請川先生講演
1.始めに
2.エネルギー技術開発の考え方
3.地球温暖化とCO2対策
4.エネルギーセキュリティ技術
5.情報化社会とエネルギー
  (質疑応答)


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  (質疑応答)

  ○ 大戸
石炭はたくさんあって持ってきやすいが、石油はホルムズ海峡依存度が高く、セキュリティの点で問題があるというお話でした。そうすると、 今後は石油依存度を下げ、石炭をもっと使おうということになるのでしょうか。

  ○ 請川
日本は、IEAに加盟していますので、IEAとの約束で新設火力発電はつくらないということになっています。日本の長期見通しのなかでは石油 火力はどんどん減っている。後は天然ガスを増やしたいと考えています。また、原子力も増やしたい。当初20基と言っていたのが、13基に減っ ている。13基も危ない。しかし、それでは予想される日本のエネルギー需要増を賄えないので、足りない分は石炭で賄いたいと考えています。 これが、日本のエネルギーの長期見通しの考え方になっています。政府としては、今後予想されるエネルギー需要増に対する供給責任があると いうこと、また石炭が非常に安価であるということが理由です。現在の価格は、はっきりしませんが、ちょっと前は、石炭は山元でキロ1円前後、 日本の港着で5円程度でした。トンにして5000円前後です。ですから、産業界としては非常に魅力的なものになっているわけです。

  ○ 赤城
温暖化というのは、この地表から宇宙への1平方メートルあたり40ワットというわずかな熱の移動のバランスが微妙に狂ってきているということ が鍵であるというのは全く知りませんでした。さて、最初の方で、技術を「あれば便利な技術」と、「なければ困る技術」にわけられました。 あれば便利という技術の開発は市場原理でいけばいいということで、私どもも生活者が決めるということで納得できるのですが、なければ困る 技術の開発は、政策とかそういうものが関与してくるということで、決めたことの妥当性をどうやって判断するのか、これは非常に難しい問題 だろうと思います。我々は、エネルギー問題に関して定量的かつ全体的な知識を持ち合わせていないのではないか、例えば原子力発電を考えた 場合、長期的に見た場合のコストをどう判断するか、コストもその時の市場価格によって決まるので、市場価格が変われば需給関係も変わって くる、そういう情報がもっと分かりやすい形で公開されて広く討論されて決まるのかなと思うのですが、なければ困る技術開発の政策決定の妥当 性というのはどういう風に判断されるのでしょうか。

  ○ 請川
この問題については、私は回答を持ち合わせていません。恐らく、誰も持っていないのではないでしょうか。平成16年度の国の予算のうち、経済 産業省と文部科学省のエネルギー関連の予算は、約1.1兆円あります。石油石炭税が6000億円、それ以外に電源関連が5000億円くらいあります。 これが一体何に使われているかというと、大きいものが二つあります。ほとんど技術開発には関係ありませんが、原油備蓄、これに2600〜2700 億円使われています。もう一つは、電源立地、いわゆる原発誘致への見返りのお金です。やはり、原子力は、細かいところは別として、国は、 やらざるを得ないと考えていますので、それに対するお金は出すし、エネルギーセキュリティの関係上、今IEAによると約123日分の原油の備蓄 があると言われていますが、それへのお金は出すということになっています。原子力の廃棄まで含めたコストがどうというのは、多分誰にも分 からないと思います。安全に対するコストというのはその時の社会のコンセンサスに大きく影響されるので、今いくらというのはなかなか言え ないと思います。
全く話が変わりますが、JALの国際線のパイロットの方と話をした時に、飛行機は必ず落ちますと言われたことがあります。私は驚いて、それは どうしてですかと聞いたところ、その人が言うには、企業ですから安全は100%確保することはできません。いくらお金をかけても100%の安全は 確保できない。それではどうするかというと、安全対策にかける費用と保険会社に支払う費用を比較して安い方をとります。飛行機事故が多発 して、保険会社に支払う費用が増えると安全対策に費用をかけるようになる。一方、事故が起こらなくなると安全対策にかける費用が減ってくる。 これは仕方ないでしょうと言われたことがあります。今の原発の問題も、どう考えるかですが、原発の最終処分にどれくらいお金をかけると安全 かというと、100%安全ということはないので、なかなか答えることが難しい問題だと思います。答えにはなりませんが、非常に難しい問題だと思 います。

  ○ 田中
太陽光と火力発電の比較の図がありましたが、請川先生はあの図によると5年前後が交点であると言われましたが、今の太陽電池とか太陽光発電 が5年くらいしかもたないという意味に取っていいのですか。

  ○ 請川
いえ、そうではありません。あれは、産総研のLCA(ライフサイクルアセスメント)センターから借りてきたデータですが、ちょっと古いので、 現在はもっとかなり長くもっているはずです。ですから、太陽光発電が有利になってきているはずです。

  ○ 田中
あの図のなかに原子力が出ていなかったのですが、何か意味があるのですか。

  ○ 請川
原子力は、先ほどの質問と同じで、ライフサイクルの決め方が非常に難しいのです。今は、産総研の中でも原子力の研究は減ってきています。

  ○ 田中
今、問題になっているウランの再使用の話も、考え方としては電力会社さんのコストバランスから将来議論になるというだけの話ですか。

  ○ 請川
と思います。ただ、政治的な側面がそれ以上に強いかもしれません。

  ○ 田中
代替エネルギーということがよく言われます。例えばグリーンバイオとかその他の新エネルギーについて、違った角度からエネルギーが議論されて いますが、今のコストとかいろいろな条件から見ると、あれは全く非現実的な話になるのですか。

  ○ 請川
税制が変わると経済性が変わってきます。昨年、石炭にも税金がかかるようになりました。最終的には1040円、LPG、天然ガスはもう少しかかって います。石油には2040円かかっています。これはカロリーに比例してかけており、環境税ではありません。但し環境庁は、炭素税を考えているよう です。こういう税制がどう動くかによって、グリーンバイオのような新エネルギーの現実性、経済性が変わってくると思います。ただ、方向として は、その方向だと思います。

  ○ 山崎
大変目を開かれるようなお話、ありがとうございました。日本の場合は、火山も多く地熱に恵まれており、それから北海道のような地方では熱の 利用が高いということ、地熱は恒常的に出ているし、CO2は出さないし、代替エネルギーとして非常に可能性があるのではないかと考えているので すが、いかがでしょうか。

  ○ 請川
実は、あまり地熱は期待されておりません。なぜかというと、地熱のあるところはほとんど国立公園になっており、地熱によるエネルギー開発と いうことと環境破壊ということが裏腹な関係になっているからです。地熱は水がないとスチームとして取り出せないという問題点もあります。 高温岩体の方は、熱をスチームとして取り出した後、温度の回復に意外に時間がかかります。いずれにしても経済的、環境的に取り出せる地熱 エネルギーの量が非常に少ないこということで、風力発電に比べると期待度が低くなっています。日本は、風力発電の導入数は世界でも一番高 くなっています。

  ○ 山崎
風力発電は良く分かるのですが、これもまた景色のいいところにあるような気がして、その点では地熱発電と同じではないかと思います。 また、風力は風任せでエネルギーの安定供給に問題がある。特にこの辺りの風車はあまり回っていないように見受けられます。一方、地熱は安定 に供給されるのではないでしょうか。

  ○ 請川
風力発電の問題は、日本がヨーロッパに対して遅れをとっているということ、国際標準がヨーロッパタイプになっているということ、日本の風況 マップが、ヨーロッパと違って突風が多いということ、にもかかわらず、ヨーロッパタイプが国際標準の主導権をとっているため、ヨーロッパの メーカーが作った風車がだめだと言えない。ところが、日本で設置して使っていると突風、台風のため破損が多いんですね。これは、関係者は認識 しています。経済産業省自身は、風力発電技術は国の手を離れた、企業が十分な力を持っているので、後は民間にまかせるという方向になっていま す。

  ○ 山崎
高温岩体発電というのは、水を導入しなければならないという問題点はありますが、地下をボイラーにすればいいし、また石油採掘時の水 が流用できます。もちろん、環境との折り合いをどうつけるのかという問題はありますが、代替エネルギーとしては私は有望ではないかと思います が、いかがでしょうか。

  ○ 請川
私も、そのご意見に賛成なのですが、高温岩体用のビット先端部分は石油採掘よりは高温に耐えなければならないので、その辺の技術開発の問題が まだ残っていると思います。ダイヤモンドのビットなどを使っていますが、経済的に使えるところへは、まだ行っていないようです。

  ○ 唐津
一番初めのスライドで、技術を二つに分けて、国がやるもの、経済界にまかせるものと分類されておられましたが、国もまた経済体ですから、国が やるべき技術開発とは超長期のもの、短期的なものは経済活動にまかせればいい、と整理できるのではないかなと思いました。CO2の問題ですが、 地中の炭酸塩が循環しているものに比べると5,6桁高い量あるということですので、そこの影響をモデルの中に入れないと、ほとんど誤差範囲に 埋もれてしまうような議論になるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

  ○ 請川
私は個人的には専門ではないので、よく答えられないのですが、例えば、タイタニックが沈んだのは深海中の炭酸塩の影響ではないかという話も ありますし、火山によってメタンハイドレート層が分解して発生したメタンが原因だという説もあります。いずれにしても、桁がいくつも違う量 が海底に眠っているわけですから、これがどの程度安定的に眠っているのかということがわからないと、今の議論は意味がなくなると思います。

  ○ 唐津
逆にいうと、固定してどこかに放り込む方が現実的ではないかと思いますが、どうでしょうか。

  ○ 請川
CO2の隔離という意味ですね。実際にいくつかの方法について技術開発をやっていますが、実行されるかということとコストの問題があります。

  ○ 松江川
私、日経BPの松江川と申しますが、上司の宮田に代わってうかがっております。三つのことをお伺いしたいのですが、日本のエネルギー自給率が4% ということをお聞きしてびっくりしました。日本のエネルギー自給率がそこまで落ちてしまったのはいつ頃でしょうか。

   ○ 請川
いつごろか、ということについては、私もわかりません。この図は、日本が石油をどういうところから買ってきているかを示した図です。1975年当時 は、メジャーが7割、産油国の国営石油会社からの輸入は14%くらいだったのですね。今は逆転して、70%が産油国の国営企業から輸入しています。 そのために、経済産業大臣がお土産をもっていったり、頭を下げたりして、日本の政府として安定的に石油を輸入できるような方策をずっと取って 来ているわけです。たしかにおっしゃったように日本の自給率は低く、これは逆立ちしてもどうしようもないことですが、安定的に石油を輸入でき るようにする方策をずっと取ってきております。

  ○ 松江川
1975年の時点でもそれだけの石油の輸入をしていたということですが、自前のエネルギーの開発ということはしてこなかったのでしょうか。

  ○ 請川
流体革命が起こって、石炭から石油に代わった以降は日本の自給率はもう低くなっています。石炭を掘っていた時代はまだ自給率はもう少し高 かったと思いますが、太平洋炭鉱がなくなって石炭の自給はゼロになりました。

  ○ 松江川
CO2のペイバックタイムを算出する方法の図で、太陽光発電の線と化石燃料による発電の線が5年くらいの運用期間で交差していましたが、これは 経済産業省によるエネルギー需給の長期見通しと関係があるのでしょうか。というのは、エネルギー需給の長期見通しでは、2010年から今と変わ らないような需給予測が立てられていました。今から5年後というと2010年くらいになるので、関係があるのかなと思ったのですが。

  ○ 請川
データが古いので、あの図の5年というのは、忘れて下さい。あの図で私が言いたかったのは、技術開発の方向性を決める時にこういう考え方を しなければいけませんよ、ということだったのです。太陽光発電に関しては、セルと中心とする製造工程の省エネ技術開発が大事ですよというこ と、化石燃料による発電に関しては、エネルギー効率、送電単効率を上げる技術開発が重要ですよということを言いたかったのです。実は、今日 説明しませんでしたが、あの図の後に石炭の発電効率を上げる技術の例を入れてあったのです。

  ○ 松江川
石炭による発電効率を上げる技術というのは、クリーン・コール・テクノロジーと呼ばれるものですか。

  ○ 請川
それも、その中の技術の一つです。NEDOのお金でやっています。

  ○ 松江川
分かりました。どうもありがとうございました。

  ○ 垂井
サンシャイン計画は昭和49年にスタートしました。太陽光電池で発電しようということで通産省もずいぶん力をいれたのですが、エネルギー全体 に占める太陽光発電の量というのはまだまだわずかなものですね。あれを大幅に大きくする方法というのはないんでしょうか。宇宙で発電して マイクロ波で送ってくるという技術がありましたが、あのプロジェクトはまだ進んでいないのでしょうか。

  ○ 請川
それに関しては、私は情報を持ち合わせていないのですが、聞いていないということは進んでいないんだと思います。
それから、大戸さんからいただいた質問の中に、石炭の液化等でどれくらいのお金を使ったという質問がありました。私の記憶では、石炭液化は 昭和50年にスタートして25年間やりましたが、瀝青炭液化1000億円弱、褐炭液化が1100億円くらいで、合わせて2000億円くらい使ったのではない かと思います。

  ○ 戸
質問はつきないと思いますが、この辺で座談会をお開きにしたいと思います。請川さん、今日は本当にありがとうございました。

 
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