行する。それに対して産業構造、社会構造がどう変わ っていくべきか、それに必要な技術開発は、エネルギー分野ではなにか、こういう考え方でやっていくべきだと考えています。少子高齢化は、 厚生労働省は問題だと言っているが、個人的には大きな問題はないと思っています。今後20年近く、15歳から64歳までの労働適正人口の割合 は変わらないと言われています。何が変わるかというと、14歳以下の人口割合が減って、65歳以上の人口が増えるということです。ただ、今 の時代は富国強兵の時代ではない。最近、世界の豊かな国のランキングが出ましたが、1位はノルウェー、2番目はスウェーデン、3番目は オーストラリアで、日本は意外にも9番目に入っていました。富国強兵でいけば、中国が1番になるのは目に見えていると思います。そうでは なくて、個人、個人の生活がどれだけ物質的、精神的に豊かな国をつくることができるかというのが、国あるいは技術開発の目的となるべき だと思います。
さて、話はもとに戻りますが、今言っているように、エネルギーと環境の問題の一番の本質は人口問題であることは誰もわかっていながら、 みなさんあまり大きな声で言わないようです。エネルギーをどれだけうまく使うかということが、我々の使命であるエネルギーの安定供給と 環境保全の両立に資するということは間違いありません。では、そうするためにどうすればいいか。エネルギーの総合効率を上げるためには、 なにをやらなければならないか。現在一極集中型の発電所の効率は頑張ったところで、37〜38%、新設は42〜43%ちょっとですが、これを60%あるい は70%に持っていこうとすると、どうしても熱を使わざるを得ません。ところが、エネルギーの輸送というのは、物で輸送するのが最も効率が よい。つまり、天然ガスだとか石油だとかいうもので輸送するのが効率がいいわけです。次は送電線による電気の輸送が効率がいい。それでも、 我が国のような狭い国土でも、送電線輸送によるロスは6%にもなります。一方、熱の長距離輸送は技術的には全く不可能です。以上のことを考 えると当然、言われて久しいのですが、分散型のエネルギーシステムへの移行が不可欠となります。これの最大の欠点は、分散型であるが故に 環境対策が取れないということです。環境対策が取れないということは、きれいな、クリーンなエネルギーしか使えないということです。 ですから、必要なことは何かというと、分散型エネルギーシステムという技術開発、そのなかで熱を徹底的に使い切るカスケードリサイクル システム、分散型システムに必要な水素あるいはメタンのようなクリーンエネルギー製造技術、その輸送貯蔵技術、それからエネルギー源の 多様化技術、つまりエネルギーセキュリティのための技術開発の5つが必要になってくるわけです。
  これは、狭い日本で熱電比がどうなっているかを示しています。さきほど、熱と電気を一緒に使わなければいけませんよと、 言いましたが、熱は蓄えることが難しい。従って、できるだけ需要に合ったような熱と電気の製造割合を考えなければなりません。 この表にあるように、北海道は熱の割合が86%、沖縄が48%、東京、広島、福岡が66%で、茨城県が72〜73%と地域によってこれだけ変わってきます。
  これは筑波のご家庭にメーターをつけさせてもらって調べた例です。左端が、勤労所帯2名の集合住宅、結婚して間が無い新婚 さんが住んでいます。真ん中は勤労所帯4名の家庭、一戸建てで、屋根に太陽熱温水器がついています。右側は非勤労所帯2名、リタイアされ た老夫婦二人が住んでいます。使用電気量の変化を見て欲しいのですが、これは5月3日のゴールデンウイークの休みの日、朝10時くらいに起 きたことがわかります、お昼ごろ一旦外に出て、2時くらいに戻ってきて、また、夕方ちょっといなくて、8時ごろには寝ています。真ん中の ケースでは、温水器を入れていたため、電気の使用量の変化が小さくなっています。右端は老夫婦で、朝5時くらいに起きてほとんどずうっと 家の中にいたことがわかります。これから、何が言えるかというと、二つあります。一つは、先ほど、北海道の熱電比は、86%であるといいま したが、それは単に地域の平均であって、一戸一戸見た場合、相当大きく違う、これをどう平準化するかということは非常に重要な問題です。 二つ目は、こういう技術開発をする時データベースをとらなければならないが、データベースをとるとき個人のプライバシーがわかってしまう ため、非常に取りにくいということです。

  これは、代表的な家電の使用電気量を見たものですが、左上はホットカーペットで、オンオフがはっきり見えます。右上は洗濯機 ですが、最初、洗濯して、脱水しているのがわかります。下は炊飯器です。水が沸騰するまでずっと電気が入っていて、後、オンオフを繰り返 して保温になっています。このように元のデータを秒単位に取ってしまうと、プライバシーが丸見えになってしまって、非常にデータを提供し ていただきにくいということです。
  これはどう平準化していくかということですが、左側の図は、これはT社さんに協力していただいて取ったもので、T社さんの 社宅11件と37件についてまとめたものです。当然のことながら、件数が増えると平準化しやすくなります。だた、それでも秒単位に見るとこれ だけの電力需要の幅がある。これを例えばマイクロガスタービンで発電しようとすると、できるだけ定負荷運転したいわけですから、その定負荷 運転の真ん中のところの上下の部分この電力をどう貯蔵していくかという電力の貯蔵、熱の輸送という技術開発が必要になってくるわけです。
  これは、クリーンな燃料を使ってコジェネレーションをしようという場合の模式図ですが,この1軒の家だけでなく、何軒まとめて システムを組めるか。数が大きいほどエネルギーの平準化は楽になるが、数が大きくなると距離が長くなるので熱輸送ロスが大きくなる。 そのバランスをどうするか。ここにまた、自動車の絵があります。自動車が車庫に入っているということは、人も家にいるということです。 逆に、自動車が走っている時は、家には人がいないということになります。自動車を単なる輸送体ではなく、エネルギーの発生装置と考える ことができれば、将来は自動車と民生と輸送を一体化できる可能性があるということです。自動車が車庫にいるときには、エンジンを使って 熱と電気を発生させることも考えられるわけです。
  これは北海道の図ですが、色がついているところは新エネルギービジョンを策定した、あるいは策定しようとしている市町村です。 これは2002年7月の状況ですので、今はもっと増えているかもしれません。北海道の熱電比は86%で熱の割合が高い。今のMGと言われるマイクロ タービンにしてもやはり発電効率が低い。つまり熱の割合が高い。従って、現在の技術レベルでは日本の中で熱の割合が高いところほどシステム が組みやすいということになります。また、北海道の場合は、新エネルギーとして氷雪などが入ってきましたので、対策が組みやすくなっている。 こういうわけで、内地に比べて北海道は、新エネルギービジョンに従ったシステム化が進んでいます。

 
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